第162話 大きな隔たり
革命鎮圧部隊と共和国の代表たちは、セルタゴを出て三十分も掛からずに革命軍の陣地へ辿り着いた。
そしてそのまま、陣地の中央にある革命軍リーダーのテントへ向かっていた。
ユウマは馬車の中から革命軍の様子を見ると、
「ど、どういうことでしょうか……。革命軍の陣地だって言うのに、ほとんどがレベル一桁の一般人ばかりで、戦闘系のクラスが見当たらないようですが……」
と驚きを見せた。
「何を言っているんだ、ユウマ君。軍の一部が革命しようとしてるわけじゃなくて、市民が不平不満を言って騒いでるんだから、生産系クラスや町人ばかりに決まってるじゃないか」
中年男性が答えた。
「そ、そんな……僕はてっきり……」
ユウマはセレニア共和国の宰相。国家元首である共和国議会の議長に次ぐ、高い地位にある。
そのため革命軍については報告を受けるだけで、自ら接触したのは初めてだった。
「おい! あの馬車に『スマイルファミリー』が乗ってるぞ!」
誰かが馬車の中にいるユウマたちに気づき叫んだ。
するとユウマたちの馬車は、あっという間に革命軍に取り囲まれ、停止せずにはいられなくなった。
「出て来いよ、スマイルファミリー!」
「お前ら何しに来たんだ!」
「俺たちはお前たちを許さないからな!」
革命軍が中にいるユウマたちへ叫ぶ。
「議長は中で」
ユウマはそう言うと、馬車を降りた。
中年男性のトオル・コガネイもユウマに従った。
「さ、宰相と宰相補佐だ……」
「ユウマとトオルが来やがった……」
「お、お前たちさえいなければ……」
二人の姿を見て、革命軍の人々はざわついた。
「皆さん、落ち着いてください! 僕はセレニア共和国宰相ユウマ・サカキです! 皆さんご存知の通り異界人ですが、共和国のためにこの七年、全力でやってきました! これからも共和国のために尽くしていこうと思っています! どうか皆さん、こんなところにいないで、セルタゴへ戻ってください!」
「ふざけるなー!」
「共和国じゃなくて異界人のためだろ!」
「お前らさえいなければ良かったのに!」
ユウマの話を聞いた革命軍は、落ち着くどころか、逆に過熱しだしている。
そしてそれはいつしか言葉だけではなく行動に移り、とうとう石を投げつける者が現れた。
何人もの革命軍がユウマに石を投げる。
「ユ、ユウマ君!? このっ! 雑魚の分際で何してんだ!!」
それを見ていた中年男性は、そう怒鳴って魔法使い用の杖を構えた。
「トオルさん、待って! 僕は大丈夫! 近接戦闘クラスだから、一般の方が投げた石ぐらいじゃ、怪我することはないから!」
「でも……ユウマ君……」
「トオルさんは下がってて」
ユウマは中年男性に手のひらを向けると、無数の小石を浴びながら、ゆっくり革命軍の人々に近づいていった。
「お前たちのせいで俺たちがどんな思いしてるのか分かってるのか!」
「同じ異界人でも帝国から来た人とは全然違うんだよ!」
「お前たちのせいで、父ちゃんが……父ちゃんが……!」
非難と石は止みそうにない。
「帝国から来た人? それってまさか……?」
ユウマは足を止め、辺りを見回す。
そして何かを見つけると、両手をあげて石を投げている一人の人物の前まで行き、膝をついた。
「君のお父さんに、何があったんだい?」
ユウマは小さな少年に話しかけた。
少年に当たることを危惧してか、小石は止み、非難も止まって、静けさが辺りを包んだ。
「と、父ちゃんはな、お前たちのせいで仕事がなくなったんだ! お前たちのせいで倒れたんだ!」
「お父さんが倒れた? もう少し聞いていいかな?」
「触らないでちょうだい!」
ユウマが少年の頭を撫でようと手を出すと、少年の母親が彼を守るように覆い被さった。
そしてユウマを睨み、絞り出すような声で続けた。
「あの人は……この子の父親は、財務院で真面目に働いてたわ! なのに、あなたたちは財務院すべてを不正と決めつけ、丸ごと解体したのよ! 仕事を失くしたあの人は、必死で職を探したけど、長い間見つけられず、とうとう過労が祟って倒れてしまったわ!」
「え……? たしかに、財務院は一度解体しましたが……、新しく立ち上げて、職員を再募集したはずです……」
「そんなの異界人優先で、元々の共和国民の枠なんてほとんどなかったじゃない! 特殊な生産クラスでもなんでもないあの人は、門前払いされたのよ!」
「そ、そんなわけ…………」
ユウマは自分の理解と大きく乖離があり、動揺を見せた。
「その女性の言ってる通りだ!」
「すべてが腐敗してたわけじゃない! 財務院に助けられた国民はたくさんいるんだ!」
「お前らは真面目に働いてた職員まで切り捨てたんだ!」
非難の嵐が再開した。
「黙って聞いてれば、無能な雑魚が調子こいてんじゃねえ!!」
中年男性が声を上げた。
「トオルさん……?」
「ユウマ君、こいつらの言うことなんて聞く必要ない! こいつらは所詮、能力も努力も足りない負け組だ!」
「ふざけるな、宰相補佐が!」
「いつもいつも邪魔しやがって!」
「何でも力で解決できると思うな!」
中年男性の声を聞くと、革命軍の人々は投石も再開した。
「マジックシールド!」
中年男性が魔法を唱え、自身の周りに半透明の魔法壁を発生させた。
投げられた小石は魔法壁に弾かれ、中年男性には届かない。
「どうだ! これが力だ! お前ら雑魚とは違うんだよ!!」
中年男性はそう言って高笑いを響かせた。
「議長よ。この革命、貴公はどちらに正義があると思うか?」
そんな様子を見ていた紅蓮騎士シェリルが、共和国議会議長の馬車に騎馬を寄せ、そう呟いた。
「…………」
「私には、少なくともあの異界人たちに原因があるとしか見えないがな」
「…………はい、シェリル様のおっしゃる通りだと、わたくしも思います」
共和国議会の議長も、シェリルと同じような冷めた目で、二人の異界人の様子を見ていた。