十六.神の所業
修行を開始してからひと月程経った。
前日からの大雨で外の道路を川のように雨が流れていく。
この頃になると修行の成果か。
リエルは虫の知らせのようなものを感じ始めるようになっていた。
この日も、朝から何やら神達が騒がしいのだ。
大雨のせいでホノカは燻っているし。
アメノは逆に上機嫌であった。
「なんか、この雨ヤバくねぇか?」
朝の本殿の掃除をしながら外を見て呟く。
「うん。そうだね。これは……知らない神も感じる気がする。そのくらい騒がしい。何かが起きそうで嫌だなぁ」
「そうなのか? 俺にはまだ分からねぇけど、きっとえんじいさんも感じてるんだろうな」
そんな話をしていると。
後ろから足音が聞こえる。
「リエルも感じるじゃろう? 今日は何かが起きそうな気がして落ち着かないのぉ」
「うん。そうだね。何も起きなければいいんだけど……」
その日の仕事も終わり。
落ち着いた頃。
夜まで何も起きなかった。
今日は何も起きなかった。
明日も何も起きなきゃいいなぁ。
そう思いながら眠りについたのであった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……………………
夜中に地鳴りのような音が聞こえた。
バッと飛び起きるリエル。
「地震!?」
少し揺れている気がする。
「ん? なんだぁ?」
渉もつられて起きる。
「なんか音がするんだ」
ゴゴゴゴゴゴゴ……………………
「本当だ。なんか音がするな?」
次の瞬間。
音の暴力に襲われる。
ドォォォォォガァァァァァァァァァンッッ
「何事じゃ!?」
たまらずえんじいも起きる。
家の玄関を開けてみる。
外は特に問題は無いみたいだった。
「外は問題ないよ?」
少し考えたえんじい。
ハッとして裏手に顔を向ける。
「裏の山が崩れたか?」
「この裏は山になってるの?」
「そうじゃ。リエルと渉、カッパを着るんじゃ。土砂崩れだとすると裏の山の下は住宅街じゃ……」
「えっ?…………じゃあ……」
「生き埋めになっておる人が居るかもしれん」
「急ごう! 渉も急ごう!」
「お、おう!」
ドタドタとカッパを着て。
えんじいが先導して裏の住宅外の方に回る。
周りは土に埋もれている。
予想以上の惨状であった。
「これは、ワシらじゃどうしようもできん! 戻って救助隊を呼ぶしかないのじゃ!」
神社に戻るえんじい。
それを見て渉も続こうとするが。
リエルが動かない。
「リエル! 戻るぞ!」
渉が呼び掛けるが聞こえていない。
リエルは無音の世界にいた。
呼吸を整え、力を巡らせる。
地の神。
どうか、私の呼び掛けに答えて下さい。
この惨状の被害にあった人達を。
助ける為に力を貸して貰えませんか?
……
どうか……力を……
……
『なぜお前に力を貸さなければならない?』
人々を助けたいのです。
『お前になんの得がある?』
私はただ、手の届く範囲の人を助けたい。
お力を貸して頂くために、日々精進しております。
『得がなくても、助けるのか? 人間とは得がないと助けないのではないか? 強欲な生き物だろう?』
確かに強欲な生き物でしょう。
自分達のことばかりで自然のことなど考えず、自然環境も壊す。
自分の保身の為に人を攻撃したりもする。
しかし、人は尊い生き物です。
人の中には人にとても優しい人がいる。
自然環境をとても考えて行動してる人がいる。
自分のことは考えず人を助ける人がいる。
多種多様なのです。
それぞれの考え方があります。
私は、そんな色々な人全てを救いたい。
この世界は素晴らしい。
本当にそう思うから。
『お主の思い。しっかりと伝わった。その人を救いたいという思い、決して忘れるでないぞ?』
はい。
決して忘れません。
『我が名は波邇夜。我が友の名を聞こう』
私は、リエル。
『我が友リエルよ。力を貸そう』
ザァァァァ
音が帰ってきた。
「リエル!? 大丈夫か!?」
「うん。大丈夫。僕が救う」
サイレンが聞こえる。
救急隊が到着したようだ。
次々に隊員が救助に向かう。
あまりの土砂の量に絶望していた。
「これは、重機がなきゃ無理だぞ!?」
「スコップじゃ埒が明かない!」
「リエル! 手伝うのじゃ!」
救急隊を手伝おうとしているえんじい。
リエルは1歩前に出る。
「僕に任せて」
両手を広げ手をかざす。
「ハニヤの名において願う。助けて欲しい。生き埋めになった人を地上に出して欲しい」
少しして。
ポコッ
地面から吐き出されるように泥だらけの人が出てきた。
ポコッ
別のとこからも。
「なんだこりゃ?」
「どうなってんだ?」
呆然とする救急隊員。
「この人達の治療をお願いします!」
リエルの声が飛ぶ。
「あっ! はい!」
救助に向かう。
泥を拭いて行く。
水を渡して次々と運んでいく。
リエルはドンドン前に進んでいき。
次々と人を地上に出していく。
次々と到着する救急隊員に指示を出す。
「この人達の治療を!」
「どうなってんだこりゃ!?」
「いいから! 治療が先だ!」
「そ、そうっすね!」
人がポコポコと地上に出る。
全体を回り終える頃には、朝になっていた。
最後の方の人達の中の2人が亡くなってしまった。
しかし、救助した人の人数は53人。
これは、奇跡の出来事として語り継がれる。
この時の救急隊員は後に語る。
「なんか分からない内に人が出てて、無我夢中で助けたって感じです」
「なんで人が土の中から救急されてたのかは全くわからないです」
「最初に到着した隊員がなんか言ってたよな?」
「え、えぇ。神の所業だとかなんとか……ちょっとよくわかんなかったですけど」
朝日が眩しい。
天は晴れていた。
「晴れてきたなぁ。よかった」
「リエル! 沢山の人が助かったぞ!」
「亡くなった人は?」
「2人だ」
「僕の力不足のせいだ」
天を見上げて呆然とする。
はぁぁっとため息をついている。
「リエルのせいじゃねぇよ! 逆だぞ!? お前のおかげで大勢の人が助かったんだ! 誇っていいんだぞ!?」
「でも、助けられない人が……」
「確かに、助けられない人もいたけど、リエルがいなかったら、誰も助けられなかったかもしれないんだぞ……俺は何も出来なかった」
「僕には力があったのに……」
下を向いて俯く。
「リエルよ……お主は神ではない……自惚れるでないぞ! よくやったのじゃ! ワシも何も出来なかったことじゃろうて」
「そうだね。自分が神になった気でいたかもしれない。自惚れてたね……」
「そうじゃ。よくぞ、あんなに助けてくれた。助けた人は53人だそうじゃ」
「そっか。いっぱい助けれたかな?」
「そう言ったじゃろう? よくやったのじゃ。家に帰るぞ?」
「うん」
朝日をバックにリエルは帰還する。
クラッとしてよろめく。
渉が受け止め。
方を貸して歩く。
「なんか疲れちゃった」
「あぁ。力を使い過ぎたのかもな」
「神通力も使い過ぎれば体力を消耗するぞい」
「そっか……家まで頑張ろう」
助けた人々が治療されている。
それを横目に帰宅する3人。
去ってすぐ。
救急隊の面々は3人の後ろ姿に敬礼していた。
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