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十八.家内安全祈願

ジリリリリリリ


この家では珍しい電話が鳴った。


ガチャ


「はい。神楽ですが…………はい…………はい。やってるのじゃ。何時がいいかのぉ?……あい、わかった。じゃあ、その時間に準備しておくのじゃ」


電話を切ると、えんじいはこちらを向いた。


「リエル。家内安全祈願にお客さんが来ることになったから準備じゃ」


「へぇ。そういうのもやってるんだ?」


「まぁ、神社じゃからのぉ」


「とりあえず、掃除だね!」


「そうじゃのぉ。渉と一緒にやっとくれ」


「うん! 渉ーー!」


本殿の掃除に向かう。

いつも通りピカピカに磨く。


「もうすぐ来るのじゃ、ワシがやっているのを本堂の横で見てるんじゃ」


「はぁい」

「はい!」


少しして声が聞こえてきた。


「ここが神社なんだねぇ! 今まで来たこと無かったよねぇ?」


「そうだな。今年に入ってからあんな事があったんだ。神様に祈っておきたい」


「そうねぇ」


やってきたのは親子のようだ。

小学生低学年くらいの男の子だろうか。

リエルは見覚えがあった。


「あの子たしか……」


パチッと子供と目が合った。

子供は目をパチクリして。

指を指した。


「あーっ! 綺麗なお兄さん!」


「「えっ!?」」


親もこちらを見る。

近づいてきて目の前で止まった。


「そういえば! 神楽さんのところにいると仰ってましたね! その節は、息子を助けていただき、本当に有難う御座いました! お礼に伺うと言っておきながら、神楽さんのところにいると言われたことが頭から抜け落ちておりまして……」


「い、いえ! いいんです。無我夢中でしたから」


「ホントに、何回も河原に行ってまた貴方が通らないかと見たりしていたんですが。一度もお会い出来なくて……」


「ホントにいいんです。気持ちだけで十分ですから」


奥からえんじいが出てきた。


「なんじゃ? リエルの知り合いかのぉ?」


「えーっと……」


「この方はリエルさんと言うんですね!? リエルさんに息子が川に流されているところを助けて頂いたんです! 有難う御座いました!」


「そうだったんじゃなぁ。それはワシは初耳じゃ。いつそんな事があったんじゃ?」


えんじいはリエルの方を向いて問いかける。

ポリポリと頬を掻きながら。


「うーんっと、日向と買い物に行った帰りに助けて帰ってきたんだよね」


「結構前の話ではないかのぉ?」


「うん。言う必要も無いと思って言ってなかったよ」


「まぁ、あえて言う必要も無いじゃろうが、日向も言ってこんとはのぉ」


「うーん。まぁ、ね」


えんじいと話していると。

両親が頭を下げてきた。


「あの時は命を救われました。本当に有難う御座いました! それで、今日は家内安全祈願に来た次第でして」


「あぁ。そういう事ですか……神様にお願いするのはいい事だと思います」


「えぇ! だから今日はこ──────」


「しかし! あの時はバーベキューに夢中で子供のことを放ったらかしにしていたんじゃありませんか!? 僕は……神に祈る前に、ご自身達がしっかりとお子さんを見ることが大事だと、思います!」


リエルは気持ちが熱くなって。

つい大きい声で言ってしまった。

ハッとして下を向く。


「す、すみません。出過ぎたことを言いました」


両親は無言で硬直している。

目をパチパチすると。


「リエルさん。有難う御座います。本当におっしゃる通りです。何度あの時の事を後悔ばかりしています……反省してあぁいった場面の時は見える所で遊ばせるようにして、危険そうなところには前もって近付かないように。近づく時はあたし達のどちらかが付くように徹底しました」


「そうだったんですね。それを知らず勝手に自分の感情で言葉を出してしまいました。すみません」


「そんな事ありません! 改めて気が引き締まりました。そして、ここに祈願に来て本当に良かった」


父親が優しい笑顔でリエルを見ている。

母親も笑顔で子供の頭をなでなでしている。

良い親子だ。

リエルはそう思えた。

こんな親子ばかりなら、世の中幸せなのに。


「有難う御座います! あちらで、祈祷を行いますので!」


「「「よろしくお願いします!」」」


思わぬ形で再びあった親子。

子供も元気そうでよかった。

本殿の中央に椅子があり、そこに3人が座る。


リエルと渉は横でえんじいの祈祷をみる。

白い長い紙のついた棒を左右に降ったりしながら、祈りを捧げている。


それが終わると、今度は親子の方へ行き。

左右に棒を振る。


へぇ。

あぁいう風にやるんだ。

それは教えられなかったなぁ。

跡を継ぐ人にしか教えないのかな?

渉は……あとは継がないだろうけど。

日向は継ぐ気無かったしなぁ。

僕が継いでもいいものだろうか。


そんなことを考えていると。

祈祷は終わった。


「「「有難う御座いました!」」」


「うむ。神様は我々を見ておられる。日々色々なことに感謝して過ごすのが大事じゃとワシは思っとる。ご飯が食べれること。風呂に入れること。3人で居られること。ちょっとした事にも感謝するのじゃ。そうすることで異変にも早く気づける。結果、家内安全に繋がる。ワシはそう感じるのでな。祈願に来た人には皆に言っておるんじゃ」


「はい。今日ここに来れてよかったです。リエルさんにも会えた。神主さんからも有難いお言葉を頂きました。素晴らしい時間でした」


表情が来た時より明るい気がする。


実はこの両親。

ちゃんとリエルにお礼が言えていなくて。

ずっと気にしていたのだ。

それが、ここで会えた。

まぁ、リエルはここに居ると言っていたのだが。

あの時は動揺していたのであろう。

覚えてないのでは会えない。

その数ヶ月の苦悩が晴れたことで。

表情が両親共に晴れやかになっていた。


「たまにはお参りに来ますね!」


「はい。その方が神様が気にかけてくれると思いますよ?」


リエルがそういうと。

父親が近づいてきてコソッと話す。


「リエルさんは神の使いか何かですか?」


「何故です?」


「助けて貰った時、服が濡れていなかった。川に入ったのにそんなこと有り得ないでしょう? でも、助けてくれたのは間違いない。そんな事、神にしか出来ないのではないかと」


「その事は黙っていて貰えませんか? 神の使いではありませんが、神の声が聞こえる者です。詳しくは言えませんが……」


「はい。命の恩人ですから。困るような事はしません。私達は、リエルさんも神だと、そう思っています」


「ははは。それは、身に余ります」


父親は離れると。

深々と礼をして、妻と子供の元へ行く。

3人で手を繋いで去っていった。


渉も3人の親子をジッとみている。

自分と重ねて何か考えているのだろう。


えんじいが近付いてくる。


「どうじゃ? 祈祷は覚えれそうかの?」


「あれって、僕達教わってないよね?」


「その内、2人には教えようと思ってたのじゃ。今回はいい機会じゃから見てもらったんじゃ」


「なんだ。そういう事」


苦い顔をしたえんじいが見ている。


「なにがじゃ?」


「いや、跡を継ぐ人にしか教えないのかなぁ? って勝手に思ってさ。だから、だったら僕が継ごうかなぁとか? 思ってたんだけど……」


恥ずかしそうにそっぽを向いているリエル。

えんじいは固まっている。


「そうか。そう思ってくれておるか。じゃあ、修行をもっとしないといけないのぉ!」


「えぇ!? 十分だよ! 楽しいけどさぁ」


「精進することじゃ! 精神から鍛えんとな!」


リエルのその言葉が。

えんじいはとてつもなく嬉しかった。


実は日向も言っていたが。

子供達はそれぞれの人生を歩んでいて。

この神社の跡を継ぐものが居なかったのだ。

その為、この神社はえんじいの代で終わらせようとしていたのであった。


嬉しい申し出に、えんじいは気合いが入る。

こんなにいい跡継ぎはいないでだろうから。


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