第129話 後ろめたい能力
ミズトは同じ階にある調合室に移動すると、台の上に中級ポーションの素材を乗せ、アリヤンの目の前で調合を行った。
いつも通り光が収まると完成したポーションが現れる。
「おっ……おおぉ…………なんて素晴らしい調合…………。これほどの調合を目の当たりにすることが出来るなんて、私はなんて幸せなのでしょう! ミズト先生、心から感謝します!!」
アリヤンは涙を流しながら、ミズトの右手を両手で握った。
「い、いえ、喜んでもらえたなら光栄です……」
大して努力もせず手に入れた能力に、ミズトは強烈な後ろめたさを覚え、引きつった顔で答えた。
「それではミズト先生。早速ポーションをお預かりします。当店には高性能なマジックバッグと同等の金庫がありますので、どれほど大量でもお預かり可能です。まずはいかほどご準備されているのでしょうか?」
「そうですね……」
(どれだけ渡せばいいんだ? 少ないと頻繁に補充に来ないといけなくなるが、全部渡すのも何だしな……)
【初級類は二百個、中級や状態回復などその他のポーションは百個でいかがでしょうか?】
エデンがミズトへ提案した。
(ふむ、そのぐらいが区切り良くていいか。でも、調合するのが面倒になってきそうだなぁ。今さら毎晩のように調合するのも……)
【今後、わたしがマジックバッグ内にある素材を使い調合しますので、ミズトさんは素材の補充だけお願いします】
(ん? どういう意味だ?? そういえば気になってたんだが、テルドリス遺跡の時にエデンさんがスキル『界』を起動したよな? エデンさんが勝手にスキルを使用できるってことか?)
【ミズトさんの許可なしにスキルを使用することはできません。また、以前はスキルや魔法を起動することしかできませんでしたので、例えば『ストーンバレット』を使う場合、ミズトさんが狙わない限り命中しません。調合スキルの場合なら、ミズトさんに素材を並べていただかないと、使用することができません。そのためわたしが使用する意味があったのは、起動するだけで制御が不要のスキル『界』ぐらいでした】
(知らなかったな……。で、以前はってことは、今は?)
エデンの後出し説明には、たまに嫌気がさす。
【『女神の叡智』へと進化したわたしは、起動だけではなく制御も可能になりました。加減などの制御は、ミズトさんより遥かに高い精度で行うことができ、ミズトさんの行動に関係なく並行処理でスキル使用が可能です】
(ふ、ふうん……そうなのか。それで俺が戦っている最中に、マジックバッグ内の素材を使って調合しておくってことも可能ってことかね)
【はい、その通りです】
(はあ、便利なこって……)
ミズトは何だか気持ち悪さも感じたが、許可なく使用はできないとのことなので、高性能化したエデンの能力を何とか受け入れた。
それからアリヤンに大量のポーションを渡すと、定期的に顔を出す約束をしてアリヤンの店を出た。
これでミズトの帝都生活が始まった。
久しぶりの新しい土地での新生活である。
王都ルディナリアには一か月ちょっとしか滞在しておらず、その間に合同討伐、セシルや勇者との修行、あの恐ろしい何かとの時間があったので、ゆっくり生活をするのは、冒険者登録をしたエシュロキア以来であった。
(やっぱ都会っていいよな)
アリヤンの店を出て、とくに目的地もなく歩いていたミズトは、背伸びをしながら思った。
【やはり都会育ちのミズトさんには、世界最大の都市と言われている帝都オルフェニアが過ごしやすいのかもしれません】
エデンがミズトの言葉に答える。
(ああ、大都市の方が色々便利だからな。もともと自然が好きってわけでもなかったし、この世界に来て散々大自然を味わってきたから、当分ここでいいや)
【アリヤンさんとの出会いにより新しい収入源を手に入れました。同郷である異界人もたくさんいらっしゃるので、わたしもそれをお勧めします】
(収入源が複数あるっていいよな。ちょっとだけ楽しみかも。ただ、同じ異界人がいるのはあんまり関係ないぞ。むしろなるべく接触しないようにすると思うけどな。ま、タクマって若者のお店は別だけど! 正直、ここに留まる一番の理由は、あの日本食屋って言ってもいい!!)
【それはとても気に言ったご様子で良かったです】
ミズトはタクマの店を思い出しながら、ニヤけた顔で今日も寄ろうと心に決めた。