第141話 出発準備
三日後、革命鎮圧部隊が出発する朝、ミズトは旅支度をしながらエデンに問いかけた。
(なあ、エデンさん。これから向かうのはセレニア共和国の首都セルタゴってとこだよな? ここから何日ぐらいかかるんだ?)
【帝都オルフェニアからセレニア共和国の首都セルタゴまでは、二十日前後の行程になります】
(は? 二十日もかかんの? 思ったよりかかるな……)
【革命鎮圧部隊には、レガントリア帝国騎士が百騎と帝国戦士や帝国魔導士などが千人弱、そして冒険者が五百人ほど参加予定です。帝国騎士以外はほとんどが馬車か徒歩の移動となりますので、進軍速度をあまり上げることはできません】
(まあ、それだけの数の馬を揃えられないだろうし、全員が馬に乗れるわけでもないだろうしな……。それにしてもさ、革命の規模感が分からんけど、千五百人ぐらいで鎮圧なんて出来るのか?)
旅支度と言っても、出したままにしていた物をマジックバッグへ入れるだけの作業を終えると、ミズトはエレメントリウムの杖を取り出しながら訊いた。
【セレニア共和国は全人口五十万人ほどの小国です。革命が起こっている首都セルタゴの人口は十万人程度ですので、十分対処可能な人数と言えるでしょう】
(首都で十万人か。十万人の町に千五百人の自衛隊が乗り込んで来たと考えれば、多すぎるぐらいかね……。そういえば俺の不在中も、ゴーレムは勝手に警備したり掃除したりしてくれるんだよな?)
【はい。ゴーレムはミズトさんが近くにいない場合でも、忠実に指示を実行し続けます。なお、家事用のゴーレムには、アリヤンさんのお店への定期的なポーション運搬と、素材集めを追加指示してはいかがでしょうか?】
(ん……? すまん、もう一回言ってくれ……)
【一階の広間には、シュンタさん達が置いていったマジックボックスがあります。ミズトさんが所持しているマジックバッグに性能は及びませんが、それなりの収納量がありますので、お持ちのポーションを一部移しておけば、不在中もゴーレムが定期的にアリヤンさんのお店へ届けることが可能です】
(そんな事までやらせられるのか……)
【ミズトさんの生成したゴーレムですので、極めて汎用性が高くなっております。アリヤンさんに事情をお伝えしておけば問題ございません。また、空いている時間は素材集めをさせておけば、ミズトさんがお戻り後すぐに調合できます】
(なるほど……。こうなると高性能ロボットみたいで、ファンタジーというよりSFな世界になってきたな…………)
ミズトはエデンの提案どおりに家事用ゴーレムへ指示をすると、アリヤンの店に寄ってから集合場所へ向かった。
*
革命鎮圧部隊に参加する冒険者は、帝都オルフェニアにある冒険者ギルド本部の訓練場に集まっていた。
世界最大都市にある本部というだけあって、冒険者ギルドの敷地だけで広大な面積だった。
その中にある訓練場は、陸上競技場ほどの広さは軽くある。
「冒険者の皆さま! この重大な依頼にご参加いただき、冒険者ギルドを代表してお礼を申し上げます!」
五百人ほど集まった冒険者に向けて、冒険者ギルド事務員が声を上げた。
「おい、あれって冒険者ギルドのサブマスターの一人じゃないのか?」
「ああ、間違いない。あれはエルフのフェルナンさんだ」
「サブマスターが同行する依頼なんて聞いたことないぞ。どうなってんだ?」
冒険者たちは事務員の隣に立つ、冒険者ギルド幹部の姿を見て騒ぎ出した。
ミズトもその冒険者ギルド幹部の顔に見覚えがあった。
先日、冒険者ギルドマスターのブルクハルトがタクマの店にやって来た際、フェルナンは後ろにいた三人のうちの一人だ。
あの時はとくに何も発言しなかったが、エルフがドワーフに同行していたので記憶に残っていた。
ミズトが知っているファンタジー世界では、エルフとドワーフは仲が悪いイメージなのだ。
「今回は革命という歴史的な出来事に冒険者ギルドが介入します!」
冒険者ギルドの事務員は、演説するように更に話を続けた。
「これは冒険者ギルドがただの便利屋なのではなく、この世界に住む人々の礎であることを証明する第一歩なのです! サブマスターであるフェルナン様が参加することで、冒険者ギルドがどれほど今回を重要視しているかお分かりになるでしょう! 皆さまも帝国騎士団に後れをとることなく、しっかりと実力を発揮していただきたい! もちろん力を尽くすのは冒険者の方々だけではない! 冒険者ギルドとしても誠意を見せるため、高位の冒険者を揃えさせていただきました! まずはご紹介しましょう、B級冒険者『氷雪旅団』の皆さんです!」