表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/189

第100話 解呪

(なあ、エデンさん。スキル『界』の稼働時間はどのぐらいだ?)


【およそ三分が限界です】


(三分か。正義のヒーローみたいな時間だな)


【ミズトさんはこれからセシルさんを、そして世界を救うかもしれない戦いをなさいます。正義のヒーローと言っても差し支えないでしょう】


(はは……世界を救うことなんて興味ないが、知り合いの女性を救うために、人生一回ぐらいはヒーローの真似事も悪くないな)


【はい、戦う理由はそれで十分かと】


(人生で一回ぐらいだぞ?)


【はい、十分です】


(最初で最後って意味だぞ?)


【はい】


(……さて、全力でいくぞ)

「スキル『界』、起動」

 ミズトの全身が淡い光で包まれた。


 ミズトはそれと同時に雷撃のごとく魔物へと突進する。

 再生が終わっている魔物はミズトの力を感じとったのか、警戒を強めるように触手の数を数倍に増やし、近づいてくるミズトを迎え撃った。


 対するミズトは触手を避けることはせず、少しでもダメージを与えようと全て斬り落としていった。

 一振り一振りの威力が高いため、一度に数十本の触手を薙ぎ払っている。

 無限とも思えた無数の触手が、ミズトの前では呆気ないほど数を減らしていった。


 そして、無防備となった魔物の本体に辿り着くと、その勢いのまま『女神の銀剣』で魔物の中心部を貫いた。


「グオオオォォォッ!」

 魔物の口が見当たらないため、声かどうかも分からない悲痛な音が辺りに響く。


「すげえどころの騒ぎじゃないぞ、ギルバート」

 勇者リアンは、隣に立つ剣聖ギルバートを見もせずに続けた。


「俺は勇者だ。この世界の誰よりも才能に溢れ、このまま『到達者』に至る頃には、名実ともに世界最強になっていると疑いもなく信じていた。だがどうだ、例えレベル99になったとしても、俺はあの人の背中に追いつける気がしねえ。あの人は限界を越えた領域、レベル三桁の世界に住んでいる人かもしれねえ」

 リアンは拳を強く握り締め、巨大な穴の開いた魔物をじっと見つめていた。


 魔物はすぐに再生を始めた。

 大きく開いた穴を塞ごうと肉が盛り上がってくる。再生に優先順位があるのか、本体が再生中に触手は再生されないようだ。


 ミズトはそれを許さないよう追撃を加えた。

 セシルの姉の身体とおぼしき場所は避け、それ以外を一瞬で斬り刻んだ。


【ミズトさん、今です】


(ああ)

 ミズトはマジックバッグから聖水を取り出し、魔物に浴びせた。


「聖女さん! お願いします!」


「はい、準備は完了しています!」

 ミズトの合図を待ち構えていた聖女オーレリアは、祈りの体勢のまますぐに浄化スキルを開始した。


 すると周囲一帯の地面から大量の光の粒が浮き上がってきた。

 そして、魔物にそれが集まると強く光りだす。


「親愛なる女神アルテナ様よ、聖なる光でけがれを払い彼女を救いたまえ。ディヴァイン・ラディアンス!」


 魔物に集まった光が更に輝きを強め、辺りが真っ白な光に包まれた。



 *



【どうやら成功したようです】


 光が収まるまで一分ほど掛かった。

 周囲の景色が見えるようになると、エデンがそう言った。


 ミズトは目の前にいた魔物の代わりに、衣服を着けていない女性が倒れていることに気づいた。

 すぐにシーツをエデンに出してもらい、彼女に被せる。


(生きているのか?)


【はい、眠っているようですが、命に別状はありません】


(そうか、良かった……)

 大きく安堵すると、重い足取りで一歩ずつ近づいて来るセシルの姿が目に入った。


「ね、姉……さん?」

 いつもの素早い身のこなしと打って変わり、足に重りでも着いているかのように、やっとの思いで足を前へ出している。


「あ……ああ……姉……さん」

 セシルは両手を前に出し、少しずつ少しずつ姉との距離を詰める。


「ん……んん」

 セシルの姉が意識を取り戻し、上体を起こした。


「クラリス姉さん!!」

 それを見ていたセシルは、重りが外れたように走り出し、姉に飛びついた。


「セ……シル?」


「姉さん! 姉さん! 姉さん! 姉さん!」


「セシル…………なの?」


「わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 セシルは姉の胸に顔をうずめ泣きじゃくった。


 四十を過ぎたあたりから涙腺るいせんの弱さを感じていたミズトは、もらい泣きをこらえながら二人の様子を見守った。


 自分にとっては二人とも赤の他人。

 家族どころか友人ですらなく、生きてきた世界がまさに言葉の通り違う。

 それでも、再会を果たした姉妹を見て、ミズトは大きく感情が揺さぶられていた。


 ====================

 ◆限定クエスト完了◆

 報酬が支給されます。

 クエスト名:セシルの悲願

 報酬:経験値10,000

    金1,000G

    クランの紋章

 ====================

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ