第123話 クランクエストとシナリオクエスト
「い、いえ……そういうわけでは……。えっと……それならもう野盗の事は気にされなくても良いのではないでしょうか?」
ミズトはクレアに返す。
「いいえ、あれは拠点の一つにすぎないのよ。野盗の頭領がいる拠点は別にあって、そこまでは何とか突き止めているの」
「そうでしたか。それで、もしかしてクレアさん自ら、その拠点へ向かおうとされています?」
「あら、よく分かったわね。その通りよ。ただ、連れて来た護衛二人だけではどうにもならないから、シュンタさん達に同行願いたいところなのだけど……」
「その件については俺から話しますね」
青年たちの口論に割って入っていたシュンタが、ミズトたちの元へ近づいてきた。
「ナカガワさん、ずいぶんとクレアさんにご協力いただいたようで、ありがとうございます」
(なんで俺が礼を言ってんだ? エドガーちゃん、しっかりしろよ)
「まあ、なんてったって王女様だからね。どんなクエストが発生するか分からないから、協力しておこうと思ってさ」
(そりゃあ何の得もなくやってたってわけじゃないか)
「そういうことならお互い様ってことですね。やはり王女様という立場だと、クエストが発生しやすいってことでしょうか?」
「さすがにクランクエストやシナリオクエストは出なかったけど、無印のクエストはいくつか出て、こっちも助かったところさ」
「クランクエストとシナリオクエスト? 限定クエストのことでしょうか?」
「限定クエスト? ああ、クラン限定ってことね。そう、クラン所属者にだけ発生するクランクエストってのがあるんだ。シナリオクエストも知らない? 一つのクエストを達成すると、それに関連した次のクエストが発生する連続したクエストなんだけど」
(ん? エデンさん、今の話、クランクエストとシナリオクエストは限定クエストとは別って意味か?)
【はい、クランクエストはシュンタさんのご説明通り、クランに所属している者のみに発生いたします。個人ではなくクランに対して発生し、クランメンバーで協力して達成を目指します】
(シナリオクエストってのは?)
【シナリオクエストもシュンタさんのご説明通りですが、全ての異界人に転移と同時発生するクエストです。ただし、アウロラ大陸でスタートしたミズトさんには、適応するシナリオクエストはありません。なお、逆に限定クエストはミズトさん以外ではほとんど発生することはなく、異界人の中では知られておりません】
(ふうん、なるほど)
「普通のクエスト以外に、クランクエストとシナリオクエストというのがあるのですね。私には発生していないので、知りませんでした」
「シナリオクエストも発生してないの!? やっぱミズト君はバグってるね」
シュンタは驚いた表情で言った。
「そのようです」
「ちなみにクエストは、無印、シナリオ、クラン、イベントの四種類が確認されてるんだ。この前のイベントはさすがにミズト君にも発生したよね?」
「経験値収穫祭ですね。はい、あれは私にも来ましたが、もともとクエストはあまり気にしてないので」
「ねえ、お二人とも」
ミズトとシュンタの会話を黙って聞いていたクレアが、話を遮るように入ってきた。
「異界人特有のお話のようだけど、話を戻していいかしら? シュンタさん、何度もお願いしている野盗の拠点へ行く件だけど、そろそろ良いお返事を頂ける?」
「ああ、まだその件を諦めていないのですね……。何度も言いますが、それに同行するつもりは、今のところありません」
「何故ですの!?」
「ん~、一つは……ミズト君にしか通じないかもしれませんが、それがクエストになっていないので、我々としては何の得もありません。もう一つは、ちょっとお手伝いする余裕がなくなってしまいました。我々と敵対する『日本卍会』が、帝都へ向かって来ているらしくて、迎え撃つ準備を進めないといけないので」
「何を言っているのか全然分からないわ! ミズトさんは分かるのかしら?」
クレアはミズトに助け舟を求めた。
「え? まあ、だいたいは理解できます。緊急事態のためそれどころではないようです」
ミズトは適当なフォローで済ませた。
「あら、そういうことですの。それはいけませんわね……」
「そういえばクレアさん達を救出したのは異界人って話でしたよね? こちらにいる方なのですか?」
ミズトは周りを見回しながら言った。
(まさかあのギャルのどっちかか?)
「ヒナのことかしら? たしかにあの子がいれば力になってくれるわね」
「ヒナちゃんは、ここのメンバーってわけじゃないんだ」
答えたのはシュンタだ。
「そうだったのですね。その方は今どちらに?」
「ヒナちゃんは帝都に住んでるわけでもないんだ。人を探して旅をしているとかで、もう帝国内にはいないと思うよ」
「そうなのよね。ヒナはいないし、シュンタさんも緊急事態なら仕方ないわ」
クレアはそう言いながら、ミズトとエドガーへ交互に視線を送った。
(おいおい、まさか……)
「まあいいわ。エドガーとミズトさんがいれば大丈夫ね」
(くそがっ、そうきたか)
【さすがミズトさんです。ご友人であるクレアさんのお気持ちを即座に汲んでおられます】
(友人じゃないし……。しかも今のは誰でも分かるだろ……)
「クレアさん。もしかして私たちを連れて野盗の拠点へ向かうとおっしゃられていますか?」
「ええ、そのとおりよ。エドガー、あなたもそれでいいわね?」
「もちろんです、クレア様! 自分とミズトが全力でお力になります!」
エドガーは元気よく立ち上がって言った。
(は? こいつ、何を勝手に……)
「ミズトも同じ思いだよな?」
エドガーはためらっているミズトを感じとったのか、念を押すように言った。
(……何となくエドガーの行動原理が読めてきたぞ。クレアは一度決めると引くことも止まることも知らないから、行動に反対するのではなく、一緒に行動した方が安心って思ってるんだろうな)
【さすがミズトさんです。ご友人であるエドガーさんのお気持ちを即座に汲んでおられます】
(それはもういいって…………)
ミズトはクレアの提案を受け入れることにした。
ミズトが同行せず、野盗にまたクレアが攫われでもしたら目も当てられないので、同行した方がマシに思えたのだ。
【クレアさんとの同行は、ちょうど限定クエストとして発生しました。とても素晴らしいご判断です。クエスト内容を表示されますか?】
(ったく……ご都合がよろしいようで……。クエストの表示はしなくていい。野盗の拠点に行って、全員眠らせて取っ捕まえればいいんだろ? 俺が)
【とてもご理解が早くて助かります】
(…………)
こうなった以上、さっさと終わらせることに力を注ぐ方が良さそうだった。
「では決まりね。シュンタさん、もう少しお部屋をお借りするけどいいかしら?」
「ええ、部屋はいくらでも使ってもらって構いません」
「そう、助かるわ。エドガー、ミズトさん、早速明日の朝に出発するから、再度来てくださる?」
「承知いたしました、クレア様」
エドガーが片膝を着いて答えた。
「ナカガワさん、そういうことなので、また明日、改めてお伺いしますね」
「ああ、なんか大変そうだけど、了解。うちは力になれなくて悪いけど、頑張ってね」
シュンタは、ミズトの肩に軽く手を置きながら言った。
「はい、ありがとうございます。ではこれで失礼します」
ミズトは軽く頭を下げ、エドガーに目で合図をした。
「それではクレア様、また明日参りますので」
エドガーもクレアに頭を下げた。
それから、二人が広間を出ようとすると、ちょうど誰かが入ってくるところだった。
「おい、アキラ! その顔どうしたんだ!? まさかまたお前、街で揉めたのか!?」
唯一三十代の青年が、入ってきた高校生ぐらいの男子に声を掛けた。
顔を見ると、あちこちと腫れあがり、怪我もしているようだ。
(エデンさん、あれって、さっき見た奴だよな?)
【はい、街で二人の冒険者と揉めていた異界人です】
(そっか、あの顔、あれから派手にやったみたいだな)
【そのようです。まるでドゥーラの町の頃のミズトさんのようです】
(…………)
感情に任せて暴力に訴えるのは大人げないし、みっともないことだ、とミズトは今さらながら少しだけ反省した。