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第156話 革命軍への共感

 冒険者たちが陣地周辺に現れたモンスターを一通り掃討した頃、交渉に参加していた冒険者ギルドサブマスターのフェルナンと、事務員のブライアンが戻ってきた。

 交渉決裂とまではいかないまでも、何かが決まることもなかったようだった。


 このままでは何も進展がないので、明日の朝に紅蓮騎士シェリルやフェルナンたちが首都セルタゴへ一度戻り、セレニア共和国側の代表団を連れ出し、三者交渉の場を設けることになった。

 仲裁役の帝国メンバーの前で直接話し合わせ、合意条件をまとめようというのだ。


(なあ、エデンさん。共和国側をこんなとこに連れてきたら、戦闘になる危険性があるんじゃないか?)

 事務員のブライアンから話を聞いたミズトは、思いついた疑問をエデンに言った。


【いいえ、連れて来るのは代表メンバー数人なので、その心配はございません】


(数人? 会談の時にいたメンバー程度ってことか? そんな少ない護衛で来るわけないだろ)


【身の安全は帝国が保障するので、その心配はございません】


(なるほど……)


 エデンが言うならきっと大丈夫なのだろう。

 そもそもミズトが心配することでもないのだが、ミズトはこの革命の行く末が気になっていた。




 その日の夜、ミズトたちはそのまま革命軍の陣地で夜営をすることになった。

 同盟国として共和国政府のために来た革命鎮圧部隊なので、なんともおかしな話なのだが、革命軍リーダーと交渉中に、そうなったのだそうだ。


「ガハハハハハッ! ミズト! 見てねえとこで大活躍だったみてえじゃねえか!」

 ミズトの夜営場所に『氷雪旅団』が集まっていた。


「あははは、とても助かりました! さすがは帝国の冒険者さんでしたよ!」

 革命軍の人々も集まっている。


(なんで大宴会みたいになってんだ……?)

 ミズトは、たくさんの人々の中心で、居心地の悪い思いをしていた。


「共和国の異界人いかいびとは、子供っぽい人たちが多くて、最初から好きになれなかったんですよね!」

「共和国があるのは俺たちのおかげだみたいな、上から目線なんだよなー」

「『スマイルファミリー』は身内びいきばかりで、全然馴染めねえのよ!」


 異界人いかいびとのミズトの前で、共和国にいる異界人いかいびとの不満をぶち撒けている。

 いや、異界人いかいびとに対してだけではなく、それを受け入れる共和国政府に対しても大きな不満を持っていた。

 共和国のためには共存が必要なのだと説明されるが、納得がいかない様子だ。


 革命軍の人々の言っていることが、全て正しいとまでミズトは思わなかったが、彼らが彼らの立場で思うのも当然だと感じていた。

 元の世界でも、何かの制度が変わるとニュースになれば、あまり関係ない裕福な有識者は客観的な意見を言うが、直接損害を被る国民は不満を言うものなのだ。


 ミズトだって、労働人口が減り若者の確保が大切だからと、若い社員だけ給料が上がったことに対して、会社として当然の判断と分かっていても、どうも納得いかなかった。

 理屈は分かるが、納得するかは別なのだ。


 ただ、そんな共和国側に不満を持つ革命軍に、冒険者たちはミズトとは違った意味で共感していた。

 自分の力一つで生き抜いている冒険者たちは、権力側が嫌いなのだ。その権力に立ち向かおうとする革命軍には好感を持ったようだった。


 そのせいでただの夜営が、夜がふける頃には、意気投合した双方混ざっての大宴会となっていた。

 そして、それはいつもの帝国軍と冒険者の小競り合いを『帝国軍』対『冒険者・革命軍連合』という構図に変え、数百人が罵り合う大きな騒動へ発展させた。


「帝国軍に所属してるってだけで強くなった気になってんじゃねえよ!」

「冒険者のおまけで来た帝国軍がデカいツラすんな!」


「庶民は帝国軍様に従ってればいいんだ!」

「下民は下民らしくしてろ!」


「てめえ口が臭えよ!」

「誰だ、人の分まで食った奴は!」

 誰が誰に言っているのか分からないようなヤジも飛び交う。


 広大な丘陵地、本来なら物音一つしない静かな場所なのだが、その夜は世界最大の帝都さえ越えるほど活気づき、人々は相乗効果的に感情が高まっていった。

 そんな異様な雰囲気は、いつものようにどこかで殴り合いでも始まれば、大暴動にもなりかねないほどだった。


 もう誰も、暴走する集団のエネルギーには逆らえない。

 高まった感情が止まることはない。

 誰もがそう思えるほどの狂乱に近くなった時、突然、その場の空気が凍りついたように固まった。


「これは何の騒ぎだ?」

 紅蓮騎士シェリルが現れた。


 帝都を出発してから、わざと無視しているのかと思えるほど、夜営中の小競り合いにシェリルが現れたことなどない。

 そんな、帝国軍内で絶大な力を持ち、世界三大騎士の一つである紅蓮騎士の突然の登場は、一瞬で全員の頭を冷やした。


「もう一度聞く。これは何の騒ぎだ?」

 腰に剣を携えてはいるが、布の服姿でいつもの紅い鎧を着ていないシェリルが、紅い髪をなびかせながら、近くにいる帝国戦士に向かって言った。


「た、大変申し訳ございません! ちょっとした余興であり、シェリル様をわずらわせるようなものではございません!」

 帝国戦士は直立不動のまま答えた。


「余興? 誇り高き帝国軍が、余興でこの馬鹿騒ぎをしているのか?」


「も、申し訳ございません!」


「――――まあいい、私には関係ないことだ」

 紅蓮騎士シェリルは、そう言って戻ろうとした。


「ちょっと待てよ、紅蓮騎士様よぉ」

 ジェイクが野太い声でシェリルを引き留めた。

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