第152話 革命軍の人々
翌朝、革命鎮圧部隊は革命軍の陣地へ向けて、首都セルタゴを発った。
と言ってもいきなり攻撃を仕掛けるわけではない。
革命鎮圧が目的ではあるが、可能であれば平和的に解決することがもっとも望ましいと誰もが思っているので、まずは革命軍と交渉するために向かったのだ。
革命軍の陣地は、街からそれほど離れておらず、低い丘が広大に連なる丘陵地を二時間ほど進んだ先に、たくさんのテントを張って構えていた。
砦のような場所に籠っていると想像していたミズトは、いきなり拍子抜けした。
また、革命軍リーダーとの交渉は、ミズトは同席しないことになっていた。
異界人がきっかけの革命に、共和国と関係ないと言っても異界人であるミズトが参加するのは、控えた方が良いとなったのだ。
(なあ、エデンさん。革命軍の陣地とか言っても、ただのキャンプ場にしか見えないんだが、こんなんで相手が攻めてきて対応できるのか?)
ミズトは、フェルナン達と別れ、一人で陣地の周辺を歩きながら、大量のテントを目にしてエデンに訊いた。
【ミズトさんが感じているとおり、これはただ野営をしているだけです。戦闘になった場合は何一つ対処できないでしょう。しいて言えば彼らは、周囲のモンスター発生だけを警戒しております】
(ん? モンスターが発生するのか?)
【はい。この辺一帯は、低レベルのモンスターが発生するエリアになります】
(そうなのか。草木の少ない平地や丘陵地にはモンスターは発生しないのかと思ってた。なら、街の中でもモンスターが発生することはあり得るってことか?)
ミズトはエデンの回答に、ふと疑問を感じた。
【いいえ。最初からモンスター未発生エリアに街を築いているため、街の中でモンスターが発生することはありません。エシュロキア迷宮のように、稀に街の中にダンジョンが発生しますが、以前ご説明したようにスタンピードでも起こらなければ、モンスターがダンジョンから出ることはありません】
(なるほど。なら住人は街の外からの侵入だけ気をつければいいってことだな)
モンスターのいる世界の住人の大変さを改めて思い出した。
更に少し周っていると、ミズトはあることに気づいた。
(――――ん? どういうことだ? 革命軍ってのは家族連れで来てるってことか?)
陣地内にいる人々が、ごく普通の人たちばかりのようだった。
誰も武器や鎧を装備しておらず、クラスを確認すると、料理人・木工職人・鍛冶師・商人・農夫、中には町人というクラスの女性や子供もいる。
【彼らは革命軍のご家族などではなく、彼らが革命軍そのものになります】
エデンが抑揚なく答えた。
(ん……? 革命軍が一般人を装っているってことか? いや、ステータス上のクラスなんだから、そんなわけないか……)
【はい、彼らはセルタゴに住む、普通の一般人です。貧困などで苦しみ、共和国政府に抗議をするためにここに集まっている人たちです】
(つまり革命軍ってのは、こういう戦えない人たちも巻き込んでるってことか?)
彼らのレベルを見ると、ほとんどが一桁だった。
【少し違います。革命軍のほとんどが、彼らのように戦えない人々です。まともに戦えるのは一割も満たないでしょう】
(なんだそれ……)
ミズトは、革命軍というネーミングのせいでおかしくなっていると感じた。
共和国政府との会談の場でユウマたちは、革命軍に対して自国民というより敵軍のような扱いをしていた。
革命軍の出方によっては武力行使も辞さない勢いなのだ。
しかし現実はどうだろう。
革命軍の彼らには戦う力などない。
世界最大国家のレガントリア帝国が、千五百人も引き連れて対処する必要がある相手ではないのだ。
革命軍のリーダーとの交渉がどうなっているか分からないが、この革命鎮圧に武力は必要ない。平和的な交渉だけで終わらせるべきだと、ミズトは思った。
「おい、見ろよ! 異界人が入り込んでるぞ!」
突然、誰かが声を上げた。
(ちょっと近寄り過ぎたか……)
ミズトの存在に革命軍が気づいた。
「お、おい! い、い、異界人が何しに来やがった!」
「お、俺たちはここで抗議してんだ! 街になんて戻らねえぞ!」
「そうよ! 私たちは異界人の言いなりになんてならないわ!」
陣地の中から人々が何人も出てきた。
鍬を構えた農民。
フライパンを振りかざす料理人。(包丁にすればいいのに)
脇に子供を抱えたままの、木の棒を持った女性もいる。
ミズトの能力を考えれば、どうやってもこの場を収めることができる。
もちろん彼らと争う気はないので、囲まれる前に簡単に立ち去ることもできる。
しかしミズトは、ここから逃げてはいけない気がして、その場に立ちつくした。
「つ、杖を持ってるぞ!? 気をつけろ!」
「くそ! また異界人の魔法使いか!」
「あの男のように、魔法で攻撃するつもりよ!」
革命軍の人々は、ミズトの持つ杖に反応した。
ミズトはエレメントリウムの杖を地面に置き、両手を上げた。
「落ち着いてください。私は共和国の異界人では――――」
「耳を塞ぐんだ! の、呪いかもしれないぞ!」
「異界人だ! どんな能力があるか分からん!」
「呪いに杖は不要と聞いたわ!」
ミズトの声は、まったく彼らには届かないようだった。
(どうするか……)
【全部足したところでたった五千人程度ですので、すべて眠らせてしまってはどうでしょうか?】
(また極端なことを……)
ミズトはエデンの提案を却下した。