第195話 港近くの倉庫
街中ということもあり、ミズトは全力で走るわけにはいかなかったが、それでもそれなりの速度で向かっている。
そんなミズトにクロは当然として、ウィルも遅れることなくついて来ていた。
「キ、キミ! どこへ行けばいいのか分かったのか?!」
ウィルが当たり前の疑問をミズトにぶつけた。
「はい。どうやら港近くの倉庫にいるようです」
本当はウィルのことなど無視しても良かったのだが、タクマの友人であり、エイダのことを本気で心配していることは感じ取っていたので、ミズトは素直に答えた。
「そ、そうか。なら良かった……」
色々疑問があるが、異界人特有のスキルやアイテムがあることを知っているウィルは、それ以上は聞かないようだった。
エデンから教えてもらったエリアに着くと、ミズトは気配で目的地を把握した。
たくさんの悪意ある人物が集まり、弱っている人々の気配も感じる。その中には微かにエイダの気配もあった。
「キ、キミはウィザードのわりに物凄い身体能力だな……」
息が上がっているウィルが、息一つ切らしていないミズトに言った。
「クゥゥゥン」
同じく息一つ切らしていないクロが、心配そうにウィルを見上げる。
「はは、お前も疲れてなさそうだ。まさか俺が足を引っ張るとは」
ウィルは申し訳なさそうに笑うと、クロを撫でた。
「それよりも、連れ去られたエイダさん達はあの倉庫にいるようです。中には大勢の強盗どももいるようなので、ウィルさんはこちらでお待ちください」
ミズトは大きめの倉庫を指差して言った。
「ん? ちょっと待て! 何を言っているんだ? 俺も行くに決まっているだろう! いくらキミが優秀なウィザードだとしても、魔法使い系一人は危険だ! 装備も借りていることだし、俺も十分に役立つはずだ!」
「…………」
ミズトは剣と盾を構えてみせたウィルに視線を送る。
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ウィル・バートランド LV67
種族 :人間
加護 :水の精霊
クラス:元エルドー王国騎士(熟練度8)
ステータス
筋力 :C(+C)
生命力:B(+C)
知力 :E
精神力:D
敏捷性:C
器用さ:D
成長力:C
存在力:A
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(元エルドー王国騎士ねえ……たしかに帝国騎士と比べても遜色ないが)
「失礼いたしました。決して役に立たないと思ったのではなく、私の知人の救出なので、関係者以外の方を巻き込むことは出来ないかと考えました。ご助力いただけるのでしたら、是非ともお願いいたします」
「そ、そうか。タクマの友人なら、俺も関係ないわけではない。防御は任せてもらおう!」
ウィルがもう一度『正義の盾』を掲げると、ミズトはとてつもなく防御力が上昇したことを感じとった。
どうやらパーティを組んだことになったようだ。
それからミズトとウィルは、強盗たちのいる倉庫に入っていった。
ウィルが警戒しながら先頭を進もうとしていたが、ミズトは何の躊躇もなく正面から倉庫の扉を開け放つ。
その様子をウィルは不思議そうに見ていた。
「なんだ、てめえら!?」
扉近くにいた強盗が、ミズトたちに声を荒げた。
ミズトはそれを無視し、周囲を確認しながら進んだ。
倉庫の中の強盗は百人ほどで、レベルは20から30台。
奥には、紐で拘束された若い女性が二十人ほど見えた。エイダの姿もある。
「だから、何者だって言ってんだろうが!!」
強盗は怒鳴りながら、近づくミズトに斧で斬りかかった。
「キミ! 下がれ!」
無警戒のミズトに、ウィルが慌てて声を出した。
しかし、その心配も無用で、強盗の斧はエデンが出現させた小さな円形の魔法壁で防がれた。
当たったところで今のミズトにダメージはないのだが、エデンがミズトの身体に命中させることを許さなかった。
「なんだと!?」
強盗はすぐに何度も斧を振り下ろすが、すべて魔法壁で防がれる。
「パラライズ」
ミズトは、眠らせるのも気絶させるのも気に食わず、相手が痺れて動けなくなる魔法『パラライズ』を使用した。
しかし、初めて使ったため加減が分からず、強盗は動けなくなるどころか、泡を吹きながら気絶していた。
「てめえ、何しやがる!!!」
百人ほどの強盗が武器を構えた。
「今のは『パラライズ』という、基礎クラスの『魔法使い』が習得できる魔法です」
ミズトは足を止めずに答えた。
「な、なにを言ってやがる!?」
無造作に進んでくるミズトに、強盗たちは得体の知れない違和感を覚えて戸惑いを見せた。
「キ、キミ……!」
ウィルも同じような印象を受けながら、慌ててミズトを追いかけた。
それでも足を進めるミズトに、強盗の一人が声を出した。
「ま、待て! てめえは異界人だろ? なんで異界人が俺たちの邪魔みたいなことするんだ!?」
(ん?)
ミズトは言葉の意味が分からず足を止め、声を出した強盗に目を向けた。
「お、俺たちは、てめえら異界人に頼まれて暴れたんじゃねえか! 言われたとおりやってんだから、邪魔される覚えはねえ!」
(異界人に頼まれた……?)
改めて強盗を見回しても、百人の中に異界人は見当たらない。
奥の女性たち周辺にもいないようだ。
「ま、まさか女が欲しいのか!? たしかに女を攫うことは頼まれてねえ! 欲しいなら一人二人なら譲ってやるが」
奥を見ていたミズトに、その強盗は言った。
「そうですね。では女性は全員いただきましょうか」
「は? ふ、ふざけるな! もういい、たった二人だ! やっちまえー!!」
百人ほどの強盗が、一斉に襲い掛かってきた。
「数が多い! キミは下がって!」
ウィルが盾を構えてミズトの前に躍り出た。
しかしミズトは、ウィルの横をすり抜け前に出ると、
「こういう方たちは、ただ捕まえるだけでは物足りません」
と言って、レベル67のウィルですら見失う速度で消えた。
そして、百人ひとりひとりに『パラライズ』を掛け、奥にいる女性たちの元へ移動した。
強盗たちはその場で同時に倒れると、ピクピクと痙攣している。ただ、今度は気絶させない加減が出来たようだ。
「な、なんだ、今のは……!?」
何を見たか理解できないウィルは、呆然と立ち尽くしていた。