第134話 シュンタたちの行末
それから一週間ほど経った頃、アリヤンの店を訪れたミズトは、異界人がポーションを買い占めているという話を耳にした。
ミズトが調合した最高品質のポーションは、もともと購入数を制限していたが、とくに制限を設けていないアリヤンの店のポーションは、かなりの数を買い漁っていったようだった。
もちろん必要な量をちゃんと支払って買うことに何の問題もないのだが、周辺エリア一帯のポーション屋で買い占めをしたことで、一時的な品不足に陥っていた。
他の客の分が足りなくなる時期があったのだ。
しかも、どうやら話を聞いていると、買い占めをしているのはシュンタたち『オヤジ狩り』や、彼らと同じクラン集会所を利用しているクランメンバーのようだった。
前の世界で感染症のパンデミックが起きた初期の頃、どこかの国の人々が日本に来てマスクを買い漁り品不足になったことを思い出し、ミズトはシュンタ達の行動に嫌悪感を抱いた。
そしてその日の夜、『日本食タクマ』で食事をしていると、シュンタがミズトを探して店を訪れた。
「やっぱりここか! 良かった、ミズト君。今日中に見つけられて」
「ナカガワさん?」
昼間の話もあったので、ミズトはあまり話したいとは思わなかったが、空いている向かいの席をシュンタに勧めた。
「実はミズト君にお願いがあって探してたんだ。前にうちのクランが『日本卍会』と揉めてる話したよね? その『日本卍会』がとうとう帝都の近くまで来てるんだけど、決着をつけようと思ってるんだ」
シュンタは椅子に座りながら言った。
「それでポーションを大量に?」
「そそ。ミズト君にまで伝わってたか。帝都の人たちには買い占めみたいになって申し訳ないけど、背に腹は代えられないからね。で、ミズト君にお願いって言うのが、クラン集会所になってる屋敷の所有権を預かってもらいたいんだ」
「私に? 他のクランの方ではなく?」
「あの集会所を利用しているのはうちも合わせて四つあるんだけど、四クランの連合で『日本卍会』と戦うつもりなんだ。だから戻るまで誰もいなくなるんだよね」
(戦うねえ…………)
「お話は分かりましたが、別に預ける必要もないと思いますが。それに私である必要も」
「いや、所有権を持ったままだと、彼らに奪われる可能性があるんだ。そうなると帝都に『日本卍会』が住みつくことになるから、他の異界人に迷惑がかかるからね。それに引き換えミズト君は色々信用できるし、ソロでいくつもダンジョンを攻略するほどの強者でしょ?」
「あ……れは……」
「新大陸で会った時は気付かなかったんだけど、ミズト君のダンジョン攻略ログを後で思い出したんだ。ステータスだけ見ると特別な感じはしないけど、転生者って俺たちの知らない何かがあるんじゃないかと踏んでるんだよね。ミズト君、どう見ても普通の高校生じゃないし」
「…………」
「別に君のことを詮索しようとしてるわけじゃないよ。ただ、戻ってくるまで預かってくれればいい。もし戻って来なかったら、そのまま利用してもらってもいいし」
何か変なフラグが立っているような気がしたが、ミズトは気を使ってくれているシュンタの依頼を受けることにした。
「分かりました。そういうお話でしたら、戻るまでお預かりします」
「ありがとう、悪いね! 一応、明日中には出発する予定だから、明日の夜から好きに使ってもらっていいよ」
「はい。では盗賊に荒らされないぐらいは、気にかけておきます」
シュンタは立ち上がり、ミズトの言葉に親指を立てて答えると、そのまま何も頼まず店を出ていった。
もしエデンが彼の未来を知っていて、それをミズトに忠告してくれたなら、もしかしたらミズトは彼を引き留めるか、抗争に参加するようなことがあったかもしれない。
しかし現実はそうもいかなかった。
エデンが未来を教えてくれることもなく、何か重要なクエストも発生しない。
ミズトがその結末に影響を与えることはなかったのだ。
それから五日後、彼らに関わる世界ログが流れた。
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オヤジ狩りが日本卍会に敗北しました。
戦慄の乙女が日本卍会に敗北しました。
チーム世紀末が日本卍会に敗北しました。
北海道フェアが日本卍会に敗北しました。
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