三十六.救い合い
「おーい! 居るかぁ?」
お花見の次の日、リエルの元へやって来たのは。
玄さんと、詩織さんである。
「はぁーい! あっ! 玄さん! 詩織さん! どうぞ、上がってください!」
「言われた通り連れてきたぞ?」
「あのぉ、私になにか?」
「まぁ、中で話しますよ」
リエルは中に入るように促し、リビングに通す。
すると、奥からえんじいがやって来た。
「ほれ、お茶じゃ。詩織さんもどうぞ」
「おう。炎蔵、悪いな」
「すみません……」
萎縮している詩織さん。
その姿をジッと見る。
「早速ですが、詩織さん、何か悩んでいることがあるんじゃないですか?」
「な、なんですか? い、いきなりぃ。悩んでいることなんて……」
詩織さんは何故かあんまり悩みを言いたくないようだ。
「そうですか? 左の耳、ずっと何かが聞こえていませんか? 囁きのようなものが……」
「えっ!? なんでわかるの!? はっ!」
口を噤む詩織さん。
「なんで、隠してるんです?」
「だって、私がもしかしたら精神病になったかもしれないって思ったら……入院とかになったら……拓人は誰が面倒見るんですか!?」
「旦那さんは?」
「あの人は仕事の事ばかりで! 子供も! 私のことも! 放ったらかしです! ただの同居家族としか思ってないんです!」
「そうなんですか……玄さんは、どうにか出来ないんですか?」
「俺も最初のうちは言っていたんだがなぁ。全然聞く耳を持たん。昔はあんな感じでは無かったんだが……」
「それは、気になりますねぇ」
「まさか? あやつにも、仁にもなにかあるのか!?」
「分かりません。まずは、詩織さんです」
そういうと手を詩織さんにかざす。
「私に何かあるんですか?」
「左の耳にずっと唇のような形の妖が声を発しているようです。詩織さんにだけ聞こえるように……」
「なんなんですか!? 治るんですか?」
「はい。僕がその付いているものを滅します」
「滅する? どうやってですか?」
「僕の力に神様の力を借りるんです」
「はぁ。神?」
「まぁ、見ててください」
詩織さんに手をかざす。
体から神力を放出する。
「ツクヨミ! 力を借りるよ! 闇でこの妖を飲み込んで!」
リエルの影が伸びる。
詩織さんの左耳を黒い影が覆う。
すると、妖が自ら離れた。
かと思うと、こちらに迫ってきた。
「ダァァガァァバダダァァァ」
大きな声を上げて迫ってくる。
「闇よ! 飲み込んで!」
ズズズズッ
闇が急激に広がり。
妖を飲み込む。
ズルズルッと影に引き込んでいく。
トプンッと影に入った。
少し様子を伺うが、滅せたようだ。
「ふぅ。なんとか滅せれたようです」
「詩織さんが正気に戻るのか?」
玄さんは詩織さんを注視する。
「どうだ? 詩織さん?」
ポタッ
ポタポタッ
床に涙が落ちる。
「詩織さん!? どうしました!? 具合が悪いですか?」
「グズッ……ちがいばず…………ほんどうに…………聞こえなくなりまぢだ……グズッ」
「そう……ですか。よかった」
詩織さん泣き止むまで、静かに待った。
しばらくすると落ち着いたようで、これまでの事を話し始めた。
「私……1年くらい前までは普通だったんです。それが、ある日から突然ずっと耳元で訳の分からない言葉が囁かれるようになって……」
「理解できない言葉だったんですね?」
「はい。だから、雑音として気にしないように心がけました。でも、そのせいで人が話した言葉が聞き取れないことが多くなってしまって……」
「そうだったのか。たしか仁がおかしくなったのもその頃からだったような気がするな……」
玄さんが神妙な面持ちで沈黙する。
「でも、私のせいでそうなったんだと思ったんです! 私が話を聞かないものだからそうなったんだとばかり……」
「なぁ、リエルくん、仁と詩織さんは元々登山が趣味でな、拓人が産まれてからは3人で山に行くのが趣味になっておったんだ。確かあの頃……」
「あっ! あの頃は霊山に登ることにハマっていて……もしかして……」
「えんじい? なにか関係あるかな?」
「そうじゃのぉ。まぁ、心霊的な話があったりもする。元々、ワシらのような者たちが修行に訪れる霊力の強い場所じゃ。何らかの影響が出ていてもおかしくはない……玄よ、仁さんとやらを連れてこれるか?」
「あやつは、今は誰にも聞く耳を持たん。狂ったように仕事ばかりしている。家にも帰ってこん……」
「では、直接病院に行くしかないですね……」
「行ってくれるのか!? しかし、奴があってくれるかどうか……」
「診察を受けている間に僕が何とかしてみますよ」
「そうが1番いいかもしれないな。よし、わしの知り合いだと言って立ち会うことにしよう」
「そうしましょう」
詩織さんは目に力が戻った。
希望を見いだしたようだ。
「あの頃に戻れますかね?」
詩織さんに聞かれると、頷いた。
「時期が合っているということは、妖の可能性が高いです。まず、見てみましょう」
「お願いします!」
「よかったな、詩織さん!」
「はい! お義父様、連れてきてくださってありがとうございます! 今は、とても晴れ晴れした気持ちです!」
「これも、リエルくんのおかげだ。詩織さんに、仁まで助けてもらうことになるかもしれん。俺の一家はリエルくんには頭が上がらないな」
「そんな、気にしないでください! えんじいのお友達なんですから、手助けさせて欲しいんです!」
「炎蔵の友だからとな? 何やら炎蔵のおかげで俺達も救われているような言い方だな?」
「はい! だって、僕がえんじいに救われていなければ、ここに僕はいません。そこら辺で野垂れ死にしていたかもしれません」
「何やら複雑そうじゃな」
「そうですね、でも、巡り巡って人って救い合っていっているんじゃないかなって僕は思うんです。僕が誰かを救う。救われた人が別の人を救ってあげる……それが連鎖していったら、日本全部が、世界全部が……救われていくと思いませんか?」
「はっはっはっ! スケールの大きい話だな?」
「でも、あながち間違ってないと思います。人々は助け合って生きていくものだと、そう思うから」
「うむ。そう通りだな。しかし、世の中には人に強く当たる人もいる。そういう人に限って、いざ自分が強く当たられると感情的になったりするんだよなぁ」
「世の中の人のことを少し思う。転んだ人がいたのを見て、大丈夫ですか? って声を掛けてあげるとか。それだけでも優しさって伝わると思うんですよ」
「耳が痛いな。たしかに、声を掛け合うことで変わってくる心情というものがあるかもしれないな」
玄さんと話していると、詩織さんが身を乗り出して来た。
「あの! 仁さんは、1年前まではそういう人だったんです! いいお医者さんでした…………患者さんに声を掛けたり、私達にも優しく声を掛けてくれて……」
「たしかに、最近が酷いからなんだコイツは!と思っていたが。前はそうでは無かったな」
「そんなにかわったなら、何かあったはずです。早急に病院に行きましょう!」
「わかった。では、明後日はどうじゃ? 午前中から診察をしているはずじゃ」
「病院は近くですか?」
「ここからだと歩いて40分くらいだな。昨日行った公園があるだろう? あの先に大きな病院が見えてくる。そこだ」
「では、病院で9時くらいに待ち合わせにしますか。混む前が良いでしょうからね」
「そうだな。頼む!」
「私からもお願いします! 仁さんを元に戻してください!」
「妖であれば、何とかします」
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