第165話 憧れた勇者のように
「レベル59と聞いていたが、さすが異界人のリーダーってところか……」
「冒険者ギルドサブマスターも、エルフとはいえ高齢のわりにやるな!」
異界人ユウマ、冒険者ギルドサブマスターのフェルナンと戦っている黒いローブの四人組が、二人をそう評価した。
「ユウマ殿! この四人はかなりの手練れです! 一旦退いて態勢を立て直しましょう!」
「そういうわけにはいきません、フェルナンさん! 僕らが離れている間に、あの四人が革命軍の人々を襲うかもしれません! 大丈夫です、彼らはレベル60台! クランマスターだけが使えるクランスキルで何とか倒せます!」
ユウマがフェルナンに答えた。
「な、何が起きてるんだ!?」
突然、ユウマたちが戦っている場所の近くに、革命軍の一人が迷い込んできた。
レベル一桁の、ただの町人の男性だ。
「目障りだ!」
黒いローブの一人がその男性に斬りかかった。
「え!?」
男性は何が起きているか理解ができず、目の前に剣が迫っても反応ができなかった。
ガキン!
しかし、黒いローブの剣が男性に届く前に、ユウマが回り込んで剣を受け止めた。
「危険です! 下がってください!」
「え……? ユウマ? 黒いローブは革命軍のはずでは……?」
「何者か分かりませんが、黒いローブの四人は共和国の敵です! 革命軍の皆さんを殺そうとしていますので、下がってください!」
ユウマは黒いローブの男を押し返すと、男性に言った。
「ど、どういうことだ? なぜユウマが俺を守ろうと……?」
男性は状況を理解できないまま、ユウマの指示に従い物陰に隠れた。
「異界人ユウマ。やはりこいつが一番目障りだな。四人がかりでやるぞ!」
黒いローブの一人が言うと、四人が同時にユウマへ襲い掛かった。
「やらせません!」
フェルナンの言葉に合わせ、フェルナンの召喚した風の精霊シルフが黒いローブの四人へ魔法で攻撃した。
「今だ! 覚醒石を使います!」
ユウマは魔法に怯んだ四人を見逃さず、切り札を使用した。
手に持っていた何かが砕け、青い光に包まれる。
すかさずユウマは四人との距離を詰めると、まず一人に剣を振るった。
黒いローブの男はユウマの剣に反応し受け止めようとするが、剣が交わると破裂したように飛ばされた。
ユウマは同じように、残りの三人にも斬りかかり、全員を吹き飛ばした。
「何ですか、今のは……?」
フェルナンは、目の前で起きたことが理解できなかった。
ユウマの攻撃力が上がったようには見えなかった。
しかし、何故か攻撃を受ける側のダメージが数倍になっているように見えたのだ。
「あとは周辺の帝国軍に任せましょう! 『覚醒石』の効果が切れる前にあのモンスターを!」
ユウマはそう言って、グリノスアーマーベアのいる方向へ向かった。
フェルナンも、黒いローブの四人が気を失っていることを確認すると、すぐに後を追った。
ユウマとフェルナンが辿り着くと、グリノスアーマーベアは人もテントも見境なく壊して回っているところだった。
戦闘力のない革命軍の人々は、その光景に恐怖し逃げ惑っている。
それに立ち向かったと思われる帝国軍の騎士や戦士が、その場で何人も倒れていた。
中にはステータスが表示されない者もいるようだ。
「皆さん下がって! ここは僕が引き受けます!」
ユウマは叫ぶと、青い光に包まれたままグリノスアーマーベアを斬りつけた。
バン!!
先ほどと同様、攻撃が命中すると同時に破裂するような音が鳴ったが、グリノスアーマーベアは怯んだ様子はない。
それでもユウマは何度も斬りつけ、その度に破裂音が響いた。
「くそっ、レベル差があり過ぎる! 『覚醒石』を使っても倒せそうにないか!」
ユウマはグリノスアーマーベアから一旦距離を置いた。
辺りを見まわしてみると、まだ何人もの革命軍の人々が残っており、戦闘を伺っている様子が見えた。
「革命軍の皆さん、このモンスターは危険です! 僕が引きつけている間に逃げてください!」
「『スマイルファミリー』のユウマ……?」
「ユウマが俺たちを守ろうとしているのか?」
「まさか、異界人じゃない私たちなんか守るわけ……」
革命軍の人々は思考が止まり、逃げることさえ忘れているように見えた。
「何を言っているんですか! 僕は異界人だけじゃなく、共和国の国民を絶対に見捨てない! 革命軍の皆さんも僕にとっては大事な共和国民なんです! ここは任せてください!」
ユウマは言葉どおり、グリノスアーマーベアの正面に回り込み、注意を自分に引きつけた。
しかし、力の差は明らかだった。
ユウマの攻撃はグリノスアーマーベアにダメージを与えてない。
冒険者ギルドサブマスターのフェルナンの精霊が援護をするが、一時的に気を逸らすのがやっと。
このまま戦闘を続けても、どちらが勝利するかは明白だった。
それでもユウマは戦い続けた。子供の頃から憧れたヒーローや勇者のように。
誰かのために、人々の平和のために戦う姿こそが、ユウマが求める姿であり、この異世界に来た目的なのだ。
「僕は、絶対に皆さんを守ってみせる!!」
革命軍の人々は、その場を離れながら、必死で戦うユウマの姿を目にしていた。
「あれが異界人ユウマ……」
「俺たちのためにあれほどまで……」
「もしかして私たちは何か勘違いを……」
自分たちを逃がすため、到底勝ち目のないモンスターに立ち向かう彼の姿は、次第に革命軍の人々の心を揺さぶっていった。
皆がユウマの勝利を願っていた。
だが、ユウマの出来ることはここまでだった。
一通り革命軍の人々が避難したころ、ユウマを包んでいた青い光は消え、体力も尽きで戦う力は残っていなかった。
「ははは……異世界アニメのような……勇者にはなれなかったか……」
力尽きたユウマは剣を地に突き立て、それを支えにして辛うじて立っていた。
グリノスアーマーベアは、そんなユウマに容赦なく鋭い爪で襲い掛かる。
「ユウマ殿ぉ!!」
援護していたフェルナンにも、どうすることもできなかった。
しかし、次に起こった光景は、二人の予想しないものだった。
グリノスアーマーベアの頭が吹き飛び、そのまま消滅したのだ。