第210話 セーフティエリア開放条件
「…………あ? ゴミ騎士が、この俺様に何か用か?」
「異界人なら名前が見えているだろうが、俺は騎士ではなく、冒険者のウィル・バートランドという名だ。キミたちのクランのせいで、冒険者が通れずに困っている。悪いがセーフティエリアを開放してくれないか?」
ウィルは強めの声でジンに言った。
「ゴミ騎士の分際で俺様に意見を言うたあ、生意気じゃねえか」
ジンは椅子から立ち上がり、ウィルの前まで進むと、
「ああ?」
とウィルに顔を近づけて凄んだ。
(何を食ったらそんなデカくなるんだ)
ミズトはジンの大きさに少し驚いた。
身長は190cm前後。日本人にしてはかなり大きく、ミズトの知り合いの誰よりも高い。
体格も、プロの格闘家のようにがっちりしている。
普通に日本の街中を歩いていれば、誰もが避けて通りそうだった。
だが、ウィルも負けていなかった。
体格はほぼ同じで、ジンの威圧に少しも臆することはない。
「キミは何を勘違いしているのか知らないが、我々は冒険者代表としてここに交渉にきたんだ。まずはこちらの意見を聞くべきだろう」
「『神楽』に滅ぼされた負け犬の分際で、何を言ってやがる。勘違いしているのはてめえのほうだ。レベル67程度じゃ、俺様には勝てねえぜ?」
「勝ち負けは関係ないのだが、キミには力を見せる必要があるようだな。そういうことなら我々も分かりやすい。うちのミズトが相手をしてやろう」
(…………おい!)
ミズトはウィルを見上げると、真剣な表情のままジンを見ている姿が目に入る。
「ガーハッハッハッ!! このゴミチビが俺様と?! ゴミ騎士は冗談がうまいぜ! マジメな顔して面白えこと言いやがる!!」
「冗談ではない。力を見せるなら、俺より強い彼のほうがキミも納得するだろう」
「つまんねえこと言ってんじゃねえ! 俺様のクラスは『インパクトマスター』だ。マスタークラスの中で一撃の威力は最強だぜ? ウィザードなんざ一撃でバラバラだ。勝負になんざならねえよ!」
ジンは不機嫌な目でミズトを見下ろした。
(こういう展開、多くないか……?)
【ミズトさんを認めている方々は、ミズトさんに託したくなるものなのです】
(……もしかして、そういうスキルを持ってるとか?)
【他人から託されやすくなるという効果のスキルはございませんが、『創造神』の加護の影響は多少ございます。しかし、大部分はミズトさんの人となりによるものとお考えください】
(ん~…………)
ミズトはジンの視線にどう対応するべきか悩んでいた。
「ジンさん、そういうことなら俺にやらしてくれ!」
沈黙が少し流れた後、ケンスケが声を出した。
「なんだケンスケ。ゴミ騎士の言うこと信じんのか?」
「いえ、そういうわけじゃないですが、どうせ瞬殺なんで、俺がやっちゃいます」
「そういうことか……」
ジンは少し考える素振りを見せ、続けた。
「こいつは卍会ナンバーツーのケンスケだ。ゴミチビがこいつに勝ったら、セーフティエリアを開放してやってもいいぜ! どうだ?」
「いいだろう、交渉成立だ」
「待て待て、まだだろうが! こいつが勝った場合の条件がねえ! ケンスケが勝ったら、そのゴミチビはうちに入ってケンスケんとこの下につけ。レベル50なら悪くねえ」
「そっちが勝てばミズトは冒険者を辞め、キミたちのクランに加入する。こっちが勝てばセーフティエリアを開放する。それで問題ない」
「じゃあ決まりだ!!」
(おいおい……わざと負けてやろうか?)
【ミズトさんにまったくその気のない台詞は意味がありません】
(…………)
なんだか面倒なので、ミズトはジンも纏めて相手にしたくなってきた。
それから、丸坊主とパンチパーマの二人がテント内を少し片づけ、ミズトたちが戦うスペースを作った。
「おいガキ。まさかいい勝負になるとか思ってねえよな?」
ケンスケが、向かい合うミズトに言った。
「えっと……」
(俺やるって言ったか? マジやるしかないのか?)
ミズトは何一つ意見を求められることもなく、ケンスケという男と向かい合わされている。
クロは戦いが起こることを理解していないのか、ミズトの足元で丸まってくつろいでいる。
「てめえは無所属だから知らねえだろうが、クランに所属すると補正がかかんの知ってるか?」
「まあ……一応……」
(質問の多い野郎だな)
「クラン補正ってのはな、クランのランクが上がると大きくなる。うちみてえにランク4なら、所属メンバーの能力はレベル4アップしたと同じくらい補正がかかり、俺のような幹部になればレベル8相当上昇する。そこまでは知らねえだろ?」
「そうなのですね……」
(どうでもいい~)
「てめえは俺の舎弟になるんだ。教えといてやらねえとな!」
ケンスケは背に差していた剣を両手で構えた。ウォリアーらしい大きな剣だ。
(…………どうすっかな)
周りを見ると、ジンはニヤニヤと笑いながら見ている。
ウィルは腕を組み、ミズトと目が合うと首を縦に振る。
「おいガキ! てめえから魔法を撃っていいぞ! 魔法を使う前に負けたら納得しねえだろ!?」
ケンスケの声が段々と高揚している。
ミズトは仕方なくエレメントリウムの杖を構えた。
(なあ、エデンさん。『マジックシールド』で完全に防ぐんじゃなくて、致命傷になる一歩手前程度にダメージを減らすってこともできるよな?)
【はい、もちろんです。ミズトさんが放った魔法を、わたしなら完全防御から死なない程度までダメージの調整が可能です】
(そうか……)
ミズトは悩んでいた。
対人戦闘なら基本的に状態異常系の魔法を使うのだが、少し痛い目を見せてもいい気がしてきていた。
【ただし、残念ながらミズトさんがこちらの二人と戦うのは、少し後になります】
(ん? どういう意味だ?)
ミズトがエデンへ質問をし終える前に、誰かがテントの中に駆け込んできた。
「たいへんだ、ジンさん! 魔族とノワールの連中がなだれ込んできやがった!!」




