三.覚えることがいっぱいで楽しい
「朝じゃぞ」
パチリと目を覚ます。
ここは何処?
なんでこんな所にいるんだっけ!?
攫われた?
「これに着替えるんじゃぞ?」
炎蔵爺さんに言われてハッとした。
そうだ。
ここに住まわせてもらうんだった。
頑張ろう!
コクリと頷くと渡された白衣と袴を着る。
昨日着た物と同じだった為、自分で着ることが出来た。
「ほぉ。もう自分で着れるか。覚えが早いな」
嬉しそうに呟くとこっちに来いと目線で促される。
サッとついて行く。
案内されたのはまたテーブルであった。
「これが朝ご飯じゃ。大抵は同じ様なものを食べる。じゃから、作り方をその内覚えてもらうからな?」
コクコク頷く。
「じゃあ、頂きます」
両手を合わせて拝むように挨拶をする。
なんでご飯を拝むの?
食べちゃいけないの?
首を傾げるリエルを見て炎蔵爺さんは教えてくれた。
「これはのぉ、食卓に並んでくれた野菜やお肉達に感謝の気持ちと、作った人に対してご飯をありがとうございます。いただきますとそういう意味で言うんじゃよ」
「んー!」
頷きながら笑顔でいるリエル。
「いい事だと思ったのか?」
ウンウンと頷く。
そういうの凄くいいと思う!
神に感謝するのと似てる。
食べ物と作ってくれた人に感謝するのいい!
ずっと笑顔で手を合わせる。
「いだだけあす!」
「おぉ。吸収が早いのぉ。発音が甘いが、練習すればすぐに話せるようになるんじゃないかのぉ?」
「あい!」
元気よく返事をする。
ご飯をかき込むように食べ始めた。
まだ、箸をちゃんと使えないので、ぎこち無い。
が、何とか食べれている。
「こう持つんじゃよ? そして、親指はそのままでこの指だけ動かす」
ぎこちないが少しできていた。
箸は初めての人には難しい物だ。
んーーーー!
難しい!
これで食べ物を食べるなんてすごい!
この世界の人はみんな器用なんだなぁ。
「そうそう。良いじゃないか。段々と慣れるだろう」
少しずつだがご飯を箸で食べている。
食べ終わると少しくたびれてしまった。
「ホッホッホッ。疲れたじゃろう? 少し休んだら次はここの仕事を教えるわい」
笑顔でコクリと頷く。
はしって難しいなぁ。
でも、もう少しで出来そう。
ちょっと休憩したらまた頑張ろ!
少し休むと炎蔵爺さんは立ち上がった。
「こっちに来るんじゃ。仕事というか修行の一貫だが、掃除じゃな。中の床は水拭き、上のホコリはこのハタキで落とすんじゃ」
棒にバラバラの布がついているのをみる。
何これ?
棒になんか付いてるけど、どうやって使うの?
棒を掴んで上にしてみたり下にしてみたりする。
「それはのぉ、こうやってはたいて使うんじゃ」
パタパタとやって見せる。
ホコリが舞う。
「ゴホゴホッ」
「おっと、すまん! そっちにいってしまったな。この布で口と鼻を覆ってはたくんじゃ」
リエルはむせてしまったが、やりたい事は分かったようだ。
コクコクと頷いて笑顔でハタキを受け取る。
「それが終わったらこれで、こうホコリやゴミを取るんじゃ。最後にこれで床を水拭きじゃ」
「あい!」
箒とチリトリ、雑巾が渡される。
笑顔で受け取る。
口と鼻を布で覆う。
早速上を叩き始めた。
パタパタッ パタパタパタ
「おぉ。そうじゃ! 上手い上手い!」
炎蔵爺さんが嬉しそうに手をパチパチ叩いている。
「ワシは家の方に居るでの、掃除が終わったら声を掛けての」
「あい!」
返事をすると黙々と叩き始めた。
パタパタと順番に叩いていく。
黙々と掃く。
水を絞って布で雑巾がけをしていく。
床が終わると神棚等も吹き始める。
「ん? もう昼ではないか! 掃除に手こずっているのかのぉ?」
本殿を見に行くと。
どこもかしこもピカピカではないか。
こんなにピカピカなのは初めてじゃないか。
指示してない所まで拭いているようだ。
リエルの横顔を見るとニコニコしている。
こんなにピカピカにしても苦ではないのか。
こいつぁとんでもないのが現れたのぉ。
これは、相当徳を積むぞ。
こんな逸材はいない。
炎蔵爺さんは嬉しそうに微笑むとリエルに呼びかけた。
「おーい。もう飯の時間じゃぞ!?」
「あーい!」
ニコニコして炎蔵爺さんの元へ駆け寄る。
「もう良い。掃除は十分じゃ。昼飯にしよう」
住宅の方へ歩く。
リエルもコクリと頷くと。
炎蔵爺さんについて行く。
昼ご飯を食べると次は座学の時間になった。
「午後からは日本語を教えていこうと思う。幸い何故か話している言葉は通じておるから、平仮名の発音を教える。良いな? 一個一個発音していく。文字と音を擦り合わせていくんじゃ」
「あい!」
「丁度いいな。返事は『はい』だ。口を開いて喉を少し絞る。『はい』」
「へい! えい!」
「口を開くんじゃ腹から声を出す『は』いってごらん」
「はぁぁ!」
「そうじゃ。『はい!』」
「はい!」
「それじゃ! できたじゃないか! 凄いぞ!」
「あとは、一つ一つ発音するからの?」
「はい!」
「これは『あ』、これは『い』、これ……」
こうして1つずつ読み上げていくことで、リエルはこの世界での自分の名前の発音を理解した。
「り……え……る……」
「ん? なんじゃ? 何か言いたいのか?」
「な……ま…………え」
「名前か? 自分の名前が言えるのか?」
「はい。り……える」
「リーエルと言うのか?」
ブンブンと顔を横に振る。
「りえる」
「リエルと言うのか。そうか。これでお互い呼び合えるな?」
ニッコリ笑って頷く。
すると、リエルが炎蔵爺さんを呼んでみた。
「えんじい」
「ホッホッホッ。それはわしの事じゃな?」
コクリと頷く。
「まったく。孫と同じ呼び方とはのぉ」
「ま……ご?」
「そうじゃのぉ。孫というのは自分の子の子供のことじゃて。わかるかのぉ?」
コクコクと頷く。
「休みになったら来るじゃろう。リエルと同じくらいの歳ではないかのぉ?」
ニコニコ笑って頷く。
「た……のし」
「楽しみかのぉ? そうじゃな。彼奴にもいい刺激になるじゃろう。リエルは飲み込みが異常に早い。その内普通に話せるようになるじゃろう」
リエルはそれを聞いて拳を胸の所でギュッと握る。
「がん……ば」
「ホッホッホッ。一日目でこれじゃ。色々と教えたくて楽しいわい」
笑顔でコクッと頷いた。
「た……のし」
「リエルも楽しいんじゃな?」
コクリと頷く。
「おぼ……え……るた…………のし」
「覚えるのが楽しいのかのぉ? それはいい事じゃなぁ! なんでも教えてやるわい! ワシもリエルが覚えが良いから楽しいしのぉ」
コクコクッと頷く。
「まぁ、今日はこの辺にするのじゃ。夜飯を作るかのぉ。どうじゃ? 作るとこを見てみるか?」
「はい!」
「見るだけでも覚えてしまうかものぉ。どれ、あっちが台所じゃよ」
えんじいは台所へリエルを連れていく。
一連の味噌汁、煮物の作り方。
ご飯の炊き方。
それらを見せていく。
へぇ。
この茶色いのを溶かすとこの匂いがするんだ!
これは黒くてしょぅぱい。
ちょっと入れてもしょっぱい。
その白い粉入れるんだ!
甘い!
何この粉!
これを入れると凄くいい味!
凄い凄い!
リエルは楽しくてしょうがない。
料理を覚えるのもそう遠い未来ではないだろう。
こんなに、覚えられるのが楽しいのだ。
知識欲を刺激されたのだ。
これからが楽しみである。
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