二.えんじいのおもてなし
「ほら! これを着て飯にしよう」
そう言ってお爺さんが差し出してきたのは丁度リエルにも着れそうな着物であった。
「ここは神社でのぉ。そんなもんしか服が無いんだ。すまないねぇ」
フルフルと頭を横にふりながら服を受け取る。
これも柔らかい布だ!
すごい!
またいい匂いがする!
こんなもの着ていいの!?
着るのを躊躇っていると、お爺さんに促される。
「ほら。それを脱いで、これを着な。下着は履いてるのか?」
??
シタギってなんだろう?
フルフルと横に顔を振る。
「わからんということは、着てないんじゃな」
そう言うとタンスを漁り出した。
「確かこの辺に……」
そこから出したのはあたらしいトランクスであった。
「ワシが履くつもりで買ってた物ですまないが、今はこれを履いてくれ」
コクリと頷くと、その場で脱ぎ出した。
スッポンポンになる。
「まずは、下着からじゃな」
下着を渡される。
持ったまま固まってしまう。
「おぉ。そうか。こうやって履くんじゃよ」
お爺さんが実演して見せた。
へぇ。
そうやってこれを履くんだ?
なんのために履くんだろう。
変なのぉ。
そうは思いながらも、履いてみる。
「お主は細いのぉ。履けなくはないじゃろうが、後でちゃんと買いに行くかのぉ。細いが、農作業でもしとったような筋肉のつき方じゃな?」
コクリと頷く。
「ほぅ。その歳で関心じゃ。農作業を行っていたとはのぉ。次はこれじゃ」
簡単に着れる着物を差し出された。
持ったまま固まる。
「おっ。そうじゃった。こうして着るんじゃよ」
着物を羽織ってみせる。
そして帯を締めてみせた。
「どうじゃ? やってみるか?」
そう言って渡すが、いまいちわからない。
お爺さんが羽織って着させてあげる。
帯も締めてあげる事にした。
「どうじゃ? キツくないか?」
コクリと頷いた。
「そうか。それじゃあ、飯にしよう。そこに座っておれ」
座敷のテーブルに案内する。
そこに座る。
待っている間に色々目に入る。
この平たい物はなに?
こんなのどうやって作ったの?
こんなに平たく切るなんて……
すごい!
テーブルを下から覗き込んだり。
横から見たり。
色んな角度から見ていた。
底にやってきたお爺さん。
持ってきたのは沢庵に大根と人参、ちくわと鶏肉の煮付けと白米のおにぎりであった。
「こんなもんしかなくてすまんのぉ」
そういうとお盆から取ってテーブルに並べだした。
えっ!?
これが食べ物?
この白いのは何だろう!?
黄色い物もあるし、茶色い物もある?
この2本の細いものはなんだろう?
「これも見たことがないか? この白いのにはかぶりつくんじゃ」
身振り手振りで食べ方を伝える。
恐る恐る口に持っていく。
クンクンと匂いを嗅ぐ。
パクッと一口食べる。
「!? ¥@$&=?>!!」
「ハッハッハッ! 上手いか?」
ブンブンッと頭を縦に振って必死に美味しいと表現している。
黄色い物にも手を伸ばす。
鷲掴みにして口に持っていく。
カリッ
「!」
あまじょっぱい味が口にひろがった。
そこにおにぎりをパクリと食べる。
ウンウンと頷いて食べている。
「その沢庵はのぉ、ワシが漬けたんじゃよ。なかなか上手いじゃろう?」
目を見開いて驚きを露わにする。
漬けたって何!?
何だかわかんないけどすごく美味しい!
こんなの食べた事ないよ!
再び、ウンウンと頷いて食べる。
最後は煮物に手をつけようとしていた。
触ろうとした時。
「待った! 熱いぞ!?」
言ったが遅かった触ってしまった。
「ヴッ!」
「大丈夫か!? すまんすまん。今フォークでも持ってくるわい」
そう言うと今度は奥からフォークを持ってきた。
それを差し出す。
この尖ったの何!?
怖い!
取るのを躊躇っていると、お爺さんがお手本を見せてくれた。
「こうして取って、フゥフゥとして冷ましてからパクッと食べるんじゃ」
それを見たリエルは、フォークで煮物を刺してみた。
それを口に近づける。
フゥフゥ
「そうじゃ。そして、パクッじゃ」
パクッ
目を一瞬見開くがその後目じりが下がった。
何だこれ!
凄い美味しい味の汁が出てくる!
美味しい……
こんな美味しいの食べていいのかな?
パクパクと次々煮物を食べ始めた。
「上手いか? ハッハッハッ。良かったわい。作っても食べてくれる人も今はおらんでな。寂しい身じゃわい」
その言葉を聞いてハッとした。
自分も1人だからだ。
自分に指を指す。
「なんじゃ? お主も1人なのか?」
コクリと頷く。
「そうか。それなら、これからはここに住んではどうじゃ? 神社の仕事を覚えてもらえればワシも助かるでのぉ」
そういうと、ブンブンッとまた頭を縦に振る。
こんな所にいさせて貰えるならありがたい!
何でもする!
両手で拳を作り頑張る!という意思表示をする。
「そうか。やってくれるか。それは良かったわい。食べたら風呂に入るかのぉ。丁度湧いてるんじゃよ」
フロってなんだろう?
また何がするの?
不安な顔になってしまったリエル。
「大丈夫じゃよ。ただの湯で体を洗うだけじゃわい」
ゆ?
ってなんだろう?
首を傾げる。
「湯がわからんか? 暖かい水のことじゃ」
熱した水のことか!
熱くないんだろうか?
茹でる気?
食べられるんだろうか?
そんな事を考えているとまた険しい顔になる。
「何を難しく考えておるんじゃ? 食べたら行くぞ?」
湯とはなにか? と考えながらもご飯が美味しくて食べてしまうのであった。
食べ終わった頃。
「よし。それでは、行くかのぉ。着いてくるんじゃ 」
後ろを大人しくついていくリエル。
風呂へ着くと、服を脱ぎ始めるお爺さん。
「ワシと一緒で良いか? 風呂の入り方も分からんじゃろう?」
コクリと頷くリエル。
リエルも見習って脱ぎ始めた。
スッポンポンになると、中に入る。
一般家庭より少し広いであろう浴室はヒノキでできていた。
!?
凄い木のいい香りがする!
こんなにいい香りがする木があるんだ!
驚きながら中に入る。
お爺さんが座るように促した。
「これに座るんじゃ。わしが洗ってやろう。目をつぶっておれ」
そう言うと、シャンプーの液をつけてリエルの髪を洗い出した。
優しく手の指の先で洗う。
これまで蓄積してきた汚れが落ちる。
流し終わると、先程までくすんだ灰色の髪が、綺麗な銀髪になり、光に反射してキラキラしていた。
「これで身体を優しくこするんじゃ」
渡したのは泡立てたボディタオルであった。
ゴシゴシと洗うと汚れが取れていく。
肌も最初より綺麗な肌色に見える。
お爺さんが流すと綺麗な肌が現れた。
「終わったら湯船に入るぞ」
そう言うと、湯船に浸かる。
後に続いて入る。
うわぁぁぁぁ
これは気持ちいいなぁぁ
こんなの初めてだぁぁぁ
私服の表情で風呂に入っていたリエル。
それをみてお爺さんも微笑ましくなる。
「そうじゃ、ワシの名前を知らなかったな。神楽 炎蔵じゃ。これから住むんじゃから名前は知っておいた方が良いじゃろう」
コクリと頷く。
「お主の名前は喋れるようになったら教えてくれればいい。明日から日本語を教えてあげるからな」
それを聞いて頭を下げる。
本当に感謝していた。
こんなに良くしてもらって。
本当にありがたい。
「あんまり入っていると逆上せるから上がるかのぉ」
一緒にあがり体を拭くと、寝る着物に着替えた。
炎蔵は、寝る部屋に案内すると、布団をしく。
「お主はここに寝るといい。明日は、起こすからゆっくりと休むといい」
コクリと頷く。
暫くは、慣れずに眠れなそうであった。
しかしフカフカの布団の威力は凄まじい。
すぐに寝息を立てることになるのであった。
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