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第126話 紅いローブの二人

「すみません、あなたは異界人いかいびとの方ですよね? 先ほどの初級ポーションを調合されたのあなたですね。ちょっとご相談があるのですが」

 突然、救出した者たちの一人がミズトに声を掛けてきた。


「はい? えっと、いや……」

 唐突の質問を受け、ミズトは回答に迷った。

 一瞬、男の子かと思ったが人間ではなく、子どもぐらいの大きさしかないハーフリングだったのが、余計ミズトの回答を遅らせていた。


「隠す必要はございません。私は帝都でポーション屋を営んでいる、薬師のアリヤンと申します。同じ薬師として、あなたがどれだけ素晴らしい腕を持った薬師なのか、身にまとう空気で分かります」


(ホントかよ。強い弱いとかなら分かるが、薬師として腕が立つとか分かると思えんが)


【そうでもありません。この世界の熟練度が高い職人は、同じ道を究めた職人を感じとることができます】


(はあ……まあ……何でもありだしな、この世界)

 ミズトはアリヤンと名乗ったハーフリングが、熟練度9の薬師であることをステータスで確認した。


「それで……私に何か御用でしょうか?」


「いえね、偶然とはいえこんなところで、最高品質のポーションを調合できる方に出会えたのはとても幸運でした。あなたの調合したポーションを、うちの店で扱わせてもらえないかと思いまして」


「そちらのお店で? ポーションを買い取るって意味でしょうか?」


「そうではありません。あなたの調合した最高品質のポーション専用コーナーをうちの店内に設けます。そこであなたは疑似的な店舗を設置することになります。商品の管理や接客は全てこちらでやりますので、あなたはポーションだけ提供いただければ、売り上げは全てお渡しします」

 ハーフリングのアリヤンは両手を合わせながら、ミズトを見上げている。


(なんだ? こっちの世界の詐欺か?)

「おっしゃっている内容は分かりましたが、そちらに利点があるように思えません。何故そのようなご提案をされるのでしょうか?」


異界人いかいびとのあなたはご存知ないかもしれませんが、この世界に最高品質のポーションを扱ったお店は存在しません。そこで、うちの店の一角に専用コーナーを設けることができたら、どれほど箔がつくことでしょうか! 店そのものの価値が高まるのです!」


(肉屋が、うちはA5ランクも扱ってます、って言いたいみたいなもんか? 商売してるわけじゃないし分からん……)


【ミズトさん、これは素晴らしい提案です。ダンジョンで入手したアイテムを何故か売らないミズトさんは、現在の収入源が冒険者ギルドの報酬のみです。複数の収入源を確保することは、ミズトさんの目指すスローライフにより近づくことになるでしょう】

 エデンがミズトにアドバイスを入れた。


(たしかに……。一応聞いておくが、俺を何かのトラブルに巻き込みたくて勧めてるわけじゃないよな?)


【もちろんです。今回はミズトさんの金銭的な利点のみでお薦めしております】


(今回()って言いやがったか……。ちなみに、詐欺ってことはないのか?)


【世の中には詐欺をする者もおりますが、こちらのアリヤンさんは、商業ギルドに登録し帝都にお店を構えている信頼できるお方です。信用が第一の商売ですので、ミズトさんが損をするような行動は決してしないでしょう】


(エデンさんが言うなら、その心配はないってことか……)

 ミズトはアリヤンに即答はせず、帝都に戻って検討すると伝えた。


 それからミズトたちは、さらわれていた人々を連れて帝都へ向かった。

 前回のように帝都から衛兵を呼ばず、自分たちで帝都まで護衛するのだと、自分では護衛しないクレアが言い出した。

 少し面倒だが、クレアとエドガーの件はこれでカタがつくので、ミズトはこのまま最後まで付き合うことにした。



 *



「こらこら、どうなってんだ、これ? この死んでる奴、ノワール組の一人じゃねえか?」


 ミズトたちが野盗の屋敷を去ってから少し経った後、紅いローブを着た二人組の男が現れた。

 人間と同じ程度の体格だが、どちらもフードを深く被り、種族はよく分からない。


「死体を蹴るのはやめておけ。それでも一応仲間だ」

 背中に巨大な弓を背負っている男が言った。


「は? こいつらを仲間と思ったことなんてねえよ! たしかに形式上は同じ組織だけどよ、ノワール組とうちとじゃ根本的に違うだろうが?」

 野盗の頭領だったと思われる遺体に足を乗せたまま、両腰にショートソードを携えた男が返した。


「そんなことより、そいつが何に殺されたのかが問題だ」


「そんなの、グリノスの上位種に決まってんじゃねえか。どう見てもこの傷はデカい斧にやられてんだろ。おおかた制御に失敗したんだろうよ」


「そのはずだ。そのはずだが、そのグリノス上位種がどこにもいないのだ」


「は? だってお前、さっき上位種の気配を感じたって言わなかったか?」

 両腰にショートソードを携えた男は、不思議そうに弓を背負った男を見た。


「そう思ったのだが、今はどこにも感じ取ることができん。下位種と勘違いしたのか……」


「どういうことだ? お前が気配を間違えて感じとるとは思えないが、上位種が誰かに倒されたとも思えん。あれはたしか、帝国の騎士ロードでも倒せるシロモノじゃねえはずだしな……」


「その通りだ。『到達者』の中でも倒せるとすれば、あの忌々《いまいま》しい世界騎士ロードぐらいのはずだ」


「だよな。だがアレクサンダーが帝国領土に来るわけねえしよ。ま、考えても仕方ねえ。上位種の召喚は失敗した。ノワール組のヤツも殺された。それが結果ってことだ」


「東側の仕込みはあと二つだったな。ノワールの者たちが失敗して死のうがどうでもいいことだが、全体の計画に支障をきたしても困る。我々西側の仕込みが完璧だとしても、東側もそれなりに成果を出してもらわんと」


「まったくだぜ! 東側まで足を運んだついでだ。こうなったら次の仕込みの結果までは見ておこうぜ」


「それも良いだろう。まずは北か」


「ああ、あっちはだいぶ進んでいるはずだしな」


 二人組の男たちは、そう会話をすると野盗の屋敷から離れていった。

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