第179話 帝都中心部
ある日、ウィルは鉱夫仲間から、ポーション屋の噂を聞いた。
最近、帝都内で大きな話題になっていて、どうやら最高品質のポーションを扱っているようなのだ。
ポーションの品質は、高品質・普通・低品質の三種類というのが一般的。
稀に最高品質があるとウィルも聞いたことはあったが、実際に実物を見たことはない。
それがポーション屋で販売しているとなると、皆が騒ぐのも当然だ。
ウィルは鉱夫仲間からポーション屋の場所を詳しく聞きだし、休日に訪れてみることにしたのだった。
「帝都の中心部なんて久しぶりだな……」
通りを行く人のあまりの多さに、ウィルは思わず声を漏らした。
噂のポーション屋は大通り沿いにある話だった。
ウィルはアレックス達と帝都に移り住んで以来、ほとんど帝都の中心部へ来ることはなかった。
住んでいるエリアが中心部より離れているので来る理由がないのだ。
それに、これだけ人がいると、どうしても異界人が視界に入ってしまう。彼らを見ると、心穏やかでいられなかった。
「なあ、今の奴の所属見たか?」
「ああ、見た見た。なんで『日本卍会』の奴が帝都にいるんだ?」
「あいつ『チーム世紀末』の奴じゃなかったか?」
ウィルは数人の異界人とすれ違った。
気にしないようにしても、無意識に気にしてしまう。
この世界には、すでに数千人の異界人がやってきていると言われている。
この帝都にはもちろん、ウィルが生まれ育った王国にもたくさんの異界人がいた。
彼らは皆『天使の加護』を持ち、最初からステータスが高い。
天使より下位にあたる『精霊の加護』を持つこの世界の人々にとって、異界人はそもそもが受け入れがたい存在であった。
それに加えて異界人は、異界人だけの社会に閉じこもり、この世界の人々と打ち解けようとしない傾向がある。
異界人同士だけで生活し、この世界と関係を築こうとしないのだ。
それゆえに、異界人とこの世界の人々の争いは至る所で起こり、ウィルはそれを散々見てきた。
この帝都でも、視界に入る異界人はやはり異界人だけで活動し、この世界に壁を作っているように感じる。
異界人が帝都の人々と揉めている場面を見たこともあるし、異界人が帝都内で冒険者を殺害したという、とんでもない話も耳にした。
異界人に嫌悪感を持つウィルは、より一層異界人を嫌悪し、必要以上に意識してしまっていた。
それから、歩いているだけで気疲れする帝都を進んでいると、信じがたいことにウィルは街中でモンスターと遭遇した。
それは脇道から突然現れ、ウィルと衝突しそうになった。
百戦錬磨のウィルは、それが強力なモンスターだとすぐに分かったが、武器どころかつるはしも持っていない状態だ。
とても素手で戦えるような相手ではないと直感し、一瞬で死を覚悟した。
「くそっ……なぜこんなところにゴーレムが!?」
ウィルは両腕を交差させ、防御態勢に入った。
しかし、想定していたタイミングで攻撃は来なかった。
ウィルは真上以外からの攻撃を警戒し、防御態勢のまま左右に視線を送った。
それでもやはり攻撃は来ない。
「…………」
ウィルは、恐る恐る腕の隙間から覗き込み、ゴーレムを探した。
すると、目の前にいたはずのゴーレムが、いつの間にか遠ざかっていくのが目に入った。
それも、不思議なことにモンスターのはずのゴーレムが、周りを攻撃することなく、ただひたすら歩いているように見えた。
そして、何故かその周りにいる人々は、ゴーレムを怖れることなく、気にすらしていない様子だった。
「どういうことだ……?」
その光景にウィルは混乱した。
もしかするとウィザードが生成したゴーレムの可能性も考えたが、『クリエイトゴーレム』は戦闘中にゴーレムを生成して、戦闘に参加させる魔法。街中で使用するようなものではないのだ。
ウィルは答えが出ないまま、しばらくその場で立ち尽くしていたが、帝都の様子に変化はなく、先ほどの光景がなかったかのように時間が流れていくため、警戒を解いて、また歩き出した。
見間違いなわけがないのだが、あまりにも帝都の街に異変を感じないので、何かに化かされた気分になっていた。




