第158話 革命軍を覆いつくす脅威
翌朝、シェリルたち帝国騎士の主要メンバーと、冒険者ギルドのフェルナン、ブライアンは首都セルタゴに向けて出発した。
前日の話の通り、一度街へ戻りセレニア共和国の代表を連れてくることになった。
その間は、ミズトたち冒険者も帝国軍も、周辺で発生したモンスターを退治しながら、その場で待機だ。
と言っても往路と違い、戻っていったメンバーは騎馬か馬車だ。往復にそれほど時間は掛からないだろう。
ミズトは、町中を散策するような気持ちで、一人で陣地内を歩きながら、シェリルたちが戻ってくるまでの時間を潰していた。
(なあ、エデンさん。あの三人は冒険者じゃなく革命軍だよな?)
ミズトは、革命軍の陣地内にいる、黒いローブを着た三人組に違和感を覚えた。
【はい、あの三人は革命軍のメンバーになります】
(だよな……)
ミズトが、その三人に違和感を覚えた理由は二つある。
一つは、三人から悪意を感じるからだ。
当然、革命軍五千人もいれば、良い奴悪い奴がいるものだが、とくにあの三人は野盗に近い悪意を感じるのだ。
そしてもう一つは、彼らのステータスだ。
三人ともレベル60台。C級冒険者や帝国騎士と同程度の能力なのだ。
さらに何より、彼らのクラスが戦士や盗賊系。魔法使いでもないのにローブを着ているのが、ミズトには引っかかった。
(しかも、どっかで見た覚えがあるんだよなあ)
【ミズトさんは、帝都オルフェニアであの三人と接触済みです】
(何? あいつら帝都にいたのか? 何しに来てたんだ?)
【結局ミズトさんには関係ありませんので、気になさらなくても大丈夫です】
(結局…………?)
前の世界ほどではないにしても、この世界にもかなりの人々が生きていると想像できる。
その一人一人が何をしようと、ミズトにはほとんど関係なく、いちいち気にすることではないと分かっている。
それでもエデンの物言いは、理解できず気に入らない時があった。
それから少し経った頃、誰もが驚く言葉が、革命軍の陣地内を駆け巡った。
「た、大変だー! 魔王軍が攻めてきたぞー!!!」
(魔王軍?)
ミズトは、あまりにも唐突な単語に足を止めた。
(なあ、エデンさん。魔王軍ってのは魔族のことだよな? 魔族が攻めてくるのはよくあることなのか?)
【いいえ、魔王軍の攻撃が確認されたのは、二十年前が最後になります。その時は先代の勇者が撃退しております。また、ここ三年は、魔族の活動自体が確認されておりません】
エデンは、この世界の住人なら誰でも知る知識を説明した。
(二十年ぶりねえ……)
ミズトは気配を探るため、周辺一帯に意識を向けた。
すると、首都セルタゴと反対方面に大きな集団を察知した。
(どういうことだ? たしかに物凄い数のモンスターの気配を感じるが……。こいつらが魔族ってことか?)
【いいえ、ミズトさんが察知している気配はモンスターです。魔族の気配は、ミズトさんには人間やその他亜人種と区別つきません】
(なに……?)
よく分からなくなってきた。
ミズトは陣地内で人が集まりだしている場所があることに気づき、状況確認のため向かってみることにした。
「おい! 魔王軍ってどういうことだ! どっちに向かってやがる!?」
人だかりの中、ジェイクが革命軍の一人の襟首を掴み、緊迫した表情で言った。
「す、凄い数のモンスターを引き連れてます! あのまま行けば、この陣地に来るのは間違いありません!」
襟首を掴まれたまま答えたのは、先ほど見た三人と同じ黒いローブを着た男だ。
「クソが、モンスターも連れてやがるのか! 数は!?」
「わ、分かりませんが、数千体はいるようでした」
「数千だと!? チッ、面倒なことになってきやがったぜ! てめえ、魔族の姿は見たのか!?」
「い、いえ、魔族までは確認してませんが、あれだけの種類が集団で行動するなんて、魔族の制御しか考えられません」
「そういうことか……。魔族なんて俺様でも出会ったことはねえ。さすがに魔王はいねえと思うが……」
ジェイクは黒いローブの男から手を離した。
集まってその話を聞いていた革命軍の人々は、困惑しだしていた。
いや、絶望しだしていると言っていい。
低レベルのモンスターにも手こずるような人々にとって、魔王軍という言葉だけで恐怖のどん底に落とされるのだ。
「ま、魔王軍なんて、俺たちは終わりだ……」
「そんな……こんなとこで死ぬのか……」
「ああ……女神様……どうかお救いください……」
すでに泣き崩れるもの、悲鳴をあげているものもいる。
革命軍の陣地は、負の感情で覆いつくされていった。