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第133話 巨大クラン『神楽』

「すみません、お邪魔しています。タクマさんが気になるようで、ちょっと様子を見てくるように頼まれました」

 ミズトは、近づいてきたシュンタに状況を説明した。


「そっか。タクマさんは異界人いかいびととこの世界の人たちが争うのを嫌がるからね。ま、さすがに冒険者殺しは、タクマさんじゃなくてもどうかと思ってるけどさ。ミズト君は聞いててどう思った?」


「はい? えっと……私には何とも……」

(ガキが異世界に迷惑かけてんじゃねえよ!)


「ふ~ん。ま、俺らからするとアキラの言うことも分かるんだよね。だって、俺らは異世界アニメに憧れて、前の世界を捨ててまで転移してきてるんだ。思い描いた異世界生活と違うここは、やっぱり気に入らないって思っちゃうのさ」


「そうなんですね」

(気に入らないのはお互い様じゃね?)


「新大陸にいたミズト君は感じてないかもしれないけど、何だかんだ言って異界人いかいびとって嫌われてるんだよね。アキラの言う通り能力はこの世界のトップには遠く及ばないのに、中途半端な優遇を妬んでさ。だから、『神楽』のやってることは俺らからすれば正義なんだ」


「『神楽』って、一番大きいというお話のクラン『神楽』のことですか?」


「そそ。あそこは『日本卍会』みたいに、クラン同士の争いなんか興味ない。『神楽』はこの世界そのものと敵対しているんだ。三年ぐらい前、あの世界ログが流れてから、この世界にいる全異界人(いかいびと)の共通認識さ」


 ====================

 神楽が世界騎士団に宣戦布告をしました。

 ====================


「世界騎士団に宣戦布告したんですか? 同じ名前のクランなのでは?」


「いや、この世界に存在する組織の名前を、クラン名には付けられないんだ」


「なるほど……」


 ミズトは『神楽』のメンバーであるカズキ・コガと、世界騎士団の二人が対峙していたシーンを思い出していた。

 片方の『神楽』は異界人いかいびと千人以上からなる巨大なクラン。もう片方の世界騎士団はこの世界全体の治安を守る世界最強の騎士団。


 あのシーンの結果がどれだけの影響を世界に与えるのか、今になって納得してきた。


(だから限定クエストだったってことだろうな……)


「でもね」

 シュンタが言葉を続けた。

異界人いかいびとの全てがこの世界と敵対してるわけではないよ。タクマさんみたいに個人で頑張ってる人もいるし、隣国のセレニア共和国なんかは異界人いかいびとが完全に国民になってるから」


「国籍を持っているってことですか?」

 ミズトは少し興味が湧き、シュンタの顔を見た。


「そういうことだね。あそこはスタート地点の一つだから、異界人いかいびとの数が多いんだけど、そのまま共和国に住みついて共和国民になることもできるんだ。中には政府の役職に就いてるような異界人いかいびとも何人かいるみたいだよ」


「完全に溶け込んでいますね」


 シュンタはこの世界と敵対する『神楽』に共感しているみたいだが、ミズトにはセレニア共和国の姿が異界人いかいびとのあるべき姿なのではないかと感じていた。


「いいか、アキラ! もう殺しだけはするなよ! お前の言い分に関係なく、そんなことをすればクランにも迷惑をかけるんだぞ!」

 三十代の青年オジサンは、そう言って広間を出ていった。


 アキラと彼の争いは、殴り合いが始まるのではと思えるぐらいまでヒートアップしていたのだが、さすがに見かねた周りの人間が割って入り、同世代の言葉を聞いてアキラは何とか収まった。

 納得したわけではなさそうだが、青年オジサンが席を外すことで落ち着いたのだ。


「彼はこれからどうなるのですか?」

 ミズトは殺人を犯したアキラについてシュンタに尋ねた。


「ん~、さすがに衛兵や冒険者ギルドに突き出すわけにもいかないから、どうにもならないかな。俺たちが裁くわけにもいかないし」


「そうですか……」


 殺人を犯して何の罰も受けない。

 それが正しいわけがないとミズトは思うのだが、異界人いかいびと異界人いかいびとを守るためにかばいあう。異世界であるここでは、それはそれで正しいのかもしれないと、思わなくもなかった。


「ミズト君、悪いけどタクマさんには濁しておいてもらっていい? アキラのことタクマさんが知ればどう思うか分からないし、何かあった時、タクマさんを巻き込むわけにもいかないからね」


「たしかに……分かりました……」


 ミズトはタクマに嘘の報告をするようで嫌だったが、タクマが冒険者殺害事件に巻き込まれ、何かしら咎められるのも嫌なので、シュンタの意見に乗ることにした。

 また、タクマを気づかってそんなことを言うシュンタに、少し好感を持った。


「では私はこれで」


「うん、また何かあれば。用事がなくても、たまには顔出してね」

 シュンタは部屋を出るミズトを、笑顔で送り出した。

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