第142話 至高のウィザード
『氷雪旅団』のメンバーも、冒険者ギルドの事務員やサブマスターと同様に、五百人の冒険者の向かいに立っていた。
「俺様が『氷雪旅団』のジェイクだ! てめえら、よろしく頼むぜ!!」
ジェイクはそう声を張り上げると、一瞬ミズトに目を向けた。
「ジェイク率いる『氷雪旅団』っていやあ、帝都常駐じゃ最強のパーティじゃねえか」
「素行は悪いが、実力は折り紙付きらしいぞ!」
「いや、最近は前みたいにトラブルを起こすこともなく、ひたむきに依頼をこなしてるって話だぜ」
聞こえてくる声からすると、ジェイク達の名は冒険者たちの間で広く知られているようだった。
(ジェイクか……暑苦しい奴らも一緒かよ……)
【ジェイクさんたち『氷雪旅団』とは、『テルドリス遺跡の古代種討伐』以来になります。彼らはここ帝都オルフェニアで活動されているようです】
エデンが補足した。
「そして!!」
冒険者ギルド事務員は、一段と声を大きくした。
「異界人では初にして、ソロでありながら三年ぶりのA級昇格者となった、至高のウィザード、ミズト・アマノさんです!!」
「……」
ジェイク達と同じように冒険者ギルド事務員やサブマスターと並んで立たされていたミズトは、何も言わずに軽く会釈をした。
「すげえ、A級冒険者なんて初めて見たぜ!」
「あれが噂の異界人かよ!」
「ソロでA級とかバケモンじゃねえか!」
ジェイク達の時よりも冒険者たちは騒いでいる。
「おいおい! そんな子犬連れたチビが本当に強えのかよ!?」
身体の大きな、犬か狼の獣人が喧騒をかき消すほど大声で言った。
それを聞いた事務員は、その獣人を見据えてゆっくりと答えた。
「あなたはたしかC級冒険者でしたね? きっとそこまで辿り着くのに十年以上の歳月を費やしてきたのだと思います。そんな冒険者の方から湧くその疑問も分かります。ミズトさんは異界人でありウィザードのため、見た目で強さが判断できません――――。しかし!!」
事務員は声を強めると、五百人の冒険者を見渡しながら声をさらに上げた。
「ミズトさんは先日の合同型依頼で、あの勇者パーティさえも越える貢献をされました! 更には、その合同型依頼に参加した全てのB級冒険者が実力を認めたうえに、こちらにいるジェイクさんが、この重大な依頼に彼を推薦したのです!」
「勇者パーティだって!?」
「あのジェイクが認めたのか!」
「やっぱA級はとんでもねえぜ!」
(こいつら……他人の話題で勝手に盛り上がってんじゃねえよ……)
ミズトは居づらさを感じながらも、どう表情を作っていいかもわからず知らぬ顔をして立っていた。
「それではミズトさん! 冒険者の皆さんに一言お願いします!」
(………………マジか)
事務員に突然話を振られ、ミズトは思わず表情が崩れそうになったが、前の世界では一応管理職。人前で話す経験がないわけではなかった。
無視するわけにもいかず、仕方なく当時を思い出しながらミズトは話しだした。
「えー、皆さま、お忙しいところお集まりいただきありがとうございます。ただいまご紹介にあずかりましたミズト・アマノです。優秀な皆さまが一致団結すれば、きっと素晴らしい成果を上げられると思います。私たち冒険者がこの世界に住む人々の礎であることを証明するために、帝国騎士団の方々と協力し合い、力を合わせて革命を鎮圧しましょう」
「……」
「……」
「……」
静かに話を聞いていた冒険者たちは、ミズトの話を聞いてより一層静かになった。
「ガハハハハハッ!! 異界人の話は分かりづらくていけねえな?」
ジェイクがミズトに近づき、そのまま肩に手を回して言った。
「代わりに俺様が言ってやる。いいか、てめえらぁ!! 騎士団の奴らに冒険者の力を見せつけてやるぜ!!」
「おおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」
ジェイクの掛け声に、五百人の冒険者が応えた。
(なんだよそれ、目的がずれてんじゃねえか……)
「ガハハハハハッ! 久しぶりだな、ミズト! 相変わらず小せえし、黒い子犬を連れてんだな!」
(お前も相変わらデケえし、傷だらけでうぜえんだな)
「てめえが帝都に来てるって聞いて、マジ丁度良かったぜ! しっかり頼んだぞ!」
(こいつ……何で俺を推薦しやがったんだ)
【もちろんミズトさんの実力をジェイクさんが認めたからです。あの戦いを見た者なら当然です】
エデンは『テルドリス遺跡』での戦闘について説明した。
(くそ面倒くせえな……)
「それよりよ! ギルバートの小僧の話聞いたか?」
「ギルバート? 剣聖のギルバートさんのことですか?」
(そんなこといいから、肩に乗せた手をどけやがれ)
「ああ、剣聖の小僧だ。あの野郎、どこかの武闘大会で負けたらしいぜ! しかも異界人の女剣士によ!」
「異界人にギルバートさんが?」
(ギルバートってレベル70だったよな? 異界人がレベル70の剣聖よりも強くなれるのか?)
【そのうちお分かりになります】
(は……? なんだよその回答……。まあいい、どっちも俺の知ったことじゃねえしな)
「ずいぶん強い異界人がいるものですね」
エデンの言い方は気に入らなかったが、そういえばミズトには興味ないことだった。
「ガハハハハハッ! 異界人が強えのか、ギルバートの小僧が弱えのか知らんが、ざまあねえ話だよな! ま、どうせてめえには及ばねえよ!」
ジェイクはそう言ってミズトの肩をポンポンと強めに叩くと、『氷雪旅団』のメンバーの元へ戻っていった。
(はあ……疲れた……)
ミズトには先が思いやられる出発日だった。