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第135話 動き出す世界

 ミズトが屋敷の所有権を受け取ってから、十日が経っていた。

 巨大な帝都の日常は、シュンタたち四つのクランメンバーが去ったところで、何ひとつ変わることはない。

 日本卍会とやらが現れることもなく、ミズトは一人、平穏な帝都生活を送っていた。


(それにしても、一人で片付けする気は起きんな……)


 朝、散らかった広間を見ながらミズトは思った。

 もちろん自分の寝泊まりする部屋ぐらいは片付けたが、それ以外は今のところそのままだった。


【全能生産者の熟練度が10のミズトさんなら、簡単に屋敷全体を綺麗にする事が可能です】


(そうなんだろうけど……)


 調合のようにスキルを使えば、パッと光って勝手に完成するならいいのだが、掃除や洗濯のような家事はそうもいかないようだった。

 単に手際良く身体が動くだけで、一つ一つ動かなければならないのだ。


 前の世界でも特別綺麗好きというわけでもなかったので、スキルの有無に関係なく、なかなか手をつける踏ん切りがつかなかった。


(ま、そのうち……そのうちね……)


 結局その日も片付けることなく、ミズトは屋敷を出た。




「おい、聞いたか!? 皇帝陛下がお戻りになられたらしいぞ!!」


 街を少し歩いていると、そんな声がミズトの耳に届いた。


(そういえば皇帝と帝国騎士団は留守だったんだっけ。戻ったってことは、これでクレアは謁見できるのか)


【はい。エドガーさんが屋敷に一度訪れ、皇帝が戻り次第謁見ができる許可が下りたと、わざわざご報告にいらしてました】

 エデンが反応した。


(律儀な奴だよな。俺には関係ない話だが、クレアが目的を達成できたっていうなら、まあ良かったんだろうし)


【ミズトさんが依頼を受けた甲斐がありました】


(ふん……)


 ミズトは何の気無しに、皇帝や騎士団を見るために中央通りへ向かった。

 興味があったわけではないが、日々やる事もないため、人々が集まるところに自然と足が向かうのだ。


(すげえ人だな……)


 帝都の中央通りは、日本の大都会に慣れているミズトすら驚かせるほど、人が集まっていた。

 自動車のないこの世界には不釣り合いな幅広い中央通りの沿道に、皇帝たちを一目見ようと、隙間なく人々がひしめき合っていた。


(プロ野球の優勝パレードなんかより多そうだな)


【この中央通りには、現在約二百三十万人の人々が集まっております】


(は? 二百三十万? なんともまあ……)

 ミズトの想像を一桁越えていた。


 それから少しすると、帝国騎士団の隊列が近づいてきた。


「おおお! 先頭におられるのは帝国の至宝、紅蓮騎士ロードのドレイク様!」

「すごい、紅蓮騎士六人が揃われているの初めて見たわ!」

「本当だ! 新しく任命されたシェリル様もいらっしゃる!」


 ミズトの目の前を、真紅の鎧を着た騎士が通り過ぎていく。

 先頭を行く騎士は、三十代半ばの白人系男性。ハリウッド映画の主人公のような端整な顔立ちにハサミで揃えたような顎髭あごひげが良く似合い、騎馬の上でマントをなびかせる姿は絵になっていた。


 ====================

 ドレイク・レッドブレード LV97

 種族 :人間

 加護 :火の精霊

 クラス:紅蓮騎士ロード(熟練度10)

 ステータス

  筋力 :S(+A)

  生命力:A(+B)

  知力 :C

  精神力:C

  敏捷性:C

  器用さ:B

  成長力:A

  存在力:B

 ====================


 真紅の鎧を着ているのは、先頭を行く六人だけだった。

 クラス名に記載されている『紅蓮騎士』というのは、帝国騎士の中では特別の存在のようだ。


 彼らに続いて数千人にも及ぶレガントリア帝国騎士が通り、さらには馬に騎乗していない帝国戦士、帝国魔導士、帝国射手、帝国僧侶が数万人続いた。

 大行列の中盤に現れた豪華な馬車は、中が見えなくても帝国の皇帝が乗っているのだと簡単に分かった。


「これで最近騒がれてる武装集団は一網打尽だな!」

「ああ、帝都でテロ行為なんて許していいわけねえ!」

「皇帝陛下万歳!! 帝国騎士団万歳!!」


 何から凱旋してきたのかミズトには分からなかったが、帝国民が圧倒的な存在感を見せる帝国騎士団を熱烈に歓迎しているのは分かった。

 これほどの巨大な武力が帝国を守っているという安心からなのだろう。


(とんでもない規模だ……。これを見てると、クラン同士の小競り合いなんてチンケすぎて馬鹿らしく思えるな)


 ミズトは連絡のつかないシュンタ・ナカガワ達を思い浮かべていた。

 彼らにも彼らなりの思いがあってこの世界へやってきて、彼らなりに生活をしていた。


 それをミズトがとやかく言うようなことではないのだが、料理人タクマのようにこの世界の一員として生きるのが正しいのではないか。異界人いかいびとだけで集まり、異界人いかいびと同士で争い合うのは間違っているのではないだろうか。と思ってしまうのだ。


 とくにアキラという少年のように、この世界に迷惑をかけるのは気に入らなかった。

 海外へ旅行している日本人が、観光地で問題を起こしているとニュースで聞いた時の感覚を、彼に対してミズトは持っていた。


 しかし、そんなミズトの考えを余所に、異界人いかいびとはこの世界へさらに大きな影響を及ぼしだしていた。


 ====================

 神楽がランク6にアップしました。

 ヒロ・ヤマガミさんがノヴァリス大陸で建国しました。

 ====================


(建国? どういう意味だ?)

 数日後、ミズトは世界ログに思わず反応した。


【クラン『神楽』のランクが6へアップしたことにより、()()『神楽』へと昇格しました。なお、ヒロ・ヤマガミさんは同時に、世界中の国々へ『神楽』建国を宣言しております】


異界人いかいびとがこの世界で一つの国家を作ったってことか……)

 ミズトはシュンタの言葉を思い出し、複雑な気持ちになっていた。



 『神楽』はこの世界そのものと敵対しているんだ。

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― 新着の感想 ―
中央通りに230万人の人々が集まってしまうと、さすがに物理的に不味いのでは・・・。23万人でも、結構な致命傷に成るかと。 あと、主人公の行動が面白いので読ませていただいてます。頑張ってください。
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