第118話 異界人の多い街
冒険者ギルドでは、クレアに直接繋がる有力情報はなかったが、野盗からクレアと一緒に救出された旅人の情報を手に入れた。
ミズトとエドガーは早速その旅人が泊まっている宿屋を訪れ、食事をご馳走しながら旅人からクレアの情報を入手することが出来た。
話によるとクレアは侍女や護衛とともに、彼女たちを救出した異界人と行動しているようだった。
異界人は十代の少女で、歳がクレアと近いこともあり、意気投合していたようだという話だ。
ミズトたちは可能な限り情報を聞き取り、その中でクレアとその異界人を見かけたことがあるという料理屋へ向かうことにした。
「クレアさんは親善大使として来られたのですよね? 宮殿には向かわず、なぜ異界人なんかと一緒にいるのでしょうか?」
ミズトは旅人のいた宿屋を出るとエドガーに尋ねた。
「さあな、俺にも分からん。ただ、お前のこともあって、クレア様は異界人には好感をお持ちだ。それでその異界人の少女と気が合ったのかもしれん」
「はあ、そうですか」
一国の王女が遊びに来たわけでもないのに、何をやってんだかと思いながら、ミズトにはどうでも良いことなので、自分から訊いたことも忘れて歩き出した。
それから小一時間ほど歩くと、ミズトはあることに気づいた。
(おいおい、日本人っぽい奴が随分多くないか?)
【はい、ミズトさんの世界で流行っている歩きスマホをされている人物が、至る所にいらっしゃるようです】
(いや……流行ってるというのは語弊が……)
エデンの言い回しは横に置いたとして、ミズトは大きな通りを歩きながら、何度も歩きスマホのような違和感を覚えた。そして、ステータスを確認すると、全員が『転移者』なのだ。
(十五分に一回ぐらいは見かけるな)
【現在、帝都オルフェニア内に異界人は七百六人おります】
(そんないるのか!? それにしても、どいつもこいつもステータス画面とか見ながら歩きやがって)
自分の邪魔になっているわけでもないが、何となく同じ日本人にミズトは腹が立った。
「なんだミズト。知り合いでもいたのか?」
エドガーが不思議そうにミズトを見た。
「あ、いえ、そういうわけでは……」
「そうか。それにしても聞いていた通り、異界人が多い街だな」
エドガーも、ミズトの視線を追って、異界人を見つけたようだ。
「そうですね。さすがに知り合いはいないと思いますが、異界人はちょくちょく見かけました」
「みたいだな。ただ、お前のように住民と上手くやっているわけではなさそうだ」
エドガーは近くの揉め事を見ながら言った。
冒険者らしき二人組と、一人の異界人が言い争っているようだ。
「てめえ、異界人の分際でモタモタ歩いてんじゃねえ! てめえらは邪魔になんねえよう、端っこで小さくなってりゃいいんだ!」
「は? モブのくせにプレイヤーに偉そうな口きいてんじゃねえよ、雑魚が」
「ああ? 何言ってんのか分かんねえよ!!」
二人組の冒険者は、どちらもレベル40台前半で、クラスは戦士と盗賊。
身長は190cm前後あり、前の世界ならとても言い争いたくない相手だ。
対して異界人は高校生ぐらいの普通の日本男子。
背はミズトと同じか更に低く、レベル36の戦士だ。
「雑魚どもが散れよ! 目障りなんだよ! ほら、散れ! 散れ!」
異界人の男子は虫でも振り払うように手を動かした。
「あ? 異界人のチビが、何か勘違いしてやがるようだな! 雑魚はどっちか、思い知らせてやろうか?」
「いいよ、そういうの。クエストにならないモブなんか相手にしてらんないんだよな」
異界人の男子は、小馬鹿にするように再び手を払った。
「クソチビが……! どうやら身体で思い知らせてやる必要があるようだな! ああ?」
冒険者は指を鳴らしながら異界人の男子を睨みつけた。
(あのガキ、なんであんなに冒険者を煽ってんだ? 歩きスマホで邪魔だったんだから、すみませんって謝って終わりじゃねえか)
ミズトには、一方的に相手を見下す態度の異界人が悪いように見えた。
「ミズト、助けに入るのか?」
隣にいたエドガーが言った。
「え? いえ、私には関係ないので」
(ただの自業自得に見えるしな)
「そうか。なら先を急ぐぞ」
「はい、行きましょう」
ミズトは冒険者が武器を抜かないことを確認して、その場を後にした。