第200話 新しい依頼
ある日、タクマの店で昼食を終えたミズトは、久しぶりに帝都にある冒険者ギルドを訪れていた。
お金を稼ごうというモチベーションはほとんど無くなっていたのだが、やることがない事に苦痛を感じてきたのだ。
ポーションの材料はゴーレムが集め、調合はエデンがやる。もちろん家事をやるわけでもなく、大して娯楽もない。
そもそも目指していたスローライフという目標が詰んできたのだった。
【休日というのは、平日に働くからこそ謳歌できるのです】
と核心に近い事をエデンに言われた時は、腹立たしくも言い返すことができなかった。
(A級向けはさすがに無いか)
いくつもある巨大な依頼掲示板を回りながら、ミズトは目ぼしい依頼を探していた。
B級以上の依頼は貼られることが少なく、基本的には窓口で紹介を受けるのが普通なのだが、どうもそこまでする気にはなれない。
たまたま気の向くような依頼があれば受けようか、という程度でミズトは見ていた。
「おう、ミズト! 珍しいな!」
「ミズトじゃねえか! 久しぶりじゃん!」
「ミズト! なんかあれば声かけてくれよ!」
冒険者ギルド内を歩いていると、何人もの知らない冒険者から声を掛けられる。
エデンが言うには、革命鎮圧部隊としてセルタゴ共和国へ同行した冒険者らしいのだが、何一つ覚えはなかった。
やはり冒険者ギルドに来たところで、ミズトの苦痛が和らぐわけでもない。
ミズトは半分ほど貼り紙を見終えると、残りは諦めて帰ることにした。
「よ! ミズト! 暇か?」
またもやミズトは声を掛けられた。
「お疲れ様です、ウィルさん。お先に失礼します」
朝、タクマの店で会ったばかりのウィル・バートランドだと気づき、形だけ答えた。
「はははは、悪かったな! お前が暇じゃないわけないか!」
ウィルは立ち去ろうとするミズトの肩を掴んだ。
(決めつけてんじゃねえよ)
「ウィルさんこそ、こんな時間にいらっしゃるなんて、今日は依頼を受けなかったのですか?」
「いや、もう二つ済ませてきたとこだ。わりと簡単なのが多くてな。もう一つ受領はしてるんだが、そっちは明日からだから、今日は終了だ。ミズトは依頼受けたのか?」
「いえ……とくには……」
「そうか、そうか!」
ウィルはミズトの肩を掴んだまま、ニヤッと笑った。
*
翌朝、ミズトは帝都オルフェニアの西門外にいた。
この辺は開けた平地が広がっており、大陸の内陸部へ向かう大勢の人々が出発前の準備をしている。
これから冒険に出る冒険者パーティの待ち合わせ場所としても使われており、かなりの数の冒険者の姿も見える。
ミズトも、ウィルと一緒に二つの冒険者パーティと合流していた。
「『裂空の槍』のデイヴです! よろしくお願いします!」
そう声をあげたのは、十代後半ぐらいの青年。
レベル22の槍を使う『戦士』で、H級パーティ『裂空の槍』のリーダーのようだ。
『裂空の槍』のメンバーは他の五人も若く、レベルは18から24で、ダンジョンへの挑戦は今回が初めてだ。
もう一つのH級パーティ『幻影の方舟』もレベル20前後の若者たちで、ダンジョンは初挑戦。
ウィルが冒険者ギルドから受けた依頼は、彼らに付き添い、必要によりサポートや安全の確保をすることだった。
「俺はC級冒険者のウィルだ。こっちがA級冒険者ミズト。こちらこそよろしくな!」
「A級やC級の方とご一緒できるなんて光栄です! そちらの方は、いくら異界人とはいえ、その若さでA級に昇り詰めるなんてとても信じられません! 少しでも近づけるよう頑張ります!!」
デイヴは若者らしい輝いた眼をミズトへ向けた。
「はは……どうも……」
ミズトは枯れ果てた眼で答えた。
二つの若いパーティはお互い初対面で、一緒に行動するのではなく、別々でダンジョンに挑戦し、競い合うことになっていた。
同時にスタートして、ダンジョン攻略点が高い方がG級へ昇格するという昇格試験だった。
採点自体は冒険者ギルド証が勝手にやってくれるのだが、不正や危険防止のため高位の冒険者が一人ずつ立ち会うことになっているのだ。
もう一人の立ち合い者を探していた所、運の良いことにウィルは丁度ミズトを見つけたのだった。
「よし、全員揃ったところで、簡単に説明するぞ」
ウィルは話を続けた。
「これから向かう『グレイガント大回廊』は、ここから馬車で三日ほどの場所にある。ギルドから借りたこいつで向かい、着いたらすぐにダンジョン攻略開始だ。目標は地下二階攻略で、地下三階への入口を見つけること。『裂空の槍』にはミズトが付き、『幻影の方舟』には俺が付く」
ウィルは横にある馬車を指し示しながら言った。
「私が『裂空の槍』ですか!?」
反応したのはミズトだった。
「ああ、そうだ。基本的には何もせず同行するだけで良いが、命の危険があると判断したときだけ、彼らのサポートを頼む」
「いえ……そういうことでは……」
ミズトがこの依頼を受けた理由は、暇だったというのも、断りきれなかったというのもあるが、最も気になったのは片方のパーティ『幻影の方舟』が、異界人だけのパーティだったからだ。




