第177話 ユウマとの親交
「ミズト氏へのお願いは、帝都に戻ったら、弟のタクマの店に行って会ってほしいんだ!」
「タクマさん?」
(あら……? 弟……?)
【タクマさんのフルネームは、タクマ・サカキです】
エデンが補足した。
(…………)
「弟とは三年ぐらい会ってないけど、あいつはきっと店を出して、あいつなりに帝都で頑張っているはずなんだ! 兄の僕とは方向性が違うけどね!」
「えっと……タクマさんというのは、料理人のタクマさんですか?」
ミズトは一応確認した。
「!? もしかしてミズト氏、知ってるの!?」
「はい、タクマさんにはいつもお世話になっています」
「そっか……やっぱり、あいつが探していたのは……」
「探していた?」
「いや、こっちの話だ。知ってるなら話が早くて助かるよ! タクマに会ったらよろしく伝えておいて! お前の思いを叶えるのは僕じゃなかったけど、叶える力をしっかり見届けたって!!」
「はい……」
ミズトはユウマの言葉の意味が分からなかったが、兄弟には伝わるのだろうと、口を挟むことはしなかった。
「じゃ、ミズト氏、ここでお別れだ!」
ユウマは握手を求め右手を出した。
「はい、お世話になりました。またよろしくお願いします」
ミズトが手を握ると、ユウマはそのままミズトを引き寄せハグをし、左手でミズトの背中を軽く叩いた。
ミズトも仕方なく、同じようにユウマの背中を軽く叩いた。
(まったく……この世界に染まり過ぎなんだよ……)
ミズトは笑顔で手を振るユウマに手を振り返しながら、共和国首都セルタゴを後にした。
【ミズトさん、ただいまの会話で限定クエストが完了しました。たまにはログを表示しても良いでしょうか?】
ユウマと別れて数分も経たないうちにエデンが伝えてきた。
(なんだよ急に。藪から棒だな……)
【せっかくなので、今回の限定クエスト発生時のログを改めて表示しても良いでしょうか?】
(なんか意味があるってことか? あんまり興味ないけど、そこまで言うなら……)
【ありがとうございます。クエスト発生時のログを表示します】
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◆限定クエスト発生◆
クエスト名:ユウマとの親交
革命鎮圧部隊に参加し、タクマ・サカキの兄ユウマ・サカキと友好関係を築いてください。
報酬:経験値1,000,000
金100,000G
クランの欠片③
武器強化オーブ×3
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(ユウマとの親交……?)
思ってたのと違った。
*
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ユウマ・サカキさんがスマイルファミリーを解散しました。
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それから半月後、ユウマは宣言通りクランを解散し、一人で街を出ていった。
もちろん『スマイルファミリー』のメンバーは解散を強く反対し、街を出るユウマについて行こうとしたが、結局はユウマの思いを尊重し、彼を一人で行かせることになった。
それを最後まで反対したのは、中年男性のトオル・コガネイだけだった。
「んだよ、ユウマのガキが! 散々目を掛けてやったのに、クランを解散させて、街を出て行くなんてよ! 今までの苦労が水の泡じゃねえか! クソ腹立つな!!」
中年男性は、一人で愚痴をこぼしながら夜の街を歩いていた。
元『スマイルファミリー』のメンバーは、もう一度同じメンバーでクランを結成することはしなかった。
クラン結成の条件をクリアする気にもなれないというのもあったが、ユウマ中心に集まっただけのメンバーなので、彼なくしては纏まりがないという方が強かった。
そして、ほとんどのメンバーが他のクランにバラバラに散った中、トオル・コガネイだけは受け入れるクランが見つからず、いまだに無所属だった。
「あ~まじイライラする! 久々に無所属になったが、こんなに能力が落ちるのかよ! 帝国から来たガキ、よくあのステータスで無所属のままやれたよな、信じられん!」
中年男性は、不機嫌を隠そうともせず街を歩く。
セルタゴの市民は、それを冷めた目で遠くから見ていた。
以前のような『スマイルファミリー』への恐怖心ではなく、軽蔑と嫌悪感を持って見ている。
だが、そんな市民と違って、敢えて近づく者たちがいた。
「よお、おっさん! 『スマイルファミリー』が解散してザマァねえな!!」
若い異界人が中年男性の前に現れた。
「あ? なんだ、ガキ。この俺に何か用か?」
「クックックッ! まだ偉そうな口きいてんのか。おっさんは世の中が見えてねえみたいだな」
「おうおう、ガキのくせにお前こそ偉そうな口だな。クランに所属してるからってだけで、強くなった気でいるんじゃねえだろうな?」
中年男性は杖を構えながら言った。
「マジでウけるぜ! おっさんがそれを言うか! なあ、こいつ、どうする?」
若い異界人は、周りを見まわしながら言った。
すると周囲の物陰から、何人もの異界人が現れた。
「こういう勘違いジジイは、やっぱお仕置きが必要だな!」
「もう『スマイルファミリー』は無いってのに、バカなのか?」
「とりあえず今までの借りは返そうぜ!」
中年男性は、五十人ほどの異界人に囲まれた。
「な、なんだお前ら! 大勢で来て、卑怯だぞ!?」
中年男性は明らかに動揺を見せた。
「クックックッ、大勢も何も、全員顔に見覚えがあるんじゃねえのか? 人数が多いのは、おっさん自身のせいだぞ?」
「ま、まさかお前ら、この俺に仕返しに来たんじゃないだろうな!? 今までのは大人として教育してやっただけだ! お前らは何か勘違いしてるんだ!!」
「なんだ、何しに来たか分かってるみたいじゃねえか。なら、これから何をされるか想像つくよな?」
「ま、待て……! 早まるな……! 何か気に障ったなら謝る!!」
中年男性は、大勢が歩み寄ってくることに気圧され、杖を地面に置いて両手の平を向けながら後退りする。
「はあ? ふざけてんのか? 敬語も使わねえで謝罪になるわけねえよな?」
「す、す、すみません……! 謝りますので……謝りますので……」
「クックックッ、ば~か! 謝れば済むわけねえだろ!」
「まっ……まっ……!?」
セルタゴの夜に、中年男性の声が響き渡った。