第153話 どちらにもある正義
しかし代替案があるわけでもなく、躊躇しているうちに、ミズトは大勢の革命軍という名のセルタゴ市民に囲まれてしまった。
「ガハハハハハッ! ミズト! てめえはどこにいても期待に応える奴だな!」
辺りに野太い大きな声が響くと、人々は固まったように動きを止めた。
(ジェイク……?)
現れたのは、ジェイク率いる『氷雪旅団』の六人だった。
「ぼ、冒険者!?」
「強そうな人たちだ……」
「なんで冒険者が……?」
強面のジェイク達に、人々が動揺しだした。
「ガハハハハハッ! わりいな、てめえら! 俺様は帝国から来た冒険者のジェイク様だ! てめえらを助けるために来てやったぜ!」
ジェイクたちは人々をかき分け、ミズトの元までやってきた。
(おいおい、勝手にそんなこと言って……)
ジェイクの言葉は間違いとまで言えなかったが、変な誤解を与えるような気がした。
「て、帝国の冒険者だって!?」
「冒険者が俺たちを……?」
「ああ……女神様は見捨ててなかったんだわ」
人々から敵意が消え、落ち着いていくのがミズトには分かった。
「ガハハハハハッ! そういうこった! で、この異界人も帝国の冒険者だ。てめえらの敵じゃねえ!」
ジェイクがミズトの肩に手を回して言った。
(むむ……)
大きく分厚い手の感触を、ミズトは肩から感じた。
「そ、そういうことだったか……」
「なんだ、『スマイルファミリー』じゃないのか……」
「関係ないなら良かったわ……」
人々は武器を下ろすと、安心した表情で戻っていった。
「ガハハハハハッ! ミズト、こんなとこで面白えことしてんじゃねえか!!」
ジェイクは肩に回した手を離し、そのままミズトの背中を叩いた。
(…………)
【ジェイクさんたちのおかげで、この場を乗り切ることができたようです】
エデンが淡々と事実を言った。
(ふん…………。それにしても、随分と異界人が嫌われてるみたいだな)
ミズトは先ほどまで自分に向けられた敵意を思い出した。
【彼らは貧困など生活の不満を抱える人々です。異界人を政府が受け入れし過ぎたせいで、自分たちの仕事が減り生活に影響するほど困窮したのだと思っています】
(でも、なんとか指数が上がってるとか、ユウマって奴がドヤ顔で言ってなかったか?)
【国力指数です。実際、首都セルタゴだけでなく、セレニア共和国全体の国力指数はここ二年で上昇しております。しかし、それはあくまで能力や生活水準の高い異界人を含めた場合です。異界人を除き、元々のセレニア共和国民だけで算出した場合、国力指数は低下しております】
(…………それって、ユウマたちは気づいているのか?)
【いいえ。彼らは共和国全体の総生産指数を人口で割っただけですので、中身の分析はできておりません】
(なるほど……)
インターネットもコンピューターもない。スーパーコンピューターと超生成AIを足したようなエデンもいない。そんな環境なら、それが限界のような気もした。
【さらに付け足すと、少数ながら街の人々に迷惑をかける異界人もいるため、人々は異界人に嫌悪感を持ってしまいました】
(…………)
なんとなく心当たりがあった。
双方の状況を確認出来てよかった。
ミズトはそう感じていた。
どちらにも言い分があり、どちらにも正義がある。
争いとは、得てしてそういうもの。
赤の他人が簡単に介入していいものではないのだ。
ただ、ミズトは革命軍の立場の方が理解できた。
元の世界でも、移民問題は世界中で課題になっていた。アメリカやヨーロッパで不法移民や難民の急増が、様々な問題を起こしている。
日本でも、どこかの街に一つの国の出身者が集まり、文化の違いや治安の悪化により住民と対立していると、何かで読んだ。
このセレニア共和国にとっても同じようなものなのだ。
異世界から有無も言わさず人々が勝手に転移してくる。
彼らは文化が違ううえに、ほとんどが若者で、平均的に高い才能を有している。
そして、平等の名のもとに、国籍を獲得した優秀な彼らが国を乗っ取っていく。
それを受け入れられない者がいるのは当然だと思うのだ。
だからと言って、異界人を元の世界へ全員強制送還できるわけではない。寧ろ日々増えていっている。
それならば、お互いが納得のいく共存方法を模索していくしかないのではないか、とミズトは革命軍を見て思っていた。
今のユウマたちは、この国を自分たちで変えてやろう、導いてやろうという、上から目線の使命感から来ているようで、ミズトには一方的に感じるのだった。