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既「死」感を覚えている。  作者: 白い既視感
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いつもの信号前

 私は死を知らない。


 「そらそうだ」、「アホらし」、「暇なの?」


 いや待て待て、思考を妨げるなよ私。

 死について考えてみようではないか。


 「無駄」、「今日を生きるのに精一杯」、「暇なの?」


 考えることが無駄な訳ない。だって考えてもみろ、どうやって生きるか考えてしまうのが人間なのだよ?だったら死もたとえ一時でも考えることは当然の行動であり、むしろそこから生き方を思いつくかもしれない。大変利口ではないか?


 「長い」、「眠い」、「暇だな」


 ………。私ってアホだな。


 「はあ、死にたくねぇ」


 私は天井のシミを見て、それがなんだか血のように思えて、そんな言葉を口にした。


 〜


 世の中にはたくさんの命がある。


 海で泳ぐ魚、刺身になった命。

 森の端の大木、材料になった命。

 繭を作る虫、糸になった命。

 飼育された鳥、食肉になった命。

 実験用の鼠、解毒になった命。

 宇宙に行った犬、代わりとなった命。


 みんな犠牲となった命。でもそれは人の命を延ばすことに繋がった。だから食べ物には「頂きます」と感謝をするし、家の中では温もりを感じ、服を着て、病気になったら薬を飲み、宇宙の広さを知った。

 犠牲は必要だなんてことは間違っても言えない、けれど犠牲の先に私たちは生活している。


 私は「死にたくない」。


 でも生きものは死ぬものであることを私は知っている。

 今日どこかで生まれた命があるなら、どこかで亡くなる命があることも知らされている。朝のニュースで、ネットの記事で、噂話で。


 生まれる情報よりも亡くなる情報の方が多いと感じるのは偶々知った時が悪かったのか。いやそもそもとして数が問題な訳ではない。が、多いと感じてしまう。


 それぞれに様々な理由が絡み合い、繋ぎ目が出来てしまうのかもしれない。その繋ぎ目を解くよりも、切ったほうが短くなって良いのかもしれない。短絡的なほうが楽だもの。


 でも短くしすぎて上手く伝わらないのなら、私は解く方を選びたい。


 私は「犠牲に生きた」だけで「死にたくない」のだ。


 〜


 赤く光る信号機。

 私は学校の通り道で既視感に包まれた。


「いつもの光景だから、当たり前なんだが」


 笑えない一人ツッコミ。もちろん笑い声は聞こえてこない。

 でも誰かはやってくる。


「男の子が一人…」


 後ろから小学生くらいの男の子が走ってきた。

 赤信号を見て慌てて立ち止まり、私の少し前で足踏みをして変わるのを待っている。


「青になったら、駆け出して…」


 自分の口が勝手に動くように言葉を紡ぐ。

 背中というか後頭部ぐらいしか見えないが、男の子が焦っているのは目に見えて分かった。


(青で駆け出すことの何がおかしいんだろう。信号を守って偉いと褒めた方がいいとかかな)


 私は無性に男の子に声をかけたくなった。意味は分からない。でも、もう止まらなかった。


「ねえ君」


 信号を見ていた男の子が私の声に振り返った。あどけなく、少し可愛い部類の顔をしている。無垢な目が私を見つめる。今から聞くことの不気味さを知らないからこその目だ。その目が変化した時、私は言い知れない恥ずかしさに包まれるだろう。


「なあに?」


 少し高い子どもの声。ああ、もう既に恥ずかしい。

 でも止まらんのです。


「あの信号が青になったらどうする?」


 言っちゃった!なんだこの質問。男の子もびっくりだよ。


「……あ!そっか」


 …うん?なんか納得したみたいだぞ。

 と考える間には信号が変わりそうだ。車が次々停止し始めるために減速するのが感じ取れたからだ。

 少年が足踏みをやめ、右を見た。


「右見て、左見てー」


 「右!」と元気よく男の子が声を上げた時、目の前をものすごい勢いで通過する青い車。

 私は男の子が左を見ている時からランドセルを引っ張っていた。明らかに止まる気配が無く、少年の間近を通ったので肝を冷やした。


「あっぶな!…何あの車」

「おお……怖かった」


 男の子は私が引っ張ったせいで後ろに転んでしまったのだが怪我はないようだった。

 目の前をサイレンとランプをつけたパトカーが走っていく。かなり手の早い追走だと思ったが、その先まで分からない。危険運転は早く捕まえてほしいものだが。


「大丈夫?」

「うん。ありがとうお姉ちゃん」

「ちゃんと確認できてて偉いね。何事もなくて良かったよ」

「お姉ちゃんのおかげで気づけたんだ。…僕、この次も周りを見てから信号を渡ることにする」

「そうだね。お姉ちゃんもそうするよ」


 自然と頭を撫でてしまっていた。「立てる?」と聞くと「うん!」と元気よく言う男の子はなんだか可愛く見えてしまった。いつの間にか、信号はまた赤から青に切り替わるタイミングになっていた。


「右見て左見て、もっかい右!」

「大丈夫そうだ」

「うん。じゃーね、お姉ちゃん!」

「前見て行くんだよー」


 「ありがとー…」と元気のいい声が遠くなって、男の子は前を向いて走っていった。

 私も横断歩道を渡りきる。

 ふと振り返ると、いつも通りの光景だった。


「死ななくて良かった」


 私は心から安堵して、前を向いた。

お読み頂きありがとうございます。

時間はかかりますがまだ続きます、多分。

遅筆を理由にした事に既視感があります。

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