第197話 受ける感謝
痺れて転がっている強盗たちの処理や、助け出した女性たちの対応は全てウィルに任せ、ミズトはエイダと二人でタクマの店に帰ることになった。
「残念だったわね。ウィルさんばかり感謝されて」
途中、歩きながらエイダがそう言った。
エイダが言う通り、助け出した若い女性たちはミズトに礼を言うこともなく、皆ウィルに感謝していた。
ウィルが助けたと勘違いしたというより、ミズトが異界人だから礼を言わなかった方が近かった。
「いえ、感謝されたかったわけではありませんし、助けたのはたまたまですので」
「ウフフ、ミズト君らしい物言いね。でも、私はちゃんと感謝してるわ。ありがと、助けてくれて!」
エイダが満面の笑顔で言った。
「いえ、タクマさんに頼まれただけですので……」
ミズトはエイダから視線を逸らして答えた。
「ウフフ。そうなんだろうけど、いいの! ありがと! ありがと! ありがと!」
エイダは感謝を言う度にミズトの背中を叩いた。
(そう何度も言わなくても……)
【ミズトさんも、そろそろ感謝されることに慣れるべきです】
エデンが、エイダの居場所を吐いた以来の発言をした。
(んだよ、エデンさん。別に感謝されようがされまいが、どうでもいいだろ?)
【そうでしょうか? ミズトさんは誰かに助けられたとき、感謝もしないのでしょうか?】
(そんなこと言ってねえよ。助けてもらったら、感謝するのが当たり前じゃねえか)
【そういうことです】
どういうことだよ。とミズトは答えることなく、複雑な心境のまま歩き続けた。
*
「エイダッ!!」
店に戻ると、老婆がエイダの姿を見て声をあげた。
エイダは両手を広げた祖母の胸に飛び込み、声を出して泣きだす。
「ミズト、ありがとう。さすがだ! また君に助けられたな」
老婆とエイダに寄り添うように立っているタクマが、ミズトに感謝を述べた。
「いえ。無事に連れ帰ることができて私も良かったです」
つい先ほど感謝されることはどうでもいいと言っていたミズトだが、家族のような微笑ましい三人の姿を見て、少し胸が温かくなっていた。
「ところでミズト、ウィルさんはどうした?」
「あの方は、帝都内で暴動を起こした強盗などの処理をされています」
「そっか。あの人は何だかんだ言っても、正義の味方だからなあ。こういうことがあれば、率先して動くタイプだろうな。ミズトもそう思うでしょ?」
「え? はい、そういう方に見えました」
ミズトは僅かばかり、タクマに何か試されたような気がした。
「そっかそっか。ミズトもまたウィルさんに会えるといいな」
「ええ、まあ……。でも、そのうちまた店に来るんじゃないでしょうか?」
「店か……。たぶん、そういうわけにはいかないかな」
「? どういうことでしょうか?」
ミズトはタクマの反応が気になった。
「異界人の俺が、帝都内で店を借りるのはホントに大変なんだ。ここを借りるまで、どれだけ大変だったことか……」
「そうなのですね」
異界人への扱いを考えると、ミズトにも理解できた。
「ああ、だからこうなったらここは出て行かなけれならないだろうし、店を借りるのは当分無理だろう」
「え!? お店を閉めるんですか!?」
(それは困るんだが!!)
「そんな!? 辞めるなんて困ります!!」
話を聞いていたエイダが、タクマの元に駆け寄って言った。
「悪いな、エイダ。君には申し訳ないが、きっとそうなるだろう」
タクマはエイダの頭を撫でながら、優しく言った。
「そんな……じゃあ、タクマさんはどうするんですか!?」
「そうだな、どこかの料理屋で雇ってもらおうかと思ってる。料理をさせてもらえるか分からないけど、何でもいいから料理には関わっていたいから」
「そんなの……困ります……」
エイダがまた泣き出した。
(俺だって困る! なあ、エデンさん。俺が金出したら、タクマが出ていかなくても済んだりしないか? タクマの料理のためなら、いくらでも払うぞ?)
【残念ですが、金額に関係なくタクマさんの再契約はできないでしょう】
(じゃあ、他に貸してくれるとこはどうだ!?)
【すぐに貸してくれるところはございません。早くてもお店の再開は二年後になります】
(ふざけんな! 金に物を言わせて、この辺一帯を買い占めるってのはどうだ?)
【借りることならまだしも、この帝都で異界人が土地や建物を所有することは極めて難しいです。ただ、ミズトさんが協力すればタクマさんの店を再開させる方法がいくつかございます】




