第147話 二国間会談
(三人のうち二人も異界人か……)
共和国側の三人は、真ん中に座っているのはこの世界の初老男性。その左右にいるのは異界人だった。
向かって右がファシリテーターを名乗ったトオル・コガネイという四十歳ぐらいの中年男性。レベル51のウィザード。
左は二十代半ばぐらいのユウマ・サカキという青年。レベル59でクラスはサムライだった。
会談は、まず現状確認から始まった。
どうやら真ん中に座っている初老男性が共和国議会の議長で、共和国の元首を担っているようだ。
しかし会談は異界人二人によって進められ、ファシリテーターの中年男性が議題を進め、ユウマという青年が全て説明した。
その彼によると、革命軍の規模は五千人程度で、セルタゴから少し離れた丘陵地に陣取っているという。
また革命軍の主張は、異界人ばかりが優遇され、異界人が来たせいで元々の国民の生活水準が下がった、ということだった。
だが青年ユウマは、革命軍の主張を強く否定した。
共和国民であるかぎり全てが平等だ。異界人かそうでないかはもちろん、種族が何であろうと、出身がどこであろうと、共和国の国籍を持っていれば差別することはないという。
生活水準についても、この二年でかなり向上しているはずだという。
共和国には軍務院や財務院など、さまざまな行政組織が存在しているが、異界人が台頭するようになってから腐敗した院は解体され、共和国民のための行政がなされるようになった。
それにより国力指数は上昇しているのだという。
なお、国力指数というのはユウマが提案した、共和国独自の国の豊かさを計る指数で、共和国民一人あたりの収入額を算出しているようだ。
「なるほど、聞いていた通り、この国は中枢まで異界人が入り込み活躍しているようだな」
ユウマの説明が一通り終わったころ、紅蓮騎士シェリルが真ん中に座る共和国議長に言った。
可愛らしい声と強い言葉のギャップに、ミズトは違和感を覚えてならない。
「はい。我が共和国は、このユウマ殿を中心とした異界人の活躍により、確実に発展しております。革命軍の主張は誤りであり、自分たちの努力が足りないことを差し置いて、生活水準が上がらない理由を彼らのせいにしているのです」
議長の言葉からは、異界人、とくにユウマに対する厚い信頼が伝わってきた。
「話は分かった。レガントリア帝国は同盟国である共和国議会を支援する。大船に乗ったつもりでいるといい」
「はい、ありがとうございます。まさか紅蓮騎士様に来ていただけるとは、非常に心強く、共和国にとって大きな励みとなるでしょう。しかも、冒険者ギルドからはサブマスターまでいらっしゃった。これほどの甚大なご協力、とても感謝しております」
「ふん……そうだな」
シェリルは少し不満そうに言った。
それから今後の行動予定を話し合うと、会談終了の言葉を異界人の中年男性が締めくくった。
終了後、シェリルはすぐに立ち上がり、颯爽と会議室を去っていく。
彼女の後ろに控えていた帝国騎士ポーラも後に続く。
途中、何度かジェイクが挑発しているのが分かったが、とくに何事もなく済んだようだ。
そして、帝国の会談参加者は三人いて、シェリルの後ろに立っていたもう一人の男性帝国騎士が、会議室を退室する前に振り返り、共和国側の後ろに立っている者たちを見て言い放った。
「本当に異界人ばかりなのだな。こんな異界人なんかに頼るとは、この国の者は無能ばかりと言うことか」
会談が終わったばかりの会議室の空気が固まった。
共和国側で立っている者は九人。
うち七人が異界人で、男性帝国騎士の言葉は彼らを見下して言ったのだと誰にも分かった。
「ちょっとお待ちください!!」
バンとテーブルを叩いて、ユウマが立ち上がった。
「…………なんだ? 貴様みたいな異界人が何故その席に座っているか知らんが、俺は帝国騎士であり、この鎮圧部隊の副隊長の一人だぞ? 分かっての言葉か?」
男性帝国騎士は目を細め、見下すようにユウマを見た。
「関係ありません! あなたは今、僕の仲間を侮辱しました! 僕は仲間の侮辱を決して許しません!!」
「ほお、許さないから、何だと言うのだ?」
男性帝国騎士はユウマにゆっくり近づいていった。
「謝罪してください! 僕の仲間への侮辱を撤回してください!」
「貴様……この俺にそんなことを言って、帝国の支援がなくなっても知らんぞ?」
「帝国は支援する相手を侮辱するのでしょうか!? 帝国は同盟国の支援をそんな簡単になくしたりするのでしょうか!?」
「…………」
「も、申し訳ございません! お二人とも、どうかここまでにしてください! ユウマ殿、相手は帝国騎士様ですので、どうか、どうか……。帝国騎士様も、ここはどうか……」
慌てて共和国議長が割って入ってきた。
「…………今回は許すが、次はないと思え」
返す言葉がなくなった男性帝国騎士は、そう言って会議室を出ていった。
「ユウマ!」
「ユウマ君!」
「さっすがユウマだぜ!」
異界人がユウマの元に集まってきた。
「ユウマ殿……さすがに肝を冷やしましたぞ……」
共和国議長か汗を拭いながら言った。
「申し訳ないです、議長。でも、仲間への侮辱は、たとえ帝国騎士だろうと許すわけにはいかないんです!」
「ええ、ユウマ殿の仲間思いは理解しておりますが……」
共和国議長はまた汗を拭った。
「何言ってんだ、議長! ユウマにとっちゃ帝国騎士とか関係ないさ!」
「そうだわ! ユウマ君は私たちの英雄なんだから!」
「違えねえ! 帝国騎士より英雄ユウマだぜ!」
異界人たちは馴れ馴れしく議長と話している。
「なんだ、この茶番劇。行こうぜ、フェルナンのおっさん」
ジェイクがフェルナンに言った。
「はい、我々も戻りましょうか」
冒険者ギルドのメンバーは離席するタイミングを失っていたが、ジェイクの一言に動き出し、ジェイク、フェルナン、ブライアンと退室していった。
「あ、待って! ミズトって人!」
ミズトも退室しようとすると、残念なことに呼び止められてしまった。
(ううむ……)