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八.放火犯

「えんじぃー! リエルー!」


騒がしい声で家にやってきたのは。

日向である。


「あー。今日は日向が来る日だったか」


「忘れてたのぉ!?」


「いや、なんか最近色々あって……」


「あー。なんか放火魔が出てるんでしょ?」


「そうなんだよね。昨日、本殿にも火をつけられたよ。消せたから良かったけど……」


「そうなの!?」


「うん。だから他人事じゃないんだよねぇ」


「警察には行ったの?」


「うん。行った。かなり怪しかったから、すぐに見つかるかなと思うんだけど」


「そっかぁ」


「気にしててもしょうがないんだけどね、よしっ! 日向も掃除するよ!」


パンッと手を叩くと。

立ち上がった。


「えぇー! またやるの?」


口をとがらせて抗議の声を上げる。

これが毎回のやり取りになっている。

毎回やるんだから素直にやればいいのだが。


「せっかく来たんだから、掃除して神様に見てもらおうよ」


「うぅ。しょうがないか」


両手両足を床につけ下を向いて絶望のポーズをしている。


「ははは! なんで、毎回その格好するの? 日向は大袈裟だなぁ」


「嫌なんだもん!」


「って言いながらちゃんとやるじゃん! 諦めなよ!」


笑いながら日向に突っ込む。

口を尖らせてぐぬぬぬと唸っている。


「はぁ。やるしかない」


ゾンビのように立ち上がった。

本殿の方に歩いていく。

その後をついて行くリエル。


「そうそう! 掃除を頑張ろー!」


本殿を掃除する。

いつも通りピカピカにする。


「ねぇ。これ本当に神様が見てると思う!?」


「うん。見てるよ? ねっ? ホノカ?」


『はい。毎日ありがとうございます。日向という娘にも礼を言ってくださいな』


「えっ!? 何かいるの?」


「日向にもお礼を言ってるよ?」


「声が聞こえるの? 怖い! 怖い!」


「怖くないよ。この前の火事の一件から火の神様の声が聞こえるようになったんだ。えんじいは神通力って言ってたよ」


「いやいやいや! えんじいのは『神が騒がしいな』位しか言わないじゃん!」


えんじいのよく言う言葉の部分はものまねをして言っている。


「あははは! 少し似てるね! うん。そうなんだよね。なんか僕は気に入られてるみたいなんだ」


「そりゃそうよ。こんなに毎日ピカピカに掃除ばっかりしてれば!」


「掃除ばっかりじゃないよ? 外の落葉をはいたりさ、料理したりさ……」


「ぜんぜんダラダラしてないもん! っていうかテレビ見ないの!?」


「ここにないじゃん? テレビってどういう物か教えて貰ったけど、実際に見てないからわかんないんだよね」


「あぁ。そうだった。ないんだもんね。今度うちに来ない? 知らないの色々あると思うよ?」


「うん! 見てみたい!」


「……別にいいよね? 兄弟みたいなもんだし……ボソボソ」


「ん? 何? 日向?」


「んっ!? 何でもないわよ! それより、ご飯食べに行きましょ?」


「うん!」


えんじいが昼ご飯を作ってくれている。

今日はパスタだった。


「えんじいパスタとか作るのね?」


「ワシじゃってこれくらい作れるわい! リエルに色々と知ってもらいたいからのぉ」


「ありがと」


ニコリとえんじいに笑顔を送り。

ペコリと頭を下げる。


「いいんじゃよ。孫じゃしの」


「私にはそんなことしてくれたこと無くない!?」


「出来の違いじゃのぉ」


「酷い!」


「ははは! 日向冷めちゃうよ? 食べよ?」


「うぅぅぅ。いただきます!」


「いただきます!」


日向はガツガツ食べ始めた。

何でもいい食いっぷりである。

その日向を横目にリエルはフォークに苦戦しながら食べている。


「こうやって……こう」


クルクルフォークを回しパスタを巻いていく。


「私みたいに少し巻いてすすれば?」


ズルズルと啜って食べている日向。

ソースが飛び散っている。

それを見ているリエルは苦い顔をしている。


「んー。なんか、それだと汚い? うるさい? んー。何だろう?」


「そうじゃのぉ。リエルの言いたいことはわかる気がするのじゃ。しかし、食べ方の正解はワシにもわからん」


リエルの意見に賛同するえんじい。

日向は首を傾げるが。

再び勢いよく食べ出す。


食べ終わると、午後は勉強だ。

最近は日向が昔の教科書を持ってきて勉強している。

今は中学校くらいの勉強だ。

リエルは本当に楽しいようで、ニコニコしながら勉強しているのだ。

そんな時間はあっという間に過ぎ。

夕飯の時間になる。


夕飯を食べながらリエルがある提案をする。


「今日は日向を送って行こうと思うんだけど……えんじい、いいかな?」


「そうじゃのぉ。確かに怪しいヤツが彷徨いているからのぉ。すまんが、そうしてくれるかのぉ?」


「うん! そしたら、今度日向の家にも遊びに行けるしね?」


「何じゃ? 日向の家にいくのかの?」


「家で色々見せてくれるって言うから」


「日向! リエルに手ぇ出すんじゃないぞ?」


「酷い! 普通逆じゃない!?」


「いぃや。リエルが心配じゃ!」


「あはは! えんじい心配しなくて大丈夫だよ。僕は日向に手を出されても食べたりしないよ?」


「た、食べるだなんて!」


日向が体を抱えながら後ずさる。

その反応を見て首を傾げる。


「ん? じゃあ、手、出してみて? ほら」


手のひらを前に出してくる。


「日向も僕の方に出してみて?」


リエルの前に手を出す。


「ね?」


「ん? ど、どういう事?」


「手を出されても食べたりしないでしょ? 大丈夫だよ。日向?」


「はぁぁぁ。リエルじゃからしょうがないかのぉ」


「そ、そうよね。そういうの教えてないし……」


「ん? なになに?」


「なんでもないわ。そのままのリエルでいてね?」


「う、うん……」


顔を赤くしながら食べた食器を片付ける。

同じようにリエルも片付けを始め。

送っていくことにした。


「じゃ、お願いね?」


「うん! 行こう!」


ニコニコして楽しそうにしている。

外をあんまりまだ出歩いたことがない為、出かけるのが楽しいのだ。


薄暗くなった夜道を日向と一緒に歩く。

それも新鮮で楽しい。


「ねぇ、昨日ってこのくらいの時間だったの? 日をつけられたの」


「うん。そうだね。丁度今くらい」


「ふーん」


二人で住宅街の方に向かって歩く。

日向の歩幅に合わせているため、ゆっくりだ。

パトランプを回したパトカーが通り過ぎていく。


すると、横の道から突如黒い影が横切った。


「きゃっ!」


驚いた日向はリエルにしがみつく。

影が通り過ぎる。

我に返り、恥ずかしくなった。


「ごっ、ごめ──────」


「あいつだ! 日向! さっきのパトカー追いかけて知らせてきて! 僕はアイツを追う!」


「えっ?」


リエルは走り出していた。

さっき通り過ぎた影を。

よく見ると、なんかタンクみたいなのを持っている。

それを見て理解した。

放火魔だ。


パトカー目掛けて走る。

幸いにもパトカーは徐行で走っている。

すぐ追いつける。


走り出した日向を横目で見ていた。

走ったのを見ると。

目の前の放火犯に集中する。


あっちも追われていることに気付いた。

慌てて走り出す。


「またお前かよ! 来んじゃねぇ!」


灯油をばら撒き出した。

ライターに火をつけている。

持っているのは百円ライターのように握っている時だけ着くタイプのものじゃない。

1度つけるとフタを閉めるまで消えないタイプだ。


「来たらこれ落とすぞ? この辺一体火の海になるぞ?」


「あなたは、何がしたいの? 色んなところに火を付けて?」


「日頃からのストレス発散だよ! 勉強勉強って親はうるせぇし! 周りは俺と距離を置きやがる! 全部うぜぇんだよ!」


「だとしてもさ、火を付けていい事にはなら無くない? むしゃくしゃするなら、どうせならその人にぶつけたらいいじゃん?」


「できねぇからこうしてストレス溜めてんだよぉ! 親に反抗すると説教されるし小遣い減らされるしよぉ! 周りのヤツらに文句言うと、はぶかれてコソコソ悪口言うしよぉ!」


「誰かに聞いてもらったら? あぁ!? 聞いてくれるダチなんて居ねぇんだよ!」


「僕が聞いてあげるよ?」


「あぁ!? 会ったばっかのやつに何がわかんだよ!」


「何もわかんないからさ、全部吐き出さない? だって、僕何も知らないからさ? 聞くしかできないじゃん?」


「こんな会ったばっかの犯罪者の話をきくっつうのか!? あぁ!?」


「うん! 聞くよ? まずさ、今なら謝れば済むんじゃないかな? 警察官に聞いたんだけど、今回の放火で軽いけが人はいるけど死人は居ないんだってよ? 今日放火して死人を出したら殺人犯だよ? 絶っ対後悔するよ? 僕さ、この前の神社に居るんだよ。何時でも遊びにおいでよ?」


「なんでだよ? なんで俺にそんなこと言うんだよ? お前になんの得がある?」


「得とかそんなのいらなくない? 人を救いたいと思う時に自分の得なんて考える? 僕は君の話を聞きたいだけだよ」


「そんな奴いねぇよ」


「いるよ? ここにさ?」


「お前……外人か?」


「んー。そんな感じかな?」


「訳わかんねぇやつだなぁ。あぁ。なんかどうでも良くなってきた」


すると、サイレンが近づいてきた。

パトカーが到着したようだ。


「リエル! 大丈夫だった!?」


「うん。話をしてただけだから」


パトカーから警官が降りてきた。


「君か!? 放火犯は!?」


「はい。俺がやりました。自首します」


警官の元へ歩いていく。

すれ違う二人。


「出たら行くからな? 逃げんなよ?」


「ふふっ。逃げないよ? 何時でもおいで?」


「ふっ。夜中に行ってやる」


「歓迎する」


「バカかよ」


「ふふっ」


少しの間立ち止まって。

笑いながら話す。

清々しい顔をしていた。


「あっ! そうだ!」


「あぁん?」


「名前は?」


「藤堂だ。藤堂とうどう わたる


「僕はリエルだよ」


「またな」


手をヒラヒラと振ってパトカーに向かう。

静かに乗っていく。


パトカーが去った後に。

日向を送っていく。


「ねぇ。なんで、仲良さそうだったの? 知り合いだったの?」


「ううん? 知らない人だったよ。ただ、少しの間、話を聞いてただけだよ。それだけ」


「ふーん。また来るみたいなこと言ってたけど、大丈夫?」


「うん。問題ないよ?」


そんな話をしているうちに日向の家に着いた。


「ここが家だよ?」


「おぉー。普通の家ってこういう感じなんだね?」


「ふふふっ。そうだよ? 今度中に入っていってね? 今日は遅いけど」


「うん。また今度お邪魔するね」


「私の部屋に入れるなんて初めてなんだから感謝して欲しいわ?」


「ふふっ。楽しみにしてる」


「むー。なんか余裕な感じが腹立つわね」


「じゃあ、またね?」


「リエルも気を付けて帰るのよ?」


「大丈夫だよ」


手を振ると神社に向かう。

暗い夜道を歩きながらさっきの渉の言ってたことを思い出す。


何やら周りの人達との付き合いでストレス?というものを溜めていたようだ。

ストレスっていうのを教えてもらえばよかったなぁ。

えんじいに聞いてみようかな。

人付き合いって大変なんだなぁ。

僕はずっと独りだったからなぁ。

今は好きな人たちが居てくれるから。

とても楽しい日々だ。

これからも楽しみだなぁ。


こうして、放火の犯人は無事に捕まったのであった。

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