表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/48

五.日向と勉強

「よぉーーーっし! 午後は私が教えてしんぜよう!」


「ことば?」


「そう! 日本語ね。あとは、計算もできるかしら?」


首を傾げながら顎に人差し指を当てて考えている。

日向は自分が教えれる立場になる事が嬉しいのだろう。

張り切っていた。

それを聞いていたえんじいに注意される。


「日向よ! そんなに急にリエルに教えるでないぞ? 知恵熱を出したらどうするんじゃ!」


「そんなに難しいことは教えないわよ! 大丈夫よぉ」


口を尖らせて反論する。

自分のカバンからノートを出した。

自分が授業で使っている物のようだ。


「あいうえおは書ける?」


「はい」


少しぎこちないがノートにひらがなを書いた。

それを見て驚いた。

この前ひらがなを覚えたばかりではなかったか。

形は少し崩れているが、クセと言われればそれで通用する。

ほぼ完成された字になっていた。


「くん……れん……してる」


「練習してるってこと? あんた掃除、料理、勉強。なんでもできるのね?」


「たのし」


「勉強さえ楽しいの!? はぁぁ。どんな頭してんのよ?」


「??」


質問された意味が分からないでいるリエル。

頭の上にハテナが浮いている。

リエルにどんな頭と言われてもわからないだろう。

こんな頭としかいいようがない。


「あぁ。ごめん。気にしなくていいわ。続けましょう」


「か行から先はかける?」


コクリと頷く。

スラスラとか行からわ行を書く。


「上手ね。平仮名が書けるなら後はカタカナかしらね?」


「か……たか……な?」


「それも教えてあげるわ。後は喋れるようにお話しましょ?」


「はなし……する!」


拳を握り頑張るアピールをする。

日向は胸を抑えた。


「だい……じょぶ?」


「うっ。大丈夫よ」


心の発作である。

顔を赤くしながら平静を装う。

胸をさする。

キュンが邪魔をする。


「じゃあ、話しましょ? 名前はなに?」


「ぼく……は、り……える」


「まず、『ぼくは』は一単語だから、続けて言うようにしよう?」


「ぼくあ」


「もう一回!」


「ぼくは!」


「そう! 続けて言ってみて!」


「ぼくは! リエル!」


「そう! 出来たじゃん! そういう風に、単語事に言うと、聞く方も分かりやすいよ!」


「ひなた! あり……がと」


「どういたしまして! それじゃあ、普通の会話をしていこっか!」


「なんの食べ物が好き?」


「んー、やき……そば?」


「ブッ! それは、さっき食べたからでしょ! 食べ物の名前とかは途切れると変だから、『やきそば』って言えた方がいいよ」


「わかった……やきすば!」


「おしい! でも、本当に少しの違い! 『焼きそば』だよ!」


「やきせば」


「もう一息!」


「やきそば!」


「そう! 言えた! 練習すれば言えるようになるじゃない! 凄いわ!」


「ありがと」


照れるように頬をかいている。

下を向きながら上目遣いに礼を言う。

再び胸を抑える日向。


「どう……いたしまして」


「??」


首を傾げながら日向を見つめる。

なぜ胸を抑えているかはわからないだろう。


「……次に行こうか。次は計算をしてみよう!」


「はい!」


「まず、1足す1が2になるのはわかる?」


「たす?」


「えーっと……」


その場にある鉛筆と消しゴムを取る。


「この鉛筆が机にあります。これが1ね?」


「はい。わかる」


「で、この消しゴムが机の上に足される。机の上には物が2つになるわよね?」


「あぁ! たす、わかる」


「わかった? よかった。じゃあ、1足す2だと?」


「さん!」


「そう! じゃあ、2足す3だといくつ?」


「ご!」


「早いわね。もしかして理屈理解したから計算できる?」


「でも……まだ……じゅう、まで」


「そういうこと。じゃあ10から上はわかんないんだね?」


「はい」


「じゃあ、教えていくよ?」


異世界でも計算などしてこなかったのだ。

10以上何かを数えたこともない。

それ以上がわからないのは必然であった。

しかし、リエルのいい所がある。


それは、わからなくても悲観しないこと。

自分はわからないから申し訳ないとか。

教えて貰って申し訳ないとか。

悲観しないのだ。

全て、「ありがとう」なのだ。


悲観しない代わりに、感謝が絶えない。

色々なことに感謝して生きてきた。

自然に感謝し、作物に感謝し、生きていることに感謝する。

生きていればどうにかなるかもしれない。

足掻くことはできる。

リエルはそう思って生きている。


だから、知らない世界に来ても前向きなのだ。

えんじいに拾って貰えたのは偶然だ。

拾ってもらえなければ、路上で生活していたかもしれない。

だからこそえんじいの為にできることを何でもする。

それが、恩返しになると信じて。


「ひなた……ありがと」


「な、何よ急に? 別に、私がやりたくてやってるんだから感謝する必要ないわよ」


「ふふふ」


「何笑ってんのよ!」


「かわい」


「むがぁーーっ! バカにしてるなぁ!?」


「してない」


ニコニコしながら頭を横に振る。

日向は顔を赤くしながらぐぬぬと唸っている。

リエルは嘘をつかない。

素直すぎるのだ。

嘘を必要としない生活をしていた為だろう。


「まずは、足し算をしたから、次は引き算ね……」


こうして日向による勉強会が夕方まで行われた。

リエルにとって楽しい時間。

日向にとっても心が温まる時間になったようだ。

晩御飯時、えんじいが声を掛けた。


「2人ともその辺にして、晩御飯の準備を手伝ってくれないか?」


「はい!」


「えぇー」


「日向は1人で待っておればよい」


「むぅー。手伝うわよぉ」


台所に向かうと野菜が準備されていた。


「リエルはおでんにするから、それ用にそこの野菜をひなたと切ってくれんか? 少し大きめで良い。ワシは米を炊くでの」


「はい!」


「私やったことないんだけど……」


「ひなた、だいじょぶ。まね……して?」


そう言うと大根を大きめに輪切りにする。

その周りを桂剥きにする。

少し教えてもらっただけだが、うまいものだ。

ニコニコしながら輪切りにしたものを次々剥いていく。


「リエル、うますぎない?」


「やる? きっと……できる!」


「うーん。ちょっとやってみるわ」


「これを……こうして……だいこん……回す」


一個を桂剥きして見せる。

スッスッと大根を動かす。

日向も見よう見まねでやってみる。


大根に刃を入れ。

少し大根を回す。

スッと皮が切れたが、短く終わってしまう。


「あっ。切れちゃった」


「ゆっくり、包丁の側の手の親指で皮を引っ張りながらやるとうまくいく」


「こう?」


コクリと頷いて一緒にやってみる。

スッスッとゆっくり切っていく。

真剣な日向の表情を横から見る。

綺麗な茶色い瞳が見開かれている。

吸い込まれるようにジッと見ていると。


「できた!」


大根を見ると綺麗に桂剥きができていた。

ニコリと笑い頷く。


「あとは、きる」


輪切りになった大根を四等分に切る。

人参は乱切りにする。


「にんじん……は、まわす……きる」


クルクル人参を回して切っていく。


「おぉ。そうやって切るのね!」


ストン、ストンと日向はゆっくり切っていく。

少し不格好だが切れている。

そこへえんじいがやってきた。


「なんじゃ、日向もできるんじゃな。リエルの教え方がいいんだろう。ホッホッホッ」


「むぅ。確かにそうだけど……」


「ひなた……じょうず」


「そうよねぇ? 私が上手なのよ! センスあるの!」


口を尖らせて怒る日向。

それを横で面白そうに見ているリエル。


「まぁよい。あと、そこのを切ったら鍋に入れとくれ」


「はい!」


残りの野菜を切ると鍋に入れる。

そこに水を投入して、火にかける。

えんじいが味付けをしてグツグツと煮込んでいく。


「あぁー! いい匂いしてきた!」


しばらくすると御飯も炊けた。

盛り付けを皆でしてテーブルに置く。

三人共座り、落ち着いた。


「それじゃあ、食べようかのう。いただきます」


「「いただきます!」」


日向は余程お腹が空いていたのだろう。

おでんをハフハフいいながら口にかきこみ。

お米をガツガツ食べている。


「これで少しは料理ができるようになって、週末にここに来なくて良くなるといいんだがのう」


「なんでよ! 親が二人とも仕事なんだからいいじゃない! 可愛い孫が来るのよ? 嬉しいでしょう?」


「もう少し可愛げのある孫ならいいんじゃがのう」


「料理できるようになっても来るわよ? リエルに勉強教えるもの。ねぇ?」


「うん。おねがい」


コクリと頷いて答える。


「そうじゃのう。少し言葉が出るようになったか?」


「はい。すこし……でるかな?」


「うむ。同じ年のくらいじゃし、日向が丁度いいかものう」


「よしっ! また来るから勉強しよう!」


「うん!」


2人とも微笑み合っている。

その2人をみてえんじいは少し安心するのであった。

日向はこの性格が災いしてあまり友達が多くない。

はっきりと物を言ってしまうのは、良し悪しだろう。

リエルとなら素直になれるようだし。

本当に丁度いいようだ。

面白いと思って頂けた方、ブックマークと下の評価をして頂ければ、大変励みになります!

よろしくお願いします!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
cont_access.php?citi_cont_id=952606491&size=135
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ