表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
166/191

第166話 陣地で起きている異変

 紅蓮騎士シェリルが、ユウマたち共和国代表を連れて革命軍の陣地に戻る一時間ほど前、ミズトが数千体のモンスターを殲滅していた。


「ガハハハハハッ! まさか俺様たちの分を残さねえなんて、ミズトらしいじゃねえか!」

 冒険者たちの元に戻ってきたミズトを、『氷雪旅団』のジェイクは笑い転げながら迎えた。


「それは申し訳ないことをしました」

(少し残すとか器用なマネできるかよ)


「まあいい! てめえら、見たか!? これがA級冒険者のミズトだ!!」

 ジェイクはドヤ顔で冒険者たちへ声を上げた。


「す……すげえ……」

「なんだよ……今の威力……」

「これが……ミズトの力……」


 冒険者たちは、現実とは思えない、想像を遥かに超えるミズトの魔法に驚愕していた。

 しかし、それは次第に称賛へと変わり、冒険者を代表するA級ミズトの力に熱狂していった。


「さすがA級冒険者だ!」

「見たかぁ、ミズトの魔法を!」

「これが俺たちのミズトの力だー!」


 ミズト!! ミズト!! ミズト!! ミズト!!


 冒険者たちはミズトの名前を叫んだ。


(………………こいつら馬鹿なの?)

 ミズトは阿呆らしさと恥ずかしさに襲われた。


【冒険者の方々はミズトさんの魔法に感動したのです】


(だからと言って、なんかキモいだろ……)


【皆さんはミズトさんをたたえているのです。ここは素直に受け入れて問題ありません】


(…………)

 ミズトは、エデンの言うように受け入れた自分の姿を思い浮かべると、少し身震いした。




 それからミズトたち冒険者は、革命軍の陣地へと戻っていった。

 ミズトはその間、冒険者たちにひたすら話しかけられるはめになっていた。

 ミズトのことを根掘り葉掘り聞く者、自分のことをミズトにアピールする者、関係ない世間話をする者、皆がこぞってミズトと話そうとしていた。


 当然ミズトには居心地の悪い状況だったが、彼らを無下にすることもできず、苦手な愛想笑いをしながら適当に回答した。

 そんな時間を一時間ほど過ごし、陣地に近づくとミズトは異変に気づいた。


(戦闘中? またモンスターが発生したのか?)


 ミズトは一瞬そう思ったが、グリノスの気配を察知し、すぐに異常な事態だと理解した。

 前日と同様の低レベルのモンスターはいいとして、問題は二箇所。そのグリノス系のモンスターが戦っている箇所と、人間同士が戦っている箇所だ。


(人間同士って、まさか革命軍と共和国軍が戦ってるのか?)


【いいえ、そうではありません。まずは状況確認のため戦闘発生場所へお急ぎください】

 エデンが進言した。


「ミズト、どうした?」

 ミズトの様子に何かを感じとったジェイクが話しかけた。


「革命軍の陣地内で戦闘が発生しているようです」


「なに……? てめえがそう言うなら、そうなんだろうな。おい、てめら、何かあったみてえだ! 急ぐぞ!」

 ジェイクは遠くに見える陣地に視線を向けて言った。


 ピクニックのような気分で歩いていた冒険者たちは、ジェイクの言葉で一気に気持ちを切り替え、一斉に陣地へ向けて急ぎだす。

 足並みが揃わないはずの冒険者たちのそんな姿を見たミズトは、なんとなく感心しながら皆について行った。




「なんだ、あのおかしなモンスターは……?」


 陣地に辿り着くと、異界人いかいびとユウマと、冒険者ギルドサブマスターのフェルナンが、グリノスアーマーベアと戦っているところだった。

 経験豊富な冒険者たちは、それが普通のアーマーベアではないことをすぐに理解した。


「どうなってやがる? なんでアーマーベアが化け物みてえに強くなってやがんだ? てめえら、周りの雑魚を片付けてこい! ここは俺様たちに任せな!」


 ジェイクが気づいたとおり、周りには低レベルのモンスターが何体か残っていた。

 他にも陣地内にはそれなりにモンスターの気配をミズトは感じる。

 冒険者たちは、ミズトと『氷雪旅団』のメンバーを残し、他のモンスターを掃討するためにそれぞれ散っていった。


「それにしても、あの異界人いかいびとのチビ、意外とやるじゃねえか。レベル70近え能力はあるんじゃねえのか?」

 ジェイクが、ユウマとグリノスアーマーベアの戦いを見て言った。


 ユウマのステータスではレベル59。

 ミズトのように偽装ステータスのわけはなく、表示されているレベルは正しいはずだが、ミズトもジェイクが言うようにレベル以上の能力を感じていた。

 それがエデンの言っていた、クラン補正やクランスキルの恩恵なのだろうと想像できた。


 しかし、それでも戦況はグリノスアーマーベア優勢だった。

 ユウマの身体が青く光り、不思議な攻撃をしていたが、グリノスアーマーベアには効いていない。


 しかも、ユウマ本人もそれが分かっている様子だった。

 それでも彼は、グリノスアーマーベアが他の者たちを襲わないよう、自分に引き付けるように戦っているのだと、ミズトには分かった。


(ユウマ・サカキか……)


 もしミズトが、自分では勝てないような相手と戦った時、彼と同じことができるだろうか。

 ミズトが戦わなければ他に犠牲が出るとしたら、代わりに戦うだろうか。


 ミズトの答えは否だった。

 自分を犠牲にして戦う姿を、ミズトは思い浮かべることはできなかった。


 いや、ミズトだけではなく、現実の人間にそんなことが出来るわけないと思っていた。

 大切な家族のためならまだしも、赤の他人のために自分を犠牲にする人間なんているわけがない。それは子ども向けの夢物語に出てくるヒーローや勇者という妄想の話だけなのだ。

 ミズトはそう思っていた。


【ミズトさん、そろそろユウマさんが力尽きてしまいます】

 ミズトにも分かっていることをエデンが言った。


 ユウマを包んでいた青い光は収まり、ユウマから戦意が消えている。

 ミズトは、本当にユウマが自分を犠牲にして戦っているのか、何故そこまでして戦っているのか理解できないままだったが、彼が死を覚悟したのは分かった。


(で、なんでジェイクは助けに入らないんだ?)


【『氷雪旅団』の方々ではあのモンスターに勝てないと理解されているからです】


(は? じゃあなんでお前らも残ったんだよ……。だいたい俺だって、一体だけうまく『ファイアストーム』で倒すのは無理だぞ? 『マジックシールド』で囲んでも、狭すぎるとはみ出すだろうしな)


【今のミズトさんなら『ストーンバレット』で問題ありません。石の大きさ・速度・発射位置・発射角度を、周りに大きな影響を及ぼさないよう正確に制御可能です】


(ったく……はいはい……わかりました。やれますよ、やりゃあいいんだろ?)

 ミズトは不貞腐ふてくされた子供のようにエデンに言い返すと、一人で前に進み出た。

 付き従うクロは、嬉しそうにミズトに続く。


「ストーンバレット」

 杖を掲げて魔法を唱えると、衝撃音と共に石が発射され、グリノスアーマーベアの頭を吹き飛ばした。

 僅かな衝撃波が周りへ伝わるが、テントを揺らす程度だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ