表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
174/191

第174話 ミズトが持っていない何か

「申し訳ございません、シェリル様……! 大事なお身体をこのような……」

 副隊長ポーラはシェリルの前で膝をつき、片腕を失った件について謝罪した。


「ポーラよ、これは貴公のせいではない。私の油断が招いた結果だ」

 シェリルはとても優しい声で部下に言った。


「し、しかしシェリル様は将来のロード候補……。このようなところで……このようなところで……」

 ポーラは悔しさが溢れだし、涙を地面へ落とした。


 同じようにシェリルの元に集まっていた他の帝国騎士も、シェリルの腕を嘆き、皆が泣き出した。


(よっぽど慕われてるんだな……)

 ミズトは、そんなシェリルたちに感心していた。


 会社員で、上司が怪我をして泣く奴なんているわけがない。

 ミズトも、上司であろうが部下であろうが、怪我ぐらいなら知ったことではなかった。

 もちろん部下が体調不良で休んだ時は、心配する素振りを見せたりするが、本当はどうでもよかった。


 ところが彼女たちはどうだろう。

 強い信頼関係で結ばれ、心の底から心配しているように見える。

 ミズトには無い何かを持っているシェリルたちを見て、少しだけミズトも感情が動いたような気がした。


「ミズト氏、とても微笑ましい光景だね。あんなに仲間に慕われて、シェリル様がどれだけ尊い存在かよく分かるよ」

 ユウマがミズトに言ってきた。


「はい、良い隊長なのだと思います」


「はは……共和国民にこんなに嫌われてる僕なんかとは全然違うね」

 ユウマは悲しそうな声で言う。


 しかし、ミズトは何を言っているのかと思っていた。

 ユウマだって、異界人いかいびと仲間に同じように慕われている。


 たしかに共和国民とすれ違いがあるのかもしれないが、彼らのために先ほどまで必死に戦っていた。

 そして、黒騎士という強敵を、帝国軍や冒険者へ協力を求めて倒すこともできた。


 ユウマもまた、ミズトが持っていない何かを持っている人物なのだ。


【ミズトさんも、しっかりと役割りを果たしていることを、お忘れなきようお願いします。グリノス系を含む約五千体のモンスターをミズトさんが退治したことで、たくさんの命が救われました】

 エデンがミズトの功績を述べた。


(なんだよエデンさん……俺は何も言ってないが……)


【たいへん失礼いたしました。ただ、ミズトさんが成した事実をお伝えしました】


(まあ、言いたいことは分かるが……)


 ミズトは自分のことを、良い人間でも悪い人間でもなく、ごく普通の人間だと思っている。

 だから人を傷つけるようなこともしないが、積極的に人助けをするようなこともしない。

 それが、大きな力を手に入れたこの世界でも同様だった。


 しかし目の前で、他人のために必死になる姿を見ると、ごく普通であるミズトは置いていかれている気持ちになっていた。

 自らついて行かないことを選んでいるはずなのに、なんとなく気がとがめるのだ。


「なんでえミズト、随分しけたツラしてんじゃねえか」

 ジェイクがミズトの元にやってきた。


「お気遣いありがとうございます。私はだいたいこのような面構えになります」

 ミズトなりに言い返した。


「ガハハハハハッ! ミズトのくせに難しく考えてんじゃねえよ! 俺様たちのような冒険者はよ、やりたいと思えばやりゃあいいんだ! ただそれだけだ、な!!」

 ジェイクが強めにミズトの背中を叩いた。


(たしかに、てめえは何も考えず、やりたいことやってるだけなんだろうな……)


 お前と俺は違うんだ。

 ミズトはそう言い返してやりたかったが、ジェイクの言うことも一理ある気もしていた。

 やりたいと思えばやればいい。やりたくなければやらなければいい。

 この世界では、それでいいのではないかと感じるのだ。


 ミズトは、ジェイクに叩かれた勢いに任せ、そのまま歩き出した。

 そして、紅蓮騎士シェリルたちの元へと歩み寄る。


「ミズト、我々に何か用か?」

 それに気づいたシェリルがミズトに言った。


 いつものような強い口調ではない。

 見下しや、拒絶も感じない。


 その態度も相まって、片腕を失くした若い女性の姿は、とても痛々しくミズトには映った。


「勇者リアンさんからこれを預かっています。どうぞお使いください」

 ミズトはマジックバッグから上級ポーションを取り出した。


「まさかそれは!?」

 思わず声を上げたのは、ポーラの方だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ