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第132話 転移者の才能

「おい、アキラが集会所に戻ってきたらしいぞ!」


 ある日、ミズトが『日本食タクマ』に入ろうとすると、中から何人かの異界人いかいびとが飛び出してきた。

 クラン集会所で見た覚えのある顔ばかりだ。


「やあ、ミズト。今日は昼から来たんだね」

 続いて店内から料理人のタクマが顔を出した。


「こんにちは、タクマさん。今日は昼も夜も伺おうと思っていまして!」

 ミズトはタクマに笑顔を見せた。


「あはは、君は相変わらずだねえ……。うちの店を気に入って貰えて嬉しいけど、ミズトはもう少しこっちの世界を楽しんでもいいのかも」


「いえいえ、タクマさんの店があれば、あとは何もいりません! それにしても騒がしかったみたいですね」

 ミズトはすぐに後悔することになるとも知らず、興味ない世間話を口にした。


「ああ、そういえばミズトはシュンタ君と知り合いだったね。アキラって子の話は聞いてるかい?」


「アキラ? いえ、とくには」


「そっか。じゃあ、一週間ぐらい前、この近くで二人組の冒険者が辻斬りにあって殺された事件は?」


「冒険者が殺された!?」

(物騒な話になってきたな……)


「そう。で、その殺した犯人がアキラって子じゃないかって話みたい。事件後に行方不明だったんだけど、クラン集会所に戻ったみたいだね」


「なるほど……」


「そうだ、ミズト。悪いけどちょっと様子を見てきてくれない? あの集会所にはよく行くんだよね?」


「えっ……?」

(しまった、余計な話題だったか!?)


「すまないけど、冒険者殺しは流石に大事件だからね。俺もちょっと気になるんだ!」

 タクマは両手を合わせて言った。


【とくにクエストは発生していませんが、残念ながらミズトさんはタクマさんの依頼を断り切れません】


(分かってる……)

「まあ……ちょっとだけでしたら……」


 ミズトは料理人のタクマをこの世界で唯一尊敬している。

 彼からの好感度だけは下げたくないのだ。


「悪いね! 最近蒸し料理を始めようと思ってるんだけど、後で新作のシュウマイ付けるからさ!」


「本当ですか!? 分かりました、お任せください!」

 ミズトは笑顔でタクマに手を上げると、張り切って集会所へ足を向けた。



 *



 ミズトがクラン集会所に来たのは、クレア達と別れた日以来だった。

 シュンタ達とは、『日本食タクマ』で会えば挨拶を交わす程度の会話はするが、クラン集会所へ訪れるほど仲が良いわけではないのだ。


 ただ、入り口の扉の鍵は掛かっておらず、誰でも気兼ねなく出入りしていい事は知っていた。

 ミズトはノックすることもなく、扉を開け屋敷内へと入っていった。


 ガチャーン!!


 中へ入ると、何かが強い力で壊されたような音が響いた。

 続いて怒鳴り声のようなものも聞こえる。


(なんだか揉めてるみたいだな……)

 ミズトはかなり面倒に思えてきたが、シュウマイの魅力には勝てず、状況を確認するために奥へと進んだ。


「アキラ! そうやって暴力で訴えるのはやめるんだ!!」


「うるせえな! 後から来たオッサンが偉そうな口きいてんじゃねえよ!!」


「そういうことを言ってるんじゃない! 俺たち転移者は、異世界に来て前の世界では考えられないような力を手に入れたけど、それを感情に任せて使うなって言ってるんだ!!」


「だから、年上だからって説教みたいなこと言ってんなよ!!」


 奥の広間に近づくにつれて、会話の内容がはっきりと聞こえてきた。

 どうやらアキラという若者と、三十代でオッサンと呼ばれている青年が口論をしているようだ。


(あ~あ、せっかくクレア達が片付けたのに、また散らかして……)


 広間が視界に入るまで来ると、部屋が初めて訪れた時と同じ印象に戻っていることに気づいた。

 ただ、壊れて倒れているテーブルは、アキラという若者がたった今壊したのだろう。


「何度も言ってるだろ! 俺たちはどこの国民でもなく、どんな法にも縛られない無法者だ! それでいて全員が普通の人たちより高い才能を持っているいびつな存在なんだ! 法律とまで言わなくても、何かしらの秩序が必要なんだよ! 気に入らないからって物を壊したり、ましてや冒険者を殺すなんて許されることじゃない!!」


「あああああ、うるせえ! うるせえ! うるせえ!! 俺が何しようが勝手だろうが!! オッサンに言われる筋合いはねえんだよ!!!」


(ん? あの若い奴、街で冒険者と揉めてた奴か?)

 アキラという若者の顔に見覚えがあった。


【はい、エドガーさんと一緒に、初めてこちらへ訪れた時に見かけた異界人いかいびとです】


(だよな。あの後、冒険者にボコられたみたいだけど、殺した冒険者ってまさかな…………)


「そうもいかないだろ! 同じ転移者として見過ごせないんだよ!」

 三十代の青年はアキラを睨みつける。


「オッサンは何も分かってねえ! 俺たち転移者の才能が高いって? 馬鹿じゃねえの!? そんなの最初だけじゃん! レベル40あたりから段々レベルが上がりづらくなるし! 結局は大して強くならねえんだよ、俺たちは! 転移者最強って言われてる『神楽』のヒロですら、『到達者』には全然勝てねえって話じゃん!!」


「だからこそだ! 異世界アニメを夢見るのは分かるけど、ここでは転移者は特別な存在なんかじゃない! チート能力のない俺たちは、この世界の人たちに馴染んで暮らしていかないといけないんじゃないのか? 戦うために来たわけじゃないから、アキラが思う特別な才能は必要ない! それでも十分な才能を貰ってるじゃないか!!」


(へえ、三十代だけあって、そっちのガキよりちゃんと考えてそうなこと言うな)


【彼らの言っている特別な高い才能をお持ちのミズトさんは、彼らの話を聞いてどう思われたのでしょうか?】


(すげえ嫌な聞き方するが……そうだな……、アキラって奴に一つ言いたいとすれば『アラサーはオッサンではなく大人って言うんだぜ、クソガキが!』かね)


【年齢によって見方が変わるのは自然なことです。若者にとってはアラサーが大人に見えるかもしれませんが、アラフィフのミズトさんから見るとまだまだ若いと感じるのも当然です。年齢はただの数字であり、重要なのは心の若さと経験の豊かさです】


(心の若さねえ……)

 ミズトはたまに、エデンの言いたいことがよく分からなくなった。


「あれ? ミズト君?」

 広間の中にいたシュンタが、ミズトに気づいた。

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