第167話 帰還した冒険者たち
「なっ!? 何が……起こったんだ……?」
目の前にいたはずのグリノスアーマーベアが突然消滅していき、ユウマが混乱した声を出した。
「フェルナンのおっさん! こりゃあどういうことだ?!」
ジェイクがフェルナンを見つけると、近づきながら言った。
「ジェイク!? 今のは『氷雪旅団』が……?」
フェルナンは不思議そうな顔で訊いた。
「んなわけねえだろ。あれがミズトの魔法だ、ガハハハハハッ!」
「なるほど……まさかこれほどとは……」
「何言ってやがる! あんなもんじゃねえ! フェルナンのおっさんにもさっきの見せてやりたかったぜ、ガハハハハハッ!」
「…………」
フェルナンはミズトとクロを見て、納得するような表情をした。
「ミ……ズト……氏……?!」
ユウマがミズトを見つけた。
(氏…………)
「ユウマさん、大丈夫ですか? 変なモンスターもいたようですし、騒ぎになっているようですね」
「冒険者の方々は……無事だったんですか……?」
「? あ、魔王軍というわけではなく、ただのモンスターの群れでした。皆さん無事です」
「そうですか……話が分からなくなってきましたが……さすがミズト氏です……。そうだ! なら、冒険者の方々に手伝ってもらいたいことが!!」
(氏…………)
「騒ぎになっている件でしょうか?」
言っていることがあまり頭に入ってこなかったが、ミズトは辛うじて聞き返した。
「そうです! 実は革命軍のリーダーが、レベル81の黒騎士という怪しい人物だったんです! 黒騎士が何なのか分かりませんが、革命軍の人々に対しても危害を加えようとしています!」
「革命軍のリーダーが、黒騎士というクラスだったのですか?」
「今はシェリル様たちが黒騎士と戦闘中ですが、かなり厳しい戦いのようです! 冒険者の皆さん、とくに階級の高い方に加勢していただきたいのです!!」
「ガハハハハハッ! 面白そうな話じゃねえか! このジェイク様が乗ってやるぜ!」
ジェイクがユウマの話に入ってきた。
「ありがとうございます、助かります!」
ユウマがジェイクに頭を下げた。
それから『氷雪旅団』のハイプリーストがユウマを回復させると、皆で革命軍リーダーのテントへ向かった。
*
黒騎士レイヴンと紅蓮騎士シェリルたちの戦闘によって、周辺のテントがほとんど壊されていた。
ミズトたちが駆け付けた時は激しい戦いが続いていたが、黒騎士レイヴンにはまだ余裕があるように見えた。
「シェリル様! 帰還した冒険者の増援を連れて来ました!!」
ユウマが声を上げると、黒騎士レイヴンたちは距離を空けて戦闘を止めた。
「冒険者が帰還……?! ど、どういうことでしょうか……? まさかあれと戦って生き残ったとでも……」
黒騎士レイヴンから余裕が消え、急に動揺を見せた。
「革命軍リーダー! いや、黒騎士のレイヴン! 残念だったね! 冒険者の方々は全滅どころか、無傷で戻ってきた! これでそちらの負けだ!!」
ユウマは黒騎士レイヴンを指差しながら言った。
「無傷ですって!? そ、そんなわけは……。それに……先ほど放ったグリノス種は……あの四人はどうしているのでしょうか……?」
「四人とはこいつらのことかしら?」
拘束した黒いローブの四人を連れて、帝国騎士が数人現われた。
「ばっ、ばかな!? あのグリノス種がいて、どうしてこんなことに!?」
「ガハハハハハッ! 熊公のことなら、俺様たちが倒したぜ!」
ジェイクが低い笑い声を響かせる。
(お前は何もしてないだろ)
「そんなはずはありません! あ、あれはレベル80台なうえ、耐久力が通常種の三倍はあるはず! 冒険者程度でどうこうなるはずは……!」
「観念するんだ!!」
ユウマは剣を抜き、剣先を黒騎士レイヴンへ向けた。
「とても理解が追いつきませんが、面倒なことになりましたね…………。仕方ありません、数人殺したら、ここは撤退しますか」
黒騎士レイヴンは剣を構えなおした。
「そうはさせるか! たとえ貴重な『覚醒石』をもう一度使っても、ここは止めてみせる!!」
ユウマの身体が再び青い光で包まれると、そのまま黒騎士レイヴンに斬りかかった。
それを黒騎士レイヴンは難なく剣で受け止めるが、破裂音と共に受ける衝撃に戸惑いを見せた。
「!? 何です、今の衝撃は!? そうですか……これが異界人特有のスキルですか……」
「なにボーっとしてんだ!」
間髪入れずに『氷雪旅団』も全員動き出し、ジェイクが大きな斧を叩きつけた。
今度は剣で受けず、黒騎士レイヴンは横へ飛んでかわした。
「休ませるな!」
紅蓮騎士シェリルが、他の騎士に指示をしながら黒騎士レイヴンへ攻撃を続けた。
先ほどまでとは一転して、黒騎士レイヴンに余裕はなく、防戦一方になった。
一対一の戦いだったら、片腕の紅蓮騎士シェリルも含め、まともに相手をすることは難しい。
しかし、いがみ合っていたはずの共和国の異界人、帝国騎士、冒険者が力を合わせれば、その差を埋めることができるのだ。