第196話 紅虎一家
ミズトは女性たちを拘束している紐を切り、一人ずつに初級ポーションを手渡した。
「ミズト……君? あああぁぁぁぁん!!!」
エイダがミズトに抱きついて泣きだした。
「お待たせしました。お婆さんとタクマさんの元に帰りましょう」
ミズトはエイダの頭に手を置いて言った。
「二人とも無事なの!?」
「はい、お二人とも元気です」
(店は壊されたけどな……)
「良かった……あああぁぁぁぁん!」
エイダがまた泣き出した。
(こんな泣き虫だったのか……)
ミズトはエイダの新しい一面を感じながら、
「街は落ち着いたようです。皆さんも帰りましょう」
と他の女性にも声を掛けた。
「おい、コラ! てめえ、なにやってんだ!」
突然、倉庫内に怒鳴り声が響いた。
声の方向を見ると、倉庫の入口に四人の男が立っていた。
ステータスは四人ともレベル53の転移者。異界人だ。
「マジでどうなってやがんだ? まさかコイツら全員、この二人にやられたのか?」
「レベル67の元騎士と、レベル50のウィザードか。ザコのコイツらなら、それもありえるかもな」
四人は躊躇うことなく、倉庫内に入ってくる。
「お前たちがこの者たちの仲間か?」
ウィルから、異界人への嫌悪感が溢れ出てきた。
「仲間? んなわけねえだろ。ただ利用しただけだ。用が済めば始末して終わりだ。ギャハハハハ!」
「まったく、異界人ときたらいつも……」
「『紅虎一家』の皆さんが、彼らに暴れるよう頼んだのですか?」
ミズトがウィルの側まで出てきた。
「あ? コイツ、よく見たら無所属でレベル50だぜ。ソロでそこまで上がるわけねえし、どこかのクランから脱退でもしたのか?」
「申し訳ございません、質問をしているのは私の方です」
「おい、コラ。ずいぶん生意気なこと言うじゃねえか。やっちまうか?」
紅虎一家の一人が剣を抜いた。
「失礼しました。お一つだけでも伺いたいのですが、『紅虎一家』は他にどのぐらいいらっしゃるのでしょうか?」
「なんだコイツ? 質問ばっかじゃねえか。『紅虎一家』に俺たち四人以外のザコはいらねんだよ!」
「なるほど、四人だけみたいですね」
ミズトは四人に向かって歩き出した。
「お……おい、相手は同じ異界人だ。いくらキミでも戦えないだろう?」
「何を言っているのでしょうか? 異界人かどうかは何ひとつ関係ありません」
ミズトは、肩を掴んできたウィルに答えた。
「関係ないって……そんなわけ……」
「ウィルさんは、あまり異界人と関わらない方が良さそうです。ここは私にお任せください」
ミズトはウィルの手をゆっくりと払い、再び四人へ歩き出した。
「おいおい、コイツ、一人で相手するつもりか? バカなんじゃねえの?」
「どうやらザコどもを倒して、何か勘違いしだしたんだろうよ。俺らがザコどもと違うことを理解させてやるか」
他の三人も武器を抜いた。
ミズトは四人の動きなど意に介さず、つい先ほどと同じようにウィルが見失う速度で動くと、一瞬で四人を床でピクピクとさせた。
「ちょっと待ってくれ……。キミは同じ異界人相手でも……戦えるって言うのか……?」
ウィルが、驚きながらも真剣な表情で言った。
「先ほども申しましたが、異界人かどうかは関係ありません。やはりウィルさんは、相手が異界人かどうかで対応が変わるのでしょうか?」
(どう見ても異界人嫌いだしな)
「!? お……俺が……異界人かどうかで変わるだって……?!」
ウィルは、何か追い詰められた表情のままミズトに近づいてきた。
その気迫に、思わずミズトが一歩下がりそうになるほどだ。
「その通りじゃないか!!」
「はい?」
ミズトは両肩をウィルに掴まれ、すっとんきょうな声を出した。
「キミの言う通りだ!! 俺こそ異界人に固執し、異界人への拘りが捨てられないんだ! ところがキミはどうだ?! 異界人かどうか関係なく、俺を助け、タクマを助け、老婆や彼女たちを助けた!」
「ええ、まあ……」
(手え放してくれないかな……)
「異界人かどうか関係なく、強盗たちを倒し、その四人を倒した!」
「ど、どうも……」
「それが当然じゃないか! 異界人かどうか関係なく、傷ついた人たちを見て怒るキミこそ正しい! 困っている人たちがいれば助ける! 傷ついた人たちがいれば彼らのために戦う! それこそ当たり前で正しい姿だ!!」
(正しいとかはちょっと……)
「そうなんだ! 俺が止めるべきはヒロや『神楽』であって、異界人なんかじゃない! 俺から全てを奪ったのは異界人じゃないんだ! だよな!!!」
「はい……」
(なんのことだか分からんが……)
「あははははははっ! まさか俺が異界人に教わるとは! いや、それも俺の区別だな! あははははははっ!」
ウィルはミズトから手を放し、腹を抱えて笑いだした。
(この男……大丈夫か……?)
「キミ、名前はなんだっけ?」
「ミズト・アマノと申します」
ミズトは反射的に答えた。
「ミズト、キミはいったい何なんだ? 能力も性格もハチャメチャ過ぎて、ミズトを見ていたら頭の中の何かが吹っ飛んだんだ! ずっとズレて拘り続けた自分が、おかしくてならないんだ! ありがとうな、ミズト! あははははははっ!!」
「いえ、どういたしまして……」
(俺のどこがハチャメチャだっていうんだか)
ミズトは笑い転げている元騎士を見て、何故か好感を持っていた。




