第116話 グリノスゴブリン
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グリノスゴブリン LV33
属性:水
ステータス
筋力 :G
生命力:F
知力 :I
精神力:I
敏捷性:H
器用さ:I
成長力:G
存在力:G
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「エドガーさん、それはただのゴブリンではありません!」
ミズトはモンスターのレベルを確認すると、すぐにエドガーに声を掛けた。
(あの野郎、ここが野盗たちのいる屋敷の前って分かってんのか!?)
【後先考えずに飛び出して行かれました。クレアさんの事が心配で、冷静な判断が出来ていないようです】
(顔には出さないようにしてても、かなり焦ってるってことなんだろうけど……)
エドガーは剣を抜きグリノスゴブリンを斬りつけると、簡単に倒せないことに一瞬戸惑いを見せた。
しかし、ミズトの声が届くとすぐに攻撃を再開し、五体のゴブリンを瞬く間に退治した。
「エドガーさん、大丈夫ですか?」
ミズトはエドガーに近づきながら言った。
「ああ……しかしどういうことだ? フォレストゴブリンじゃないのか?」
「見た目は同じでしたが、今のはレベル33の『グリノスゴブリン』というモンスターでした。ご存知ですか?」
「グリノス? いや、聞いたことないが……」
(なあ、エデンさん。グリノスって何のことだ?)
【申し訳ございません、今はお答えできません】
(答えられない? ってことは普通のモンスターじゃないってことか……?)
「おい見ろ! 見張りのゴブリンがやられてるぞ!!」
突然、屋敷の方向から声が聞こえた。
「あの恰好、また冒険者か!?」
「くそ、また来やがった!」
「たかが冒険者にそうそうやられるかよ!」
ゾロゾロと屋敷から柄の悪い男たちが現れた。
(おいおい、この状況、前にもあったような……)
ミズトはどこかの誰かと受けた依頼を思い出した。
「何の用だ、てめらぁ!」
中から現れた男の一人が、威嚇するように大声を上げた。
「ちょっとその屋敷に興味があってな。中を見せてもらえないか?」
エドガーは威嚇に臆することもなく、そう言ってその男に近づいた。
「ああ? てめえ、寝ぼけたこと言ってんじゃねえよ!!」
男は負けじとエドガーに顔を近づけた。
「アニキ! そいつ、よく見たら異界人ですぜ!!」
近くにいた男がそう言ってミズトを指差した。
「なんだと!? てめえら、まさか、あの小娘の仲間か!?」
「小娘!? お前、まさかそれはクレア様のことか!!?」
エドガーは目の前の男の胸ぐらを掴んだ。
「あん? クレア? ああ、あれか。そっちのことじゃ、ねえよ!!」
男はエドガーの腕を振り払いながら言った。
「お前……やはりクレア様のこと知っているのか……? クレア様に、何をしたぁぁぁぁっ!!!」
エドガーは剣を構えた。
「何を興奮してるか知らねえが、てめえには関係ねえ! おい、やっちまえ!!」
「おおぉぉぉぉ!!」
屋敷の外に出ていた男たちが、一斉に武器を構えた。すでに百人近く集まっている。
「ミズト、行くぞ!」
(ええぇ、俺ぇ……?)
【当たり前です。そもそもこの依頼を受けたのはエドガーさんではなく、ミズトさんです】
(そりゃそうなんだけど、この人数を相手にこんな状況になった原因はこいつだし……)
【それはエドガーさんがミズトさんを強く信頼しているからと思ってください】
(……ったく)
「スリープ」
ミズトが眠りの魔法を唱えると、エドガーと対峙していた男以外は、その場にバタバタと倒れていった。
「なっ!? どうなって……!?」
「お前たちの負けだ! さあ、降参しろ!」
エドガーは剣先を男に向けた。
「こ、このクソがぁー!」
「愚かな」
エドガーは襲ってきた男を斬りつけた。
ミズトたちは野盗を無力化すると、屋敷内を捜索した。
すると案の定、施錠の掛かった部屋で囚われていた人々を見つけることになった。
「やはりお前らが噂の人攫いだったようだな」
エドガーは縛り上げた野盗の一人に言った。
ミズトがわざと眠らせなかった男だ。
「ふん!」
野盗の男は顔を背け、エドガーの言葉を無視した。
「まあ、勝手に白を切るがいい。そんなことよりクレア様だ。クレア様はどうした!?」
エドガーは男の胸ぐらを両手で掴み、怒鳴りつけた。
ミズトが気配を探っていたとおり、囚われていた人々の中にクレアの姿はなかった。
さらに、エドガーが言うには、彼女の侍女や護衛もいないようなのだ。
「クレア? はっ、捕まえた女の名前なんぞ、いちいち覚えてるかよ!」
「ふざけるなっ!! お前らが一か月近く前に襲ったクレア様だ!!」
エドガーは男を殴りつけた。
(おいおい、いくら野盗とは言え、拷問みたいなマネは感心しないな)
『凶暴戦士』と呼ばれていた事をミズトは忘れているようだ。
【この世界ではあの程度は拷問になりません。それより、情報を引き出すなら、相手に恐怖心を与える魔法を使用してみてはいかがでしょうか。ただし、ミズトさんの場合は加減を間違えると、相手の精神を崩壊させるおそれがあるのでお気を付けください】
(いや……そういうのはいいや……。ここはエドガーちゃんに任せて、俺はこいつらを縛るの手伝うよ)
ミズトは、屋敷で囚われていた人々が、眠っている野盗を順番に縛っている様子を見て言った。
【それは素晴らしい考えです。囚われていた人々はポーションで体力を回復しましたが、精神的な疲れは残っているでしょう。手助けする必要があります】
(ああ、そうだな……)
モンスターと違って倒すだけでは終わらない、人間相手の依頼はあまりやりたくないと、ミズトは改めて感じていた。
それから一通り縛り終わった頃、尋問を終えたエドガーがミズトの元に近づいてきた。
「ミズト、クレア様の行方が分かったぞ!」
「本当ですか? それは良かったです!」
ミズトは、顔が倍ぐらいに膨れた野盗の男を見ないように答えた。
男の話によると、やはりクレア達一行は野盗に襲われ、攫われていたようだった。
しかし半月ほど前、この屋敷に冒険者風の異界人が現れ、そのとき囚われていた人々を全員救出したのだ。
「異界人ですか?」
「そうだ、若い女剣士が一人だったようだ」
(もしかして、その異界人のクエストになってるから、俺の方ではクエストにならなかったとか?)
【はい、その可能性もございます。その異界人の方が、ミズトさんより先にこの件に関わりクエスト化した場合もあります。もちろん既に救出済みか、死亡している場合も考えられました】
(なるほど……)
「それで、救出されたクレアさんはどうされたのですか?」
「救出された人々は、全員帝都オルフェニアへ一度向かっただろうとのことだ」
「それならクレアさんは無事ってことですね」
「その通りだ!」
エドガーは安堵の表情を浮かべた。