三十七.仁の変化の原因
未だ満開の桜並木の横を通った先には、今日の目的の病院が視界に入ってきた。
「うわぁ、ホントに大きいな。この前なんで気付かなかったんだろう」
特に目的もなく見る時に病院は中々目に入らないだろう。
街の中にある病院なのだから尚のことである。
公園から更に10分歩くと病院に着いた。
正面玄関はロータリーになっている。
車が行き交っていてまだ始まったばかりの時間なのに人が続々と来ていた。
玄関のすぐ横に貫禄のある人が。
玄さんであった。
「おまたせしました!」
「いや、待っておらん。さぁ、行くぞ」
「はい!」
病院の中にいざ、潜入である。
しかし、潜入と言っても。
「俺だ。仁にこの人の診察を頼みたい。少し時間をとって貰えないか?」
「か、会長! その方の診察ですね!? し、少々おまちください!」
慌てた様子でパソコンを見ている。
診察に空きがあるか見ているようだ。
「ちょうど10分後の診察がキャンセルになったので、そこに入れますね!」
「あぁ、ありがとう。助かったよ」
「と、とんでもありません! お呼びするまで、お待ちください!」
「あぁ」
受付を終えると、近くの椅子に座った。
仁さんという人はどんな人だろうか。
1年前まではいい人だったと言っていた。
人ってそんなにコロッと変わるだろうか?
何かきっかけが合ったにしても、劇的に変わりすぎている。
妖だったら滅せばすむが。
そうじゃなかった場合……
「会長! 診察です!」
「あぁ、ありがとう。リエルくん、行くよ」
「はい」
イスを立つリエル。
緊張で顔が強ばっているかもしれない。
考えがまとまる前に時間になってしまった。
診察室に入る。
「失礼します」
目に飛び込んできたのは。
目の下には大きなクマが出来ていて。
頬がコケているが玄さんの面影がある男性であった。
「なんだ、あんたか。何しに来た? 私は暇ではない。帰ってくれ」
「まぁ、そういうな。この人の診察をしてもらいたいんだ。リエルくんという」
リエルを訝しげに見る。
「親父が分からない何かの病気か? 口を開けて」
言われた通りに口を開ける。
「うん。次は胸の音を聞かせて」
着ていた服を捲る。
聴診器を胸に当てる。
「背中も見せて」
くるっと回る。
聴診器を当てて首を傾げる。
「ちょっと首見せて」
顎の下から首を触る。
「問題ないが、何か症状は?」
「すみません。僕は正常です。仁さん、何でそんなになるまで思い詰めてるんです? 何があったか話してくれませんか? みんな、なにかに取りつかれたかと思ってたんですよ?」
「おい! 親父どういうことだ!? 時間がもったいない! 次の患者を!」
「待て! 待て! リエルくん、どういう事なんだ?」
「急激に変わったために妖かと思っていましたが、違います。仁さんには妖は取り付いていません。何かあったんだと思います!」
「なんと……妖ではなかったなら、お前はなんでそんなに仕事ばかりで家を放ったらかしにしてるんだ!? 詩織さんと拓人をどうするつもりだ!」
「ここで家のことを話さないで貰いたい。気が散る」
「お仕事で、何かあったんじゃないですか? もしかして、仲の良い方を亡くされたんですか?」
「アイツは私が殺したも同然だ! 俺が必ず治してやるって言ったのに! 容態が急変した時、俺は山に家族で行っていて電波が繋がらなかった! 戻ってきて履歴に気づき、掛け直した時には既に手遅れだった! 俺が手術していたらもしかしたら……」
「誰が執刀したんだ?」
厳しい声で玄さんが聞く。
「大和田さんだ……」
「お前、自分でもわかってるだろ? ただ、仲が良かった人が亡くなったのを自分のせいにして自己犠牲を演じているだけだ」
「分かってるよ! 大和田さんは! この病院で1番腕がいい! 私なんかまだ未熟だ! だけと、俺が助けてやるって言ったのに……」
「俺も気持ちはわかるがな。俺も、親友を看取ったもんだ」
「親父も?」
「だから、仁さんは人が変わったみたいにこれまで以上に仕事に勤しんだんですね。親友の時のように自分がいればと、そう思わずに済むように」
「あぁ。そうだ。もう後悔はしたくない」
「詩織さんが幻聴で悩んでいたことを知っていましたか? もう少しで精神病になっていた可能性もあります」
「ん? なぜ詩織を知っている?」
「2日前に花見で会ったんです。玄さんはその前にあってました」
「お前は知らないだろうが、拓人が誘拐されたことがあったんだ。その時に、協力して助けてくれたのがこのリエルくんだ」
「拓人が誘拐? なんだ? そんな話聞いてないぞ!」
「お前が帰ってこないからだろう」
「そんな……詩織と拓人がそんな事になっていたなんて」
リエルは優しく語り掛ける。
「仁さん、ご友人を失ったこと、本当に辛かったと思います。後悔し、仕事に打ち込む。そうすることで人々を救うことが出来ると思います。でも、1人で全部やってしまって、他人を退けていたら、誰も協力してくれないのではないですか?」
「し、しかし! 私がやれば助けれる命が増えるんだ!」
「他の人だとダメなんですか? 全てが完璧な人なんているんでしょうか? 人は人の苦手なところを補い合う。そうやって生きているんじゃないでしょうか。全部自分でやるには限界があります。人を頼りましょうよ」
「そうだぞ、仁。お前、この病院の現状を気付いていないのか?」
「何がだ?」
「お前が周りを厳かにしたからだろうが、お前以外の診察が減っているぞ? お前について行っていいか、という疑問で患者への対応が疎かになっているんじゃないのか?」
「そんな馬鹿な! 俺がこれだけ働いているのに!」
「だからじゃないか? 働きすぎて誰もついて行ってないんだろ? みんなは休息も重要だと理解している。仁、自分の顔、鏡で見たか? 酷い顔してるぞ?」
自分の顔をペタペタと触る。
「仁さん、一度家に帰って家族とお話してみてはいかがですか?」
「そう……だな……今日は帰ることにしよう」
「はい。是非、詩織さんに顔を見せてあげてください」
「あぁ。親父……」
「先生! 次の患者さんがお待ちでーす!」
部屋の外から声がかかる。
「わかった! 今終わるところだ!」
「なんだ? 仁?」
「いや、後で話す」
今はとりあえず終わりのようだ。
「リエルくん。今日はありがとう。君のおかげで少し現実が見えたよ」
「はい。次会うときは笑顔を見せてくださいね?」
「私は、笑ってなかったか?」
「はい。口は引き攣り、目も笑っていません。そんなんじゃ患者さんも不安になりますよ?」
「ふっ。そりゃ酷いな」
「そうですよ。それでは、また」
最後にまた会うことを誓い診察室を後にする。
入れ違いで違う患者さんが入っていく。
「あの感じでも患者さんが来続けると言うことは、医師として優秀なんでしょうね」
「そうだな。息子だからこう言う訳では無いが、仁は患者の為に一生懸命なんだ。だから、知識だけは誰にも負けないと思っている。手術はどうしても経験がものをいうからな」
「そうなんですね。元に戻ると良いですね?」
「あぁ。きっと戻るさ。今日が楽しみだ」
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