第159話 期待されるA級冒険者
「何があったの!? どういうこと!?」
異変を察知したのか、革命軍から少し離れて待機していた帝国騎士の数人が現れた。
すると、黒いローブの男がすぐに近づき、状況を説明した。
「な、なんてこと!? まさか、シェリル様の不在時に魔王軍とは……」
女性帝国騎士は引きつった表情で言う。
「そういうことだ。数は少し多いが、こっちも千五百だ。陣地に近づく前に迎え撃つぞ」
ジェイクが女性帝国騎士に近づきながら言った。
「わ、私たちはシェリル様配下の帝国軍よ! シェリル様の指示なく動くわけにはいかないわ!」
「は? てめえ、何言ってやがる!?」
ジェイクは女性帝国騎士を睨みつけた。
「な、何度も言わせないで! シェリル様に待機を命じられている私たちは動かないわ! 撃って出るならあなたたち冒険者だけで行けばいい!」
「てめえ、びびってんのか!? こんなとこで数千のモンスターと戦闘になったら、どれだけ被害が出るか分かってんのか!? 撃って出るしかねえだろうが!!」
ジェイクは女性帝国騎士の襟首を掴み、グッと引き寄せて怒鳴った。
「そんな……帝国軍に見捨てられるなんて……」
「所詮、俺たちなんて……」
「死ぬんだわ……このまま死んでしまうんだわ……」
革命軍の人々はさらに嘆きだした。
「クソが!!」
ジェイクは女性帝国騎士を突き飛ばすと、腹の底から声を出した。
「いいかぁ、てめえら!! 俺様たちは冒険者ギルドに選ばれた最強の冒険者だ!! ここにはA級冒険者とB級冒険者が揃ってる!! 魔王軍だろうが何だろうが、俺様たちの相手になんかなんねえんだよ!!!」
ジェイクの声は、陣地全体に届くのではと思うほど響いた。
そして、彼の言葉に他の冒険者も呼応した。
「そうだ! 俺たちにはA級冒険者が付いてる!」
「そうだそうだ! 俺たちにはミズトがいるんだ!」
「勇者を越えたミズトさえいれば大丈夫だ!!」
五百人の冒険者は、自分たちを奮い立たせるように声を上げた。
「勇者を越えただって……?」
「A級冒険者はそんなに……!?」
「ああ……ミズトさん……あなたが私たちの……」
革命軍の表情に光が差しだした。
絶望の淵から、光明が見えたと皆が思いだした。
そしていつしか、皆はすがるようにミズトの名前を連呼しだす。
ミズト!! ミズト!! ミズト!! ミズト!!
(どうしてこうなった……?)
ミズトは自分の名を浴びながら、必死で笑顔を作っていた。
【ミズトさんが彼らにとって唯一の希望になっています】
(ジェイクの奴、人のこと勝手に利用しやがって……)
と言いながらも、この場をうまく収めたジェイクには少し感心していた。
あれほど絶望していた革命軍の人々の表情が、これだけ希望に満ちているのだ。
ミズトが持つ力なら、この人数をまとめて眠らせる事は簡単だ。
何人いようと、力づくならどうとでもなる。
しかし、絶望している彼らを笑顔にすることは、どれほど大きな力を持とうと難しいのだ。
それを成し遂げたジェイクを、ミズトも認めざるを得なかった。
【ジェイクさんの行動はとても素晴らしいものでした。しかし、それはミズトさんあっての結果であることを、お忘れないようお願いします】
(ふん…………)
ミズトは、エデンの言いたいことは分かっていた。
この、制御の難しい、偽りの力はどうしても好きになれなかったが、誰かが必要とするならば、その行使をする責任が自分にはあるのかもしれない、とミズトは僅かだけ思っていた。
それに、相手が人間じゃないなら、何の気兼ねもなく戦うことができるのも、ミズトを少しやる気にさせていた。
*
それからミズトたち冒険者は、革命軍の人々に見送られ、モンスターの大群に向けて出発した。
「お、おい……あれが魔王軍なのか……?」
一時間ほど歩くと、そのモンスターの大群を見つけた。
このまま進めば十分ほどで遭遇するだろう。
黒いローブの男が言っていたように、まっすぐ革命軍の陣地へ向かっているように見えた。
「な、なんだ……あの数は……」
「ほとんどスタンピードじゃないか……」
「魔族はあの数のモンスターを制御できるってのか……?」
数千体ものモンスターを視認にした冒険者たちは、経験したことのない光景に怯んだ。
(たしかに数も多いが……この感じ……)
ミズトはモンスターの大群の中に違和感を覚えていた。
【ミズトさんの感じとっているとおり、グリノス系のモンスターも相当数が混ざっております】
エデンがミズトの疑問に回答した。
(やっぱそうか……。もしかして、魔族が絡むときはグリノス系のモンスターがいるってことか? それとも、グリノスって付くのが実は魔族とか?)
【どちらでもありません。なお、ひとつ補足するならば、以前遭遇したようなレベル90台はおりませんが、レベル80台が六体います。そして、それに次ぐレベルになるとかなりの数です。もしミズトさんが参戦しなければ、ここにいる冒険者の方々はもちろん、革命軍、その先のセルタゴの人々も壊滅するでしょう】
(…………それってエデンさんの予測?)
【いいえ、確実な未来の出来事ですので、未来視という表現の方が近いです】
(…………)
人間、そういうものを知るべきではないのではないか、とミズトは感じた。