四.孫、襲来
この世界に来てから数日。
まだまだ覚えることが多いが、大まかには覚えたかなと思っていた頃。
嵐がやってきた。
「えんじーーー!」
突然住宅に木霊する声。
女の子の甲高い声が響き渡る。
ドタドタと家に上がってくる。
「なんじゃ! お前は毎度毎度礼儀がなっておらん! 少しはお淑やかにできんのか!?」
「別にいーじゃん! 私、後継ぐわけじゃないし!」
えんじいに文句を言っているのは女の子。
髪を一つに結って前髪はパッツンと揃っている。
ふっと、リエルは目が合う。
数瞬後
「えぇぇぇーーー!! 誰!? この綺麗な外人!」
「うるさいわい! リエルが驚くじゃろうが!!」
えんじいの言葉通り。
声の大きさに驚いていた。
目を見開いて耳を抑えている。
「すまんのぉ。リエル。こやつはうるさいんじゃ」
「だいじょぶ」
「えぇー! 日本語話せるの? 私は、神楽 日向っていうのよ! 女通し仲良くしましょう!?」
「すこし……はなせ……る」
「日向、その子は男じゃ」
「えっ!? こんなに綺麗なのに男なの? 自信無くすわ」
両膝を着いて手をついた格好で絶望している。
その格好を見たリエルは笑った。
「ははは! おも……しろ」
「いや、あんたね! そんな成りして男って! どっからきたの?」
「わか……ら……ない」
「えっ!? どっから来たかわかんないの? なんで? アメリカとか? オーストラリアとか? 綺麗な銀髪だもんねぇ」
「日向! 少し黙っとれ! リエルは突然気付いたらこの近くにいたらしいのじゃ。裸足で歩いとった。神隠しにあったんじゃないかと思ってのぉ」
「そうなの!? もしかしてラノベ系小説みたいに異世界転移しちゃったの!? リエルすごーい!」
「じゃから! 分からんのじゃ! 少しはリエルのことを考えて話さんか!」
暗い顔をしているリエル。
その横顔を見て日向は焦った。
「あっ! ご、ごめん! 分かんないんじゃ不安だよね。ホントに心当たりないの?」
「な……い」
「そっかぁ。えんじいは、この子を引き取る気なの?」
「そうじゃ。身寄りがないそうだしの。放ってはおけまい。それにのぉ、何やら神が力を貸してやって欲しいようなんじゃ。何やら騒がしいのじゃ」
「へぇ。私も日本語教えてあげよっか!?」
「あ……りが……と」
「そうじゃのぉ。話していた方が覚えるじゃろう。それにの、不思議なことにワシらの言っていることは理解出来るのじゃ」
「そうなの? 凄い便利じゃん!」
コクリと頷く。
「リエルはのぉ、ここ数日で神社の仕事をほぼ覚えたんじゃ。凄い逸材じゃよ」
えんじいが褒めると。
頭をポリポリしながら照れるリエル。
「すごいじゃーん! 私なんて掃除できないし、覚えれないしぃ」
「覚える気が無いんじゃろうが!」
「そんなことないし」
「ぷっ……あははは!」
日向の唇を尖らせた顔を見て笑う。
笑われたことに気付いた日向。
プイッと違う方を見て拗ねる。
「ごめ……ん!」
「いいんじゃよ。こやつには良い薬じゃ! 少しは真面目にやろうと言う気になるじゃろう!」
「いつも真面目よ? 覚えれないのよ!」
「じゃあ……いっ…………しょ……やる?」
「リエル一緒にやってくれるの?」
コクリと頷く。
いつもの様に口と鼻に布をまく。
ハタキを持ってパタパタとし始める。
「えっ! ちょ、ちょっと待って! えんじい! 口にやるのとハタキちょうだいよ!」
「ホッホッホッ。ほれ。これでやりなさい」
リエルの隣に立ってパタパタとし始める。
実は、日向はいつも真面目に掃除をしない。
ただ喋りに来て。
飯を食べたら去っていく。
という好き勝手をしていた。
前々から少しは掃除くらいして徳を積むよう言っていた。
しかし、全くしなかった。
パタパタやるリエルを見て。
真似をしてパタパタする。
ホコリが落ちていく。
高い所が終わる。
すると、箒とチリトリを持ってきた。
サッサッとホコリを集めていく。
「リエル……あんた慣れてるわね? ここ来てそんなに経ってないわよね?」
ニコッと笑顔で頷く。
日向はその顔を見ると自分の顔を赤くした。
下を向きながら一緒に箒で掃く。
「反則よね」
聞き取れないぐらいの小声で喋る日向。
何したんだろ?
と思いながらもリエルは箒ではいて行く。
はき終わった2人。
ここから床の水拭きだ。
桶に水を汲んでタオルをつける。
ギューッと絞る。
トタトタッと雑巾で拭いて進んでいく。
本殿は割りと大きい。
住宅1件分の広さくらいはある。
2人でやれば早い。
あっという間に終わり。
リエルはニコニコだ。
「もう……おわった。は……やい」
「うへぇぇぇーーー。疲れたぁ。こんなこと1人でやってんの? 凄いねぇ。えんじい鬼だね」
「だぁーれが鬼じゃ! 日向がやらなすぎなんじゃ!」
腕を組んで怒り心頭のえんじい。
顔を真っ赤にして。
今にも頭から湯気が出てきそうである。
「私はやらなきゃいけない理由ないじゃーん」
「そうじゃが、せっかく来るなら偶には掃除をして徳を積むことは悪いことではないじゃろう!」
「今やりましたけどー」
「ぐぬぬぬ。この娘はぁぁぁぁ」
拳を握りしめて更に怒ってしまった。
リエルを見ると。
色んな所のホコリを拭いていた。
本棚や神棚、柱や窓の冊子。
目について所を片っ端から綺麗にしていく。
「リエル凄いねぇ。どうやったらそんなに動けるの?」
「んー? たの……しい」
「えっ!? 掃除が楽しいの!? 頭おかしいんじゃない!?」
「あ……たま……ふつう」
「いやいやいや、おかしいでしょう。どうしたらそんな風に育つのよ?」
「少なくとも日向より何倍もいい育ち方じゃな?」
「うるさいわねぇ」
「そう……じ……いや?」
リエルが首を傾げる。
さらりと綺麗な青い目が銀髪の中から覗く。
「……い、いやなのよ! 汚いし、面倒じゃない!」
綺麗な瞳に見つめられ、動揺する。
リエルの瞳は心の奥底までを見られている気がするのだ。
「きれい……にな……ると……うれし」
「んー。確かに汚いよりは綺麗な方がいいけどぉ」
「で……しょ? いっ……しょ……にしよ?」
「うーーーーっ。わかったわよ! そんな目で見ないで! 一緒にやるから!」
本殿の至る所を拭き掃除する。
ピカピカになるのであった。
終わる事には、日向はクタクタになっていた。
「あ゛ぁぁーーー。もう動けないぃぃぃーーー」
「がん……ばった!」
笑顔で日向を励ます。
「ごはん……たべよ」
ガバッと起き上がる。
リエルを見る。
「お昼ご販!? 行こう!」
「うん!」
日向は住宅の方に早歩きで歩いていく。
それに続くリエル。
住宅のリビングに行くと、お昼御飯が用意されていた。
「リエル。日向。来たようじゃな。今日は焼きそばじゃ」
「お腹ペコペコだよぉー! 早く食べよう!?」
「まず座れ!」
テーブルに各々が座る。
「いただきます」
「いっただっきまーす!」
「いただ……きます」
日向は勢いよく焼そばを口に入れる。
リエルは恐る恐る口に運ぶ。
ウンウンと頷きながら食べている。
気に入ったようだ。
「ん゛っ!」
「ほれ! 水じゃ!」
「ングッングッ……はぁぁぁーーー死ぬかと思ったぁ」
「落ち着いて食べんか! せわしない! リエルを見ろ! 静かに食べておるじゃろうが!」
パクパクと一定のスピードで食べている。
「リエルーおいしぃ?」
ニコッと笑顔で頷く。
この笑顔が日向は忘れられなくなる。
「そ、そっか! よかったね! えんじい焼きそば上手よね!」
「日向も料理を覚えたらどうだ? リエルは多少覚えたぞ? 簡単な物なら作れる」
「えぇ!? リエルそうなの?」
再び笑顔でコクリと頷く。
「たのし」
料理も、掃除もリエルには新鮮であった。
なんでも楽しいのだ。
その楽しく掃除をしている姿は。
神も見ている。
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