第136話 屋敷での生活
「おい! 誰かいるか!? いるのは分かってるぞ!」
朝から屋敷の扉を叩きながら、誰かが声を上げている。
二階の部屋にいたミズトは居留守を使っていたのだが、諦めようとしない訪問者に根負けし、仕方なく階段を降りた。
子犬のようなブラックフェンリルのクロも彼に従う。
「すみません、お待たせしました。どちら様でしょうか?」
扉を開けたミズトはそう言ったものの、訪問者の装備を見てすぐに帝都の衛兵だと気づいた。
「貴様は異界人だな!? 他には何人の異界人がいるんだ!?」
立っていた二人の衛兵のうち、一人がミズトの言葉を無視して声を荒げた。
「ここは私一人で住んでいます」
(目の前にいるのにでけえ声で話すなよ、鬱陶しい)
「一人だと? 嘘をつくんじゃない! 異界人が何人も住んでると聞いてるぞ!?」
「たしかに以前はそうでしたが、半月ほど前から私一人だけで住んでいます。どうぞ、中をご確認ください」
ミズトは何の要件で来たのかも分からないままだったが、口論をする気にもなれないので、扉を大きく開けて二人の衛兵を屋敷内へ促した。
クロも衛兵が通れるように道を開ける。
「ああ、そうさせてもらおう」
衛兵たちは当たり前のように中へ入ってきた。
それから二人は手分けして屋敷内の部屋をくまなく見て回り、ミズト以外誰もいないことを確認すると、玄関フロアに戻ってきた。
「おい、貴様。本当に誰もいないではないか! 他の異界人はどうした?」
(最初から一人だと言ってんだろ)
「皆さん、ちょっと用事があって帝都を出ています。その間は私が預かることになりまして」
「チッ、ただの留守番か。貴様の名前は?」
衛兵は顎でミズトを指した。
「ミズト・アマノと申します」
「で、アキラって奴はいないのか?」
(アキラ?)
【冒険者を殺害した若者です】
(ああ……あいつか……。てことは要件もそういうことか……)
「申し訳ございません。アキラも一緒に出ております」
「本当だろうな? 隠すとためにならんぞ? そいつは冒険者を殺した殺人犯だ。異界人だろうと帝都での犯罪は見逃さん」
「もちろんです。誰であろうと罪を犯した者は罰せられるべきだと私も思います」
「ほお、分かってるじゃないか。いいか、今日のところは帰るが、もしアキラって奴が戻ってきたら、ちゃんと我々に報告するんだぞ?」
「はい、承知しました」
ミズトには知ったことではないと思ったが、この場は取り繕った返答をした。
「あ、そうそう。いくら若造が一人で住んでるからと言っても、もう少し片付けた方がいいぞ? じゃあな!」
「……そうですね、助言ありがとうございます」
ミズトは会釈すると、二人が出てから扉を閉めた。
(くそ……俺が散らかしたわけじゃねえのに……)
【ミズトさんが散らかしたわけではないとしても、放置したままなのはミズトさんになります】
エデンが補足した。
(ガキどもが散らかした部屋を俺が片付けるのはムカつくけど、俺が散らかしたままと思われるのも何かムカつくな……)
【ミズトさんなら世界一手際よく綺麗に掃除が可能です】
(…………)
不必要な高い能力は気にしないにしても、次に誰かに見られる前に片付けておく必要がありそうだとは感じていた。
*
その日の夜、ミズトの住む屋敷に再び訪問者が現れた。
深夜遅く、ミズトが寝静まった後だった。
(チッ、誰だよ、こんな時間に……)
ミズトは悪意を察知して目が覚めた。
【ただの強盗です。敷地内に五人侵入しています】
(ったく……金目のものなんてねえのに)
【何も盗られなくても、壊されたら損害になります】
(ああ……面倒くせえな!)
「スリープ」
ミズトは杖を取り出し魔法を唱え、屋敷の周辺にいる五人を眠らせた。
半日は起きない程度に調整はしたのだが、このまま放っておくわけにもいかないので、ミズトは五人を紐で縛り上げ、人目のつきそうな大きな通りに捨ててきた。
【これだけ大きな屋敷に、一人しか住んでいないことが周囲に気づかれだしています。今後も強盗のようなものに狙われるでしょう】
(マジかよ……。エデンさんが言うんだから可能性高いんだろうな……。なあ、エデンさん、何かいい手はないか? 屋敷まるまるロックの魔法で囲むとか出来ないのか?)
【ミズトさんの能力を考慮すれば、有効な手段はいくつか考えられますが、ゴーレムを生成することをお勧めします】
(ゴーレム? 警備させるってことか?)
【はい、クラス『ウィザード』の魔法『クリエイトゴーレム』でゴーレムを生成し、屋敷の警備を任せることができます。さらに、全能生産者であるミズトさんが生成したゴーレムなら、掃除や洗濯など家事も可能です】
(マジで!?)
ミズトは思わず振り向いて、見えもしないエデンに言った。
【本来ゴーレムは戦闘用ですが、全能冒険者と全能生産者、両系のクラス持ちであるミズトさんのみ可能となります】
(ふむ、警備の意味だけでも、俺が不在の時に強盗が入ると困るし、色々と助かるな……。魔法書はどこで手に入るか分かるか?)
【ここは世界最大の都市、帝都オルフェニアです。大きめの魔法屋ならだいたい扱っています】
(そういうことなら早速明日にでも行ってみるか)
いくつか気になっていたことが、まとめて解決できそうだった。