第124話 野盗の拠点
翌朝、野盗の頭領がいると見られる拠点へは、ミズト、クレア、エドガーの三人で向かった。
クレアが王国から連れてきた二人の護衛は、侍女と共に待機となった。
というのは、野盗の拠点をモンスターが守っていたことから、魔族の関与を考慮する必要があるとクレアが言い出したのだ。
これほど大きな問題になるような事件を、単なる野盗の仕業では不自然にしか思えず、裏で糸を引く何者かがいるに違いない。そう言うのだ。
そして、もしそれが魔族だった場合、あまり人数が多いと犠牲者が増えるだけの可能性があると判断したのだ。
「魔族というのがどれほど危険なのか存じませんが、もし魔族がいなかった場合は、人数が多い方が良いのではないでしょうか?」
拠点へ向かう馬車の中で、ミズトは向かいに座るクレアに言った。
何がいようと眠らせて捕まえるだけなので、縛ってくれる人数が少ないと困るのだ。
「いいえ、もし魔族がいなくても、簡単な相手ではないはずよ。あの二人には悪いけど、それなりの実力がないと足手まといですわ」
(どの口が言ってんだ……)
じゃあお前が残れよ、とミズトは言いたいところだが、戦士の装備ではなく王女らしい服装で来ているので、今回クレア自身は戦う気はないのだろう。
それから三人が乗った馬車は、野盗の拠点から少し離れた場所に止まった。
帝都から一時間程度の場所で、ここも普通の屋敷だった。
そしてミズト達は屋敷へ向かうと、すぐに異変に気づいた。
何やら随分騒がしく、叫び声が聞こえる。
少し屋敷に近づくと、何人もの男たちが逃げるように走ってきた。格好から野盗だと思えた。
「くそっ! だから俺ぁ反対だったんだ!」
「余所者をボスなんかにするから、こうなるんだ!」
「知らねえぞ! どうなっても知らねえぞ!」
野盗たちはどこかに向かっているというより、屋敷から散り散りに逃げ出しているように見えた。
誰もが恐怖に引きつった表情をしている。
「おい! 何があった?」
エドガーが野盗の一人を捕まえて、問いただした。
「なっ、なんだよてめえ!?」
「いいから答えろ! 貴様ら何から逃げている!?」
「しょ、召喚したモンスターを制御できず、ボスが殺されちまったんだよ!」
野盗はエドガーの勢いに負けて答えた。
「モンスターだと? そのモンスターはどうした!?」
「知るか! まだ屋敷で暴れてんだろうよ!」
野盗はエドガーを振り払い、そのまま駆け出した。
それを聞いていたミズトは、屋敷の方向へ意識を向け気配を探った。
屋敷内には弱った気配が十人以上はいるようだ。
悪意を感じないので攫われた人たちだろう。
そして、屋敷の周りには、たしかにモンスターの気配を感じる。
知っているようで知らない気配。先日も感じた違和感と同じだ。
「お二人とも、急ぎましょう」
ミズトはクレアとエドガーに声を掛けると、屋敷へ走り出した。
「ちょっと! 私も行くわ!」
クレアが慌てて走り出した。
「クレア様! お待ちください!」
エドガーもすぐに続いた。
屋敷の前にいたのは、先日も見たグリノスゴブリンが九体。
見た目はただのフォレストゴブリンだが、レベルはどれも三十台だ。
「フォレストゴブリン!? どういうことかしら? あれなら私でも倒せますわ!」
「お待ちください、クレア様! あれは単なるフォレストゴブリンではありません! そういうことだよな、ミズト?」
剣を持っていたら飛び出しそうなクレアを引き留め、エドガーがミズトに言った。
「はい、あれはフォレストゴブリンではなく、グリノスゴブリンというレベル三十以上のモンスターです」
「グリノス? 聞いたことありませんわね……」
「知っているモンスターのつもりで戦うと危険な相手です。エドガーさん、あれはお任せしてよろしいでしょうか? 私は屋敷の裏側を見てきます」
「何? ……分かった、俺が引き受けよう。ミズト、お前は他にもいないか確認を頼む」
エドガーは剣を抜いて答えた。
「すみません、お願いします」
ミズトは二人を置いて、屋敷の裏手へ向かった。
【ミズトさん。屋敷の裏にいるモンスターが、野盗の頭領を殺したモンスターです】
(ああ、だろうな)
ミズトはエデンに言われるまでもなく、屋敷の裏から強力なモンスターの気配を感じとっていた。
「こいつもやっぱり……」
案の定、屋敷の裏には野盗の遺体が横たわっていた。
そしてその傍らには、大きな斧を持ち牛のような頭をしたモンスターが立っている。
見た目は『エンディルヴァンド地下洞窟』で遭遇したミノタウロスだ。
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グリノスミノタウロス LV98
属性:地
ステータス
筋力 :S
生命力:A
知力 :C
精神力:C
敏捷性:B
器用さ:C
成長力:A
存在力:B
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