二十.救うとは
無言になってしまったリエル。
次の日、えんじいはある人に連絡をとっていた。
「リエルや、ワシと一緒にちょっと散歩に行かんか?」
コクリッと、頷くと着替え始める。
準備が終わると渉に留守を任せ外出する。
「渉や、留守を頼むのじゃ」
「行ってらっしゃい!」
リエルはえんじいを追ってサッと外に出る。
黙々と歩く。
住宅街に入った。
しかし通り過ぎていく。
着いたのは、こじんまりとした消防署であった。
「えんじい?」
リエルが戸惑ってえんじいに呼びかけるが。
「着いてくるんじゃ」
裏手に行くと、救助訓練をしていた。
活が飛んでいて厳しく訓練を行っている。
見ると、知った顔がいることに気づいた。
「小林さん?」
訓練に明け暮れている隊員の1人が。
以前お礼を言いに来てくれた隊員だった。
こちらに気づくと近づいてくる。
「炎蔵さん! 話したいことって?」
小林さんがえんじいに聞いている。
「それがのぉ。リエルが塞ぎ込んでしまったんじゃ」
「どうしたの? リエルさん?」
「……」
リエルが黙っていると。
「リエルはのぉ。昨日自殺を測った若者を助けたらしいのじゃ。しかし、その若者は死にたかったとそう言って悔しがっていたらしいのじゃ……」
「なるほど」
リエルの前に来る。
「どうぞ。ここに」
椅子を出すと座るように案内する。
そこにチョコンと座るリエル。
「リエルさん。昨日助けた人は、なんで助けたんです?」
「人が死ぬのは見たくない。助けなきゃと思ったから」
「うん。それは、自分のエゴだということは分かりますか?」
「エゴって?」
「エゴとは、自分の考えを押し付けることです」
「僕が助けたいっていう思いを押し付けたってこと?」
小林さんはゆっくりと頷く。
リエルは歯を食いしばった。
「助けたいって思うのは、間違ってるの!?」
「間違ってません」
「じゃあ、なんで! なんで押し付けることになるの!?」
顔が付くのでは無いかというくらい。
顔を近づけて叫ぶ。
「人は勝手な生き物です。死にたいと思ってる人間からしたら助けられたことを恨む人も居ます」
手を握りしめ椅子に座る。
下を向いて俯くリエル。
震えている。
自分が間違ってないはずなのに。
なぜ恨まれるのか。
感謝こそされても、恨まれるなんて。
そう思っていた。
小林さんは柔らかい声で語りかける。
「リエルさん。私達だって、恨まれることがあるんですよ?」
「あんなに一生懸命訓練して頑張ってるのに?」
「そうです。飛び降りした人の下に巨大なクッションを置いて助けたことがありました」
「その時は?」
「罵倒されました」
「助けたのに?」
「ふふふっ。はい」
笑いながら話す。
「可笑しいと思いませんか? 人の命を救って罵倒されるんですよ?」
「そんなの絶対におかしい」
「ですよね? でも、おかしいのってその人じゃないんですよ」
「?」
首を傾げるリエル。
考え込んでいるが答えがわからないのだ。
「私は、そういう人が死にたいと思って飛び降りてしまう。そこまで追い詰められる人がいる世の中がおかしいと思うんです……」
「うーん。難しい」
「そうですね。難しいですよね。私達も日々考えさせられる事があります」
にこやかに答える小林さんを見て。
リエルは不思議だった。
「罵倒されたのに、どうしてそんなに普通でいられるの?」
「ふふふっ。なんでだと思います?」
「やっぱり死にたい人は死んだ方がいいの?」
急に小林さんが真顔になった。
「それは、絶対に違うと私は思います!」
「じゃあ……」
どうすればいいの?
そう思うリエル。
「命って重いですよね? それは、リエルさんもわかっていると思います」
コクリと頷く。
「生きてれば、やり直しって何回でも出来ると思うんですよ。やり直す時は凄いエネルギーが必要です。だから、嫌になって投げ出しちゃうんだと思うんですよ」
「うん。だから死のうとする?」
「うーん。私達には何を考えてるかまでは分かんないですけどね。でも、だからって、死んでいいと思います?」
「僕は思わない」
「ですよね。でも、それって……」
「押しつけになる……」
コクリと頷く。
「じゃあ、どうしたらいいの? 放っておいたほうが良いってこと? そんなの間違ってる!」
立ち上がって抗議する。
「はい。放っておいたほうがいいなんて間違ってます」
再び頷き鋭い眼光で見る。
「私達は命を助ける仕事です。でも、仕事だからやっているわけじゃありません。本気で命を救いたいからやってるんです」
「……」
真剣に話を聞くリエル。
ジッと目を見て。
「だから、エゴでも構わないと思っています。『なんで、助けたんだ。死にたかったのに』そう言われたって、構いません!」
段々と小林さんの言葉が強くなる。
拳を握りしめ。
「生きてさえいれば出来ることがあります!」
高らかに叫ぶ。
しかし、シュンとして座った。
「しかし、私達は命を助けるまでで終わってしまいます。その後のケアが出来ないんです」
「その後?」
再び小林さんに疑問をなげかける。
「例えば、イジメにあっていて、嫌になって飛び降りました。命は助けたけど、またイジメという嫌な環境に戻るだけになってしまう。それでは、また死にたいと思ってしまうじゃないですか!」
「んー。イジメってなに?」
「リエルさんはイジメが分からないようなところから来たんですね。素晴らしい。イジメというのは特定の人に集中的に嫌がらせをすることを言います。過激になると殴る蹴る。陰湿だと、誰も話してくれないし自分のものが捨てられたり傷付けられたりします」
「……1人にみんなでそういう事をするの?」
「そうです。それが、今の日本では少なくありません」
「そんなの悲しすぎる」
「そうですね。そういった所まで県とか国がフォローしてくれるといいんですけど、なかなか一人一人には対応できないのが現状なんですよね」
「…………そういう人、僕が助けたい。小林さんが助けた人の中にそういう人がいたら、僕の所に連れてきてくれませんか? 話だけでも聞いてあげたい」
「なるほど。この地域だけの限定だけど……リエルさんのところを紹介するのは有りですね」
小林さんは、考え込む。
それが可能かと言うところ。
「やっぱり、なんで死ねなかったのかなんて悔しがるのはおかしい。命を救ってその人の人生も救いたい」
「リエルさん。それは、凄く難しい事だと思います……でも、なんかリエルさんなら出来ちゃいそうですね」
「えんじい……助けを求めてる人の相談みたいなこと。神社でできないかな?」
ウルウルした目でえんじいをみる。
「そ、そうじゃなぁ。そういう事をやっているという噂を流してもらえば良いんじゃないかのぉ。リエル1人が対応するんじゃから沢山の人が来ても困るじゃろう?」
「うん。そうだね。まずは、小林さん達が関わる人から、紹介してもらおう」
顔が明るくなったリエル。
「リエルさん、悩みは解消しましたか?」
「うん。僕は僕のエゴで人の命と人生を救う! 決して助かったことを後悔はさせない!」
「はははっ! ほんとに神様みたいだね」
リエルの言葉には不思議な力がある。
実現してしまうような。
小林さんにはリエルがやはり神の使いか何かなのではないかと、そう思えて仕方がなかった。
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