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既「死」感を覚えている。  作者: 白い既視感
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お墓の前に

『昨日、〇〇市の住宅街で危険運転をしていた男が逮捕されました。男は警察の追走を振り切ろうと急旋回し横転。一時、歩道に乗り上げる事態になりましたがこの事故による怪我人は男を除いておらず、男も軽傷でした。

 次のニュースです』


「これ凄い近い場所じゃないの。あんた見てたりする?」

「さあね。あ、でも青い車は見た気がする」

「巻き込まれなくて良かったわね。あんた、運だけは良いから」

「ほかにも良いとこありますぅ」

「はいはい。早く行ってきな」


 母はもう興味がなくなったのか、朝の韓国ドラマにチャンネルを変えた。後宮の様子を映し出すテレビ。

 昨日娘がヒーローになった話をしてやろうかと思ったのに、冷たい人だ。

 まあ言っても「運が良かったわね」で終わりそうだからやめといたほうが無難だろう。

 このすんばらしい思い出は墓まで持っていこう。うん。




 お墓、故人を祀るもの。

 亡くなった方が還って来れるようにと作られた場所。

 死んだ後は空の上だったり、地の底だったり、はたまた異世界に行ってしまうらしい。それだと帰ってくるのも一苦労なのではないか、と私は常々思う。

 行けはしたのだから帰れもするのだろうか。しかしそれは双方の世界に似たような道が別々に繋がっていて可能になる話だ。死者が来る道と出る道。別個にしなければ衝突なんてことが起きてしまうかもしれない。

 今私がいる世界では年間5000万人以上の人たちが亡くなっているのだという。それに加えて他世界からも押し寄せるとなると……パンクしないのだろうか?

 あ、だから行き先が複数用意されているのか。その一つが異世界転生と言うわけだな。いや、異世界死体遺棄か。

 神様も大変だなぁ。




 還ってくることの答えは結局浮かんではこなかったので、お墓の意義について考えてみることにした。

 たとえ遠く離れたとしても、また会えるように。という生きる者の願い。

 姿形が変わってもまた会えるというのなら、別れは悲しいだけではなくなる。心に希望が残されるのだ。

 自己満足でしかないのだが。


「なるほど、墓が出来たのはそれが発端かな」


 亡くなった人がどんなに離れた場所に行っても帰って来られるようにという目印となり、生きている人は故人を想い続けられる場所なのだ。互いを繋げる橋の役目みたいな?


「だいぶポエミったな。恥ず…」


 でも待てよ?墓って故人を纏めて入れてるよな。「何々家の墓」みたいなこと書いているよな。

 ということは会ったこともない先祖が異世界から墓帰り?しにきたらどうすれば良いんだ?


「絶対気まずいやつじゃん」


 ざっくり想像するとこんな感じだろうか。


 「えっと…じいちゃんの墓参りに来まして…」

 「あ、ほんと。呼ばれた気がして間違えちゃった…。〇〇さんとこのお孫さんか、立派になりましたね…」

 「意外とお若いんですね」

 「そうなの、この姿の時に事故でね。中身はおじさんよ?不老長寿のアレを貰ってからこの通りでね。今は不死を手にするつもり」

 「異世界やべー」


「意外と話面白そうなんだが?」


 実体験聞きたすぎる。というか江戸時代とかの先祖でも面白そう。現在の歴史と照らし合わせなんかしたら私、歴史変えちゃうのでは?…言葉が通じるあたりまでが限界そうだけど。ギリ平安までか?古語苦手なんだよな…。


「季節外れだけど、墓参り行こうかな」


 ごめんじいちゃん。まだ死んでもないじいちゃんの墓参りに行きそうだ。


 そういえば昔、墓参りにじいちゃんと一緒に行った日に変な出来事があった気がする。

 お墓の前に知らないおじさんが立っていて、多分拝んでいた。

 じいちゃんが声をかけて少しだけ二人で会話をしたあと帰って行った。知り合いかとじいちゃんに尋ねても答えてくれず、私はじいちゃんと二人で去っていくおじさんの背中を見つめてた。

 その人の顔は思い出せないけれど、特徴を一つだけ覚えている。大きなブローチをつけていた。胸の上で赤く光るそれは、目立ちすぎていてその人に似合っていなかった。

 それっきり会った覚えがないその人は誰だったんだろうと今更思い出した。




「赤だよ!お姉ちゃん」

「…え?」


 声に呼ばれ、小さい力が私のスカートを引っ張った。

 目の前を、クラクションを鳴らした車が通り過ぎていく。

 昨日みたいな勢いはなくとも、当たれば無事では済まない速度だった。背中に冷や汗が走る。


「安全確認!だよ?」

「君は…」


 昨日の男の子だった。この子が止めてくれてなかったら、もしかしたらぶつかっていたかもしれない。ヒーローだなんだと調子に乗っていて翌日轢かれましたじゃ笑えなくなるところだった。


「ありがとう。ちょっとボーっとしてた」

「ううん。お姉ちゃんの学校もあっちなの?」

「そうだよ。小学校を少し行った先にあるとこなの」

「じゃあ、一緒に行けるね。えへへ」

「はは…」


 えへへとか、こんな上手く使えるものなん?何この笑顔、守りたいくらい可愛いんだけど。顔に力入れてないと、だらしなく笑ってしまいそう。乙女としてダメな顔になりそう。


「顔いたいの?」

「んいや。少し待ってくれる?」

「うん」


 顔を揉んで表情筋をほぐす。これで少しの間は保つだろうと確信するまで待ってもらった。ちょうど信号の色が変わったタイミングと重なったので男の子の方を向いて声をかけた。


「よし。行こっか」

「うん」


 ギュッと温かいものが私の手に触れた。というか握られていた。

 男の子が私の手を握っていたのだ。驚いて固まっている私の隣で、男の子は例の安全確認を実行している。


「お姉ちゃん、僕が見たから危なくないよ!渡ろ」

「う、うん」

「ぼくが守ってあげるから安心してね!」

「…ありがとう」


 握っていない方の手をあげて自信満々に歩み進む男の子。その後ろを引っ張られて進む女子高生(わたし)

 キュン死するかと思った。

読んでいただきありがとうございます。

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