第190話 タクマの知り合い
「ミズト!」
店の近くまで行くと、タクマがミズトを見つけて声をかけてきた。
どうやら店の前で、誰かと話しているようだった。
「タクマさん、ただいま戻りました。今日はまだ開店されていないのですか?」
「ちょうど良かった! ミズト、実は君に紹介したい人がいるんだ!」
タクマはそう言ってから話していた男性を見ると、
「ウィルさん、彼が先ほど言ったA級冒険者です」
と笑顔で言った。
(ん? ウィルって)
【先ほどアリヤンさんのお店でお見掛けした方です】
(だよな……)
ミズトは彼が、異界人である自分を見て、逃げるように去っていった白人男性だとエデンに確認した。
あの反応を見る限り、異界人を嫌い、差別している人物だと思っていたのだが、何故かタクマと知り合いのようだった。
しかも、タクマが見せている笑顔は、彼への信頼から出ているように見えた。
「悪いな……タクマ……。もう遅い……もう遅いんだ……!」
ウィルと呼ばれた白人男性は、一瞬だけミズトを見てからタクマに背を向けると、ミズトが近づく前に去っていった。
(なんだよ、またかよ……)
ミズトはいくら嫌われてもどうでも良かったのだが、それがタクマの知り合いとなると、ちょっと心に引っ掛かった。
「ウィルさん……」
遠ざかる白人男性の背を見ながら、タクマが漏らした。
「すみません、邪魔してしまったようで……」
「いや、いいんだ……。むしろ丁度よかったよ。ミズトとウィルさん、一瞬でも二人を会わせることができて」
「?」
「いや、今日はこれでいいってことさ」
タクマはミズトに向きなおった。
「どうも私は嫌われてしまったようですね。タクマさんのお知り合いですか?」
「うん、まあね。俺がこの世界に来たばかりの頃からのね。別にミズトのことを嫌っているわけじゃないさ。ウィルさんは異界人すべてを嫌っているってだけ。でも悪い人じゃないから、気にしないでもらえると助かる……」
タクマは寂しそうな表情で言った。
ミズトはタクマの言っている、悪い人じゃないというのは分かっていた。
彼からは一つも悪意を感じない。それに、態度であれほどミズトに対して嫌悪感を表しているのに、感じ取れる嫌悪感はミズトに対してではない。
何故か、彼は自分自身に対して嫌悪感を向けているように感じるのだ。
そのせいで、ミズトの彼への印象は、悪いものではなかった。
さらに付け加えると、ミズトにとってウィルという男性はどうでもいい存在なのだが、タクマにとっては大切な人物なのだと感じるので、悪く思うことはなかった。
それから、ミズトは開店前の店内に通された。
食事をご馳走するから、タクマがミズトの話を聞きたいと言うのだ。
タクマの料理を餌にされると、ミズトはホイホイついて行ってしまうのは、どうしようもなかった。
タクマが聞いてきたのは、革命鎮圧についての話だった。
さすがにタクマも、自分が革命鎮圧参加に説得した形になって、責任を感じているのかもしれないとミズトは思った。
ミズトは安心させるつもりで、革命軍がただ抗議のために集まった普通の人々であったことを伝えた。
「そっか、やっぱり危険はなかったのか。じゃあ誰も犠牲になることはなかったんだな?」
(やっぱり?)
「いえ、それが帝国軍からは犠牲が出てしまいまして」
ミズトは黒騎士やグリノス系モンスターについて説明した。
「レベル81の黒騎士とグリノス系モンスター……!? 聞いたこともない話だな……。それで紅蓮騎士が率いる帝国軍でも犠牲者が出たってことか……。となると、紅蓮騎士がいなかったらミズトでも危険な目に合ったかもしれないな……」
「活躍したのは紅蓮騎士だけではありません」
「?」
「共和国の宰相をされているユウマさんも、黒騎士拘束に貢献されていました」
「ユウマ兄さんと会ったのか!?」
ミズトと向かい合って座っていたタクマが、立ち上がって言った。
「はい、少しだけお話させていただきました。ユウマさんは紅蓮騎士や冒険者と協力して黒騎士と戦っていました。しかもその姿は、革命軍の人々の信頼を勝ち取って革命鎮圧に繋がりました。とても素晴らしい方です」
ミズトはタクマの機嫌を取るようにユウマについて語った。
「そうか……やっぱ兄さんも頑張ってるんだ……! それで、話しているうちに俺の兄だって分かったのか?」
「はい、ユウマさんと話していて、帝都にいる弟のタクマさんの店に行ってほしいと勧められました」
「うちの店に!? それで、それで他に何か言ってなかったか!?」
タクマは掴みかかってくるのかと思うほど前のめりで言った。
「え? えっと……」
(なんだったか……)
【『お前の思いを叶えるのは僕じゃなかったけど、叶える力をしっかり見届けたって!!』です】
エデンがユウマの言葉を繰り返した。
「たしかユウマさんは――――、タクマさんの思いを叶えるのは自分じゃなかったけど、叶える力をしっかり見届けたようなことをおっしゃっていました」
「なんだって!!? そうか……そういうことか……。あの兄さんが自分以外を認めたってことは、俺が探し求めていたのは間違いなく……」
「何か探されていたのでしょうか?」
「いや、こっちの話だ。ありがとう、ミズト。君に行ってもらえて、兄さんと話してもらえて助かったよ!」
タクマは先ほどウィルという男に見せたものと同じ笑顔で言った。




