第182話 異国の地での再会
「なっ……!?」
声を掛けてきたのは、料理屋から出てきた異界人だ。
「ウィルさん! ウィルさんですよね!?」
「お前……やっぱり……タクマなのか……?」
ウィルの知っているタクマより少し大人びていたが、間違いなく知っている人物だった。
「はい、タクマです! エルドー王国でお世話になった、タクマ・サカキです! 良かった……ウィルさん、生きていたんですね!」
「ああ、もちろんだ。四年ぶりぐらいか……。お前こそ……そうか……とうとう自分の店を持てたんだな」
ウィルはもう一度タクマの店の看板を見上げた。
「はい! エルドー王国で店を持つ夢は叶いませんでしたが、ここでなんとか! ウィルさんは帝国へ移住されたんですか!?」
「ああ……数か月前から、帝都内の採掘場で鉱夫をやっている。ちなみにアレックスたちも帝都に住んでいるぞ」
「アレックスさん!? アレックスさんもご無事なんですね! 良かった……本当に良かった……」
タクマが本気で心配していたのだと、ウィルは表情で読み取れた。
「そういえば王国を去る際、セレニア共和国にいる兄を尋ねると言ってなかったか?」
「ええ、一度兄さんのいるセレニア共和国には行ったんですが、兄さんは兄さんなりに頑張ってたんで、俺も俺なりに頑張らないとと思って、帝都に住みつくことにしたんです」
「そうか、お前なりに頑張っていたんだな」
ウィルは優しい笑顔を向けた。
「ウィルさんの方こそ、三年前にあれが起こってから、今までどうしてたんですか!?」
「三年前か……。お前の耳にも届いたんだな……」
「ええ、あれは俺たち異界人だけじゃなく、この世界の人々にとっても衝撃的なことでした。当時はここ帝都でも、大きな話題になってました」
「三年前……俺はアレックスの家族を連れて王国を去った。そしてあちこちと移り住み、数か月前にここへ辿り着いたって感じさ」
ウィルの目から感情が消えた。
「片脚を失ったアレックスさんを、ウィルさんが支えていたんですね。ウィルさんらしいや……」
「…………」
「もしかしてウィルさんはまだ……俺たち異界人を許してくれてないんですか……?」
タクマはウィルの表情を確かめながら訊いた。
「…………」
「もしかしてまだ……ヒロさんたちを恨んでいるんですか?」
「すまんな、タクマ。俺は、俺から全てを奪ったヒロたちを、お前たち異界人を許すことはない……」
「たしかに五年前のヒロさんたちが起こした事件で、アレックスさんは片脚を失ったかもしれません。三年前については、何が起きたのか詳細は知りませんが、だいたい想像がつきます。だからウィルさんの気持ちも俺には分かります。でも……ウィルさん! あなただけは、あなただけは変わらないでほしい!! 昔のウィルさんに戻ってほしいんです!!」
タクマは訴えるような目でウィルへ言った。
「…………四年前、王国を去る時も似たようなことを言っていたな。だが、俺の気持ちは変わらん。昔の俺が語った理想なぞ、夢物語に過ぎなかったんだ」
「そんなこと言わないでください! 俺は諦めてません! 王国でウィルさんと一緒に語った夢を、いつか実現できると信じてるんです!!」
タクマは思わずウィルの片方の手首を掴んだ。
「タクマ、お前は相変わらずのようだな。お前ならきっと、この街の人々と共存していくことが可能だろう。だが、全ての異界人がお前のようになることは不可能だ。お前たち異界人を導くヒロが、この世界と敵対している限りな!」
「ウィルさん……」
「それに、ヒロたちと言えども世界騎士団には勝てん。そのうち『神楽』が世界騎士団に潰されたとき、お前たち異界人は、この世界を恨むようになるだろう。そうなれば、この世界の人々と異界人の対立は決定的になり、平和に共存するなんて儚い夢は、消えてなくなるはずだ」
ウィルは悲しそうな表情をタクマに見せた。
「分かってます! だからこそ、ヒロさんを止めるのは同じ異界人であるべきだと思ってます!!」
「それが無理なことはお前も分かっているだろう。ヒロは、お前たち異界人の中でも特別なのだと」
ウィルは優しくタクマの腕を振り払った。
「それがいたんです! ヒロさんを止めることが出来るかもしれない、そんな希望の持てる二人に俺は出会いました!」
「なに……?」
ウィルは少し興味を示した。
「二人とも、異界人ではなくこの世界の人を連れて、この店にやってきました。あの二人は異界人だけじゃなく、すでにこの世界の人々と普通に打ち解けて共存していたんです!」
「その程度……探せば多少はいるだろう……」
「もちろんそれだけじゃありません! 希望が持てるのは、その能力もです!」
「何を言っている。いくら能力があろうと、あのヒロには……」
ウィルはタクマから目を逸らし、空を見上げた。
異界人ヒロがエルドー王国にやってきたのは、あの事件の半年ほど前。
その時『鑑定球』を使って見たヒロのステータスの衝撃を、ウィルは今でも覚えている。