第146話 首都セルタゴ到着
ミズトたち革命鎮圧部隊が、セレニア共和国の首都セルタゴに到着したのは、帝都を出発して二十日目の昼過ぎだった。
首都と言っても、ミズトが今まで見てきた王都や帝都に比べると規模は小さく、千五百人の訪問者によって都市全体に緊張感が走ったようにミズトは感じた。
(大き過ぎず小さ過ぎず、もしかしたら住むにはこのぐらいが丁度いいのかもな)
ミズトは、ニックやダニエル達と出会ったエシュロキアを思い出しながら周りを見まわした。
【小国とは言え首都であるため、様々な施設が揃い、人や物資の交流が盛んに行われています。都会慣れしているミズトさんでもきっと満足するでしょう】
エデンが答えた。
(ああ、そんな感じが俺もするかな。それに気候もちょうど……ん? なんか涼しくないか? もしかして随分と北まで来たからか?)
【はい、フェアリプス王国やレガントリア帝国は温暖気候でしたが、ミズトさんがお気づきのとおり北へ行くほど平均気温が下がります】
(なるほど……ってことは北半球にいるのかね)
はるか昔に見たマンガだったかゲームだったかでは、火の精霊が強い地域は熱帯や砂漠となり、氷の精霊が強いと氷雪地帯となる。
ミズトはそんな設定を、足元にいる子犬のような精霊クロを見ながら思い出した。
それから、首都セルタゴに入った革命鎮圧部隊は、共和国議会府へ向かった。
前列を行く帝国軍の騎士や戦士たちは整然と進んでいたが、後列の冒険者たちは当然のようにまとまりなく歩いていた。
途中の店に立ち寄る者。違う道へ逸れていく者。若い女性を見つけ声を掛けている者さえいる始末だった。
ミズトも列から離れ、ただの旅人のような顔をして、独り大通りを進んでいた。
「ねえキミ! 未所属ならうちのクランに入らない?」
少し歩くとミズトは誰かに声を掛けられた。
「待てよ! よく見たら転生者だぜ!?」
「分かってる! でもレベル50の未所属なんてガチでレアもんじゃん!」
ミズトは声の方向へ振り向くと、二人組の男が自分へ話しているのだと理解した。
どちらも二十歳前後の異界人だ。
「すみません」
ミズトは街中のティッシュ配りを拒否するかのように、手のひらを向けてそう言うと、その場から立ち去ろうとした。
「ちょっと待って! ちょっと待って! キミ、入るクランは決まってるの!?」
男はミズトの前に回り、しつこく食い下がった。
(チッ。こいつ、悪質な客引きじゃねえんだから、軽く拒否しただけで諦めろよ!)
「すみません、クランには興味ないので」
「いやいや、ちょっと待ってよ! クランに興味ないって、どこかのクランに入った方が得に決まってんじゃん! 入った方がいいよ! とりあえずうちに仮入部とかどう?」
(大学のサークル勧誘じゃねえんだから……)
「すみません、クランの事は知っています。帝都に知り合いのクランがいくつかありますので」
ミズトは足を止めることなく、なるべく男を見ないようにしながら答えた。
「帝都……? まさかレガントリア帝国から来たの!?」
「ええ、まあ」
「あっちは異界人だと差別されるって聞いたけど……」
男はミズトの歩速に合わせながら呟く。
「もういいよ、行こうぜ! セルタゴの奴じゃないみたいだし! それより教会近くに新規の転移者が出たって話だ!」
「マジか! 他のクランに取られたら大変だ、急ごう! あ、キミ、もし気が向いたら声かけてね!」
男はそう言うと、もう一人の男と駆け足で去っていった。
(…………必死すぎんだろ。そんなにクランのランクを上げたいのかね)
ミズトは、他の異界人と関わるのはやっぱり面倒そうだと感じていた。
ミズトが共和国議会府に着くと、革命鎮圧部隊のほとんどが揃っていた。
これだけの人数が集まっても、まだ余裕があるほど広い敷地だ。
「ミズトさん!」
冒険者ギルド事務員のブライアンが、ミズトを見つけると大声で手を振りながら駆け寄った。
「ブライアンさん?」
(って名前だっけ?)
「いやー、探しましたよ! 共和国首脳と会談が始まりますので、急いでください!」
「はい?」
「首脳会談に冒険者ギルド側の同席も認められました! 当然フェルナン様が代表として同席されますが、ミズトさんとジェイクさんにも警護の名目で参加いただくことになりました!」
(なりましたって……)
会社が決めた事に従うしかない中間管理職の気持ちを久しぶりに思い出した。
それから敷地のわりには小さな共和国議会府に入ると、会議室ではちょうど会談が始まるところだった。
十人以上は座れそうな長テーブルには五人着席しており、片側には共和国の代表と思われる者が三人、反対側には紅蓮騎士シェリルと冒険者ギルドサブマスターのフェルナンが座っている。
ミズトとブライアンは、フェルナンの後ろに立っているジェイクの横についた。
場の厳粛な空気を読み取ったクロは、入り口付近の端で丸まる。
「それでは、これよりレガントリア帝国代表と、セレニア共和国代表による会談を始めたいと思います。ファシリテーターは私コガネイが務めさせていただきます」
会議室の扉が閉まると、共和国側に座っていた三人のうちの一人が立ち上がり、厳かに言った。