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第160話 モード移行

「ガハハハハハッ! さすがにあの数はやべえな! だがよ!」

 ジェイクが演説のように冒険者たちへ言いながら、ミズトの肩に手を回して続けた。

「てめえら、俺様たちがいるってことを忘れんじゃねえ! いいか、てめえらの見たことねえもん、拝ませてやるから待ってな!!」

 ジェイクは、ガハハハハハと低い笑い声をもう一度響かせた。


「おお、そうだった!」

「俺たちにはA級とB級がついてるんだ!」

「ミズト、ジェイク、頼むぜ!!」

 冒険者たちから不安の色が消えていった。


(こいつ、まさか俺と『氷雪旅団』だけで戦うつもりなのか?)

 ミズトはジェイクの腕を払った。


【違います。まずはミズトさん一人で半数以上を削ってから、残りを全員で倒す算段をしています】


(は? ったく、都合よく使おうとしやがって……。ちなみに、俺がグリノス系だけ選んで倒しとけば、あとは冒険者でも勝てるか?)


【はい、グリノス系モンスター以外はそれほど強力なモンスターはいないため、冒険者のみで勝利します。ただし、百人以上の犠牲者がでるでしょう】


(もっと受け持てってことかい……)

 少し面倒に感じたが、それなりに戦う必要性があることはミズトも理解した。


 「ミズト、A級冒険者ってのは、ほとんど誰も見たことねえ。俺様ですら数回だ」

 ジェイクが再度、ミズトの肩に手を回し小声でささやいた。


「そうなんですね」

(? 何の話だか……)


「ああ。つまり、てめえは周りのことなんて気にしねえでいいってことだ! ガハハハハハッ!」

 ジェイクはミズトの肩から手を離し、ミズトの背中を二回叩いた。


(だから何だよ……)


【変に思われることはないので、小石でチマチマ倒さず、全力で戦っても大丈夫だとおっしゃっています】


(それはまた、ありがたいお気遣いだこと)


【ミズトさん、せっかくの機会ですので、ここは先日わたしが提案した魔法を使用してみてはいかがでしょうか?】


(それって『クリエイトゴーレム』のついでに覚えた魔法のことか?)

 ミズトは記憶を辿りながらエデンに訊いた。


【はい、そうです。並行処理の魔法を経験する良い機会です】


 エデンの提案は、ミズトとエデンがそれぞれ別の魔法を使って戦う内容だった。

 『調合』のような生産スキルだけではなく、ミズトとエデンが協力して攻撃することも可能だと言うのだ。


(たしかに……今回は有効かもしれないが……)


 ミズトは、エデンが魔法で攻撃することには乗り気になれなかった。

 エデンが行ったとしても、結局はミズトがやっていることと同じだ。

 自分の知らないところで自分が何かを攻撃するのは、ちょっと受け入れがたいのだ。


 ただ、エデンが提案した内容は、単純に並行して攻撃魔法を撃つことではなく、ミズトの攻撃魔法をエデンがサポートするものだった。

 それなら検討してみるのも有りかと思ったのだ。


「な、なあ、ミズト……」

「いけそうか……?」

「ミズト……どうなんだ?」

 ミズトが躊躇ちゅうちょしているように見えた冒険者が、不安そうに声を出した。


(しゃあないか)

「ここは私がお受けします」

 ミズトは自分を見ている冒険者たちと、革命軍の陣地にいる共和国市民を重ね合わせながらそう言った。


 ミズトは冒険者たちに会釈すると、周りを見渡しながら歩き出した。クロもミズトについて来る。

 そして、近くにあった丘に登り、モンスターの大群を見渡した。


(ここからなら全体が見えそうだな。エデンさん、少し遠いが、届くか?)

 丘の上からは、数千体のモンスター全てを確認することができた。


【はい、何の問題もございません】


(そうか、じゃあ頼む)


【では『マジックシールド』を使用します】


 エデンがそう言うと、モンスターの大群の前に半透明の、天にも届く大きな魔法壁が出現した。

 そして魔法壁はモンスターの大群を囲むように広がりだした。




「ジェ、ジェイクよ。あれはウィザードの使う『マジックシールド』だ……」

 『氷雪旅団』の一人がミズトの魔法を見て、ジェイクに近づいて言った。


「マジックシールド? あんな魔法だったか?」

 ジェイクは聞き返した。


「いや、本来の『マジックシールド』は、()()に対する攻撃のダメージを軽減させる防御魔法だ。あんな離れた位置で、あれほど大きな魔法壁なんて聞いたこともねえ。とんでもねえ魔力量と魔法制御能力だぜ……」


「ガハハハハハッ! ミズトに常識を当てはめても意味ねえぞ? あいつのやる事なんぞ、黙って見てるしかねえ。だろ?」


「そうだったな……」


 二人は言葉通り、それから静かに状況を見守った。




 モンスターの大群の前に現れた魔法壁は、すべてのモンスターを取り囲んだ。

 進軍するモンスターは魔法壁にぶつかるとそれ以上は進むことが出来ず、直径千メートルほどの魔法壁が描く円の内側に閉じ込められた形になった。


【ミズトさん、大きさ、強度、ともに準備完了しました。はみ出ないよう気をつけていただければ、全力でどうぞ】


 ミズトはエデンの言葉を確認すると、エレメントリウムの杖をかざし、体内の魔力の出力に意識を向けた。

 いつもは魔力を抑える方向に注力するのだが、今は溢れ出る魔力に任せて、そのまま魔法を唱えた。


 簡単な『ストーンバレット』ですらうまく加減ができないミズトだ。

 少し力を入れようとしたつもりが、溜まったものが一気に吐き出でるように全力の魔力が込もった。


「ファイアァァァァァァストォォォォォォム!!!」


 無意識に大声が出た。

 すると魔法壁の内側に、魔法壁とほぼ同じ直径の炎の竜巻が発生し、空高く舞い上がる。

 そのエネルギーは凄まじく、中にいた数千体のモンスターは一瞬で蒸発した。

 それを完全に遮断している魔法壁がなければ、この世界の気候が大きく変化していただろう。


 天と地を繋げる巨大な炎の柱は、そのまま十数秒ほど辺りを照らすと、囲んでいた魔法壁と共に静かに消えた。

 そして、数千体いたモンスターが消滅した跡には、超高温により溶けだした大地だけが残った。


【ミズトさん、完璧です。大きさと位置だけ正しく制御できれば、魔法壁がファイアストームの熱を完全に遮断し、周囲への影響を及ぼしません】


(ふう、うまくいったか――――。こんなに全力で魔法を使ったのは初めてかもな)


【はい。おかげでミズトさんのストレスが軽減され、過剰ストレスモードから通常モードへほぼ移行しました】


(…………ん? 全力で魔法を使ったらストレスが減ったって言ってるのか?)


【その表現で間違いありません】


(…………)


 ストレスを発散するために全力で暴れた。

 とても理性的な人間がすることじゃないと思いながら、ミズトは心が軽くなっていることを実感していた。

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