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第163話 黒騎士

 それから、革命軍の中を何とかくぐり抜け、両国の代表メンバーは革命軍リーダーのテントに辿り着いた。

 テントの前には帝国軍の小隊長が数名待機している。


「お帰りなさいませ、シェリル様。一つ急ぎのご報告が」

 小隊長たちは膝をつくと、一人がそう告げた。


「何事だと言うのだ? 申してみよ」

 シェリルは何かを考えながら周りを見まわしてから、小隊長たちに答えた。


 報告の内容は、魔王軍らしきモンスターの大群が押し寄せている件だった。

 そして、冒険者たちが迎撃するために向かったことだ。


「この愚か者が!! 冒険者どもの姿を見ないと思えば、そういうことだったか!」

 シェリルが小隊長たちを怒鳴りつけた。


「も、も、申し訳ございません……!!」


「それがもし本当に魔王軍ならば、我ら帝国軍こそ率先して戦う相手! 冒険者どもに先を越されるとは何事か!!」


「お、お、おっしゃる通りでございます……!!」

 小隊長たちは地面にひたいを擦りつけながら言った。


「ええい! 少し待っておれ! 停戦の交渉は後回しだ! 革命軍と話をつけてくる!」

 シェリルは革命軍リーダーのテントに入っていった。


 その後を副隊長の二名、冒険者ギルドのフェルナンとブライアン、そしてセレニア共和国の代表三名が続いて入っていく。


「レイヴンよ、共和国の代表を連れてきたが、その前に少し話がある」

 シェリルは中に入るなり、革命軍リーダーに話しかけた。


 テントの中にいたのは、レイヴンと呼ばれた革命軍リーダーの男と、黒いローブを着た四人だった。


「これはこれはシェリル様、お待ちしておりました。随分お急ぎのようですが、何かございましたのでしょうか?」

 答えたレイヴンは30代前半ぐらいの落ち着いた男だった。


「貴公も聞いているかもしれんが、どうやら魔王軍が近くにいるようだ。交渉の前に我ら帝国軍で一掃してくる。共和国との交渉は少し待て」

 シェリルはレイヴンに近づきながら言った。


「なるほど、そういうことでしたらお待ちいたします」


「ちょっとお待ちください。その戦い、僕も参加しますので、とりあえず先に挨拶だけでも」

 二人の会話に、異界人いかいびとユウマが入ってきた。自己紹介をしながら前へ出てくる。


「僕は共和国宰相のユウマ・サカキです。今日は革命軍の皆さんと直接お話をするために――――え? レベル81? 黒騎士って……?」

 ユウマは革命軍リーダーのステータスを見ると、言葉に詰まった。


「チッ、異界人いかいびとめ!」


「!?」


 ユウマの言葉の意味をその場の者が理解する間もなく、革命軍リーダーのレイヴンは剣を抜いて紅蓮騎士シェリルに斬りかかった。


「きゃあああぁぁぁー!!?」

 シェリルの悲鳴とともに、彼女の斬り落とされた右腕が地面に落ちる。


「ふん、さすが紅蓮騎士。今のを反応しますか」

 レイヴンは咄嗟に後ろへ跳んだシェリル褒めた。


「シェリル様!!」

 すぐに副隊長の二人がシェリルに駆け寄った。


 シェリルは膝が崩れ落ちるのを何とか堪えながら、レイヴンを睨みつける。

「き、貴様、何をする!!」


「まったく、異界人いかいびとってのは無礼ですね。勝手に人のステータスを見るだけじゃなく、声に出してしまうとは」

 レイヴンは剣先をユウマに向けた。


「ユ、ユウマ殿、いったいどういうことですか?」

 共和国議会の議長がユウマに尋ねた。


「ぼ、僕にも何が何だか……。ただ、彼のレベルが81と高く、クラスが黒騎士と、聞いたこともない職業だったので……」


「もう少し隠しておきたかったのですが、ここは六傑の一人を、目障りなあの者たちと似たあかを着た紅蓮騎士を、一つ減らしただけでよしとしましょうか」

 レイヴンは剣先の向きをシェリルに変えた。


「く、黒騎士など……聞いたこともないが……。ポーラよ……奴を捕らえよ……」


「は! シェリル様!」

 ポーラはシェリルを支えながら頭を下げた。


「はっはっはっは! 私を捕らえる? 紅蓮騎士がその状態の時点で、もう我々の勝ちなのですよ」

 レイヴンがそう言うと、彼の左右に控えていた黒いローブの四人も武器を構えた。


「ふ、ふざけるな……外にどれほどの帝国軍が控えていると思っている。たかだか五人……逃がすことも許さぬ」

 シェリルは荒い息のまま言った。


「どうやら状況を理解していないようですね。ふむ、せっかくなので、少しご説明してさしあげましょう」


「この、何を!」


「待て……」

 ポーラが剣を抜き飛び掛かろうとすると、シェリルが制止した。

 自ら話すというなら、情報を引き出してやろうと思ったのだ。


 その意図を理解し、レイヴンは乗っかるように話を続けた。

「我々ノワールは、いくつか目的を持って大陸の東に来ました。その一つが、ある実験をするためです」


「実験……?」

 シェリルが聞き返した。


「そう。あなた方は、グリノス種というモンスターをご存知ですか?」


「…………」


「ふむ、誰もご存知ないようですね。見た目はこの世界のモンスターと同じですが、能力が遥かに高いモンスターたちです。そして、そのグリノス種の実験で分かったことですが、レベル90以上の制御は不可能であること。それから、レベル70以上のグリノス種は周辺のモンスターを操る性質があるということでした」


「貴様……いったい何の話をしている」

 話している間にポーションを飲み、止血をしたシェリルが言った。


「もちろん我々の実験成果の話です。まあおかげで、帝都周辺で活動していた黒騎士の一人を失ってしまったのですがね。まさかレベル90以上のグリノスは『ゲート』を使用した者を襲うとは。なので、今回はレベル80台までを呼び出すことにしました」


「だから、何の話をしている!」


「ですから、あのモンスターの大群は魔王軍でもなんでもなく、我々が呼び出したグリノス種と、それが操るモンスターたちってことです!」


「何を馬鹿なことを。誰がそんな話を――――」

 シェリルはそう言いながら、隣のポーラに何やら耳打ちをした。


「信じないのは勝手です。ただ、呼び出したグリノス種は数百体。そのうち一割がレベル70以上です。周辺のモンスターを集め、数千体の規模に膨れ上がった大群は、冒険者たちを全滅させたら、すぐにでもここへ来るでしょう!」


「なんだと……? だが、それより前に貴様らはここで取り押さえる」

 シェリルはポーラの動きを横目で確認しながら言った。

 そのポーラはシェリルから離れ、レイヴンとの距離を保ちながら回り込もうとしている。


「あなたがその状態である限り、我々の勝ちだと言ったでしょう。とは言うものの、モンスターの大群が来るまで外の帝国軍をすべて相手するのは骨が折れます。こういう時のために取っておいた一枚を使いましょうかね」


 レイヴンはカードほどの大きさの、黒い長方形のアイテムを取り出した。


「それが何だと言うのだ?」


「これは『ゲート』というアイテム。どこでも使用できるわけでもなく、一度使用すると消滅してしまいますが、レベル80台のグリノス種一体を呼び出すよう施されています。そして、使用できる条件は――――モンスター発生エリア内であることです!」

 レイヴンが持つ『ゲート』が光りだした。

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