十五.修行の始まり
「今日からよろしくお願いします!」
正座してえんじいに挨拶しているのは、渉である。
バーベキューの次の日に早速両親を説得したのだ。
結果は、快諾してくれたそうだ。
なんでも、放火をするようになるほど、悩んでいたとは知らなかったと。
修行の身となるならば反省と言う点でも周囲へのイメージもいいからとのことだ。
えんじいと僕の出る幕は無かった。
だが、ここに来る前にちゃんと両親がよろしくお願いしますとの挨拶に来たのだ。
いい親ではないか?
と思ったが、渉にするとそうでは無いらしい。
「あの人達、世間体しか気にしてないから」
との返事が返ってきたのだった。
「うむ。では、今日からリエルと同じ服を着てもらうからのぉ。サイズはこの前測って手配したから大丈夫じゃろうが、確認して欲しいのじゃ」
「分かりました」
「では、着替えたら本殿にくるようにの」
「「はい!」」
早速渉は着替え始めた。
横にはリエルが付いて着方を教えている。
着替え終わると本殿へ。
「そこに正座」
「「はい!」」
「それでは、これより祓座というのをやってもらうのじゃが、坐禅を組んでもらう」
「はい!」
「ざぜんって?」
「このように足を組み、座るんじゃ」
右と左の足を交差させて座る。
両手を膝の上に置き。
「そうしたら、へその下を意識するんじゃ。そしてそこの力を巡回させるようにイメージするんじゃ」
「「はい!」」
「目を瞑り、さっきのイメージをしてゆっくり鼻で呼吸をするんじゃ」
2人も同じように目を閉じて。
ゆっくりと呼吸をしている。
「そのまま集中」
シンッと静まり返る本殿。
外の鳥のさえずりや木々のざわめきが聞こえるが。
2人は無音の世界にいた。
「始めはこんなところじゃろう。目を開けるんじゃ」
「「ふう」」
「2人とも良く集中できておったな。もう始めてから一時間過ぎておるぞ」
「そんなにたってたんだね」
「俺がこんなに集中できるなんて……」
2人は集中している間。
あっという間に時間が過ぎていたことに驚く。
「これを本来は3時間行うのじゃ」
「そんなに!?」
「俺、できっかな?」
「段々とできるようになってくるじゃろう」
「でも、えんじい、掃除はいつやるの?」
「いい質問じゃな。早起きしてやるんじゃ」
「「……?」」
唖然とする2人。
「うーんと、何時起き?」
「明日からは5時起きじゃな」
「ブッ!」
「汚いな渉ー!」
リエルは身体を引いて離れる。
「5時なんて起きたことねぇよ!」
「起こすから大丈夫じゃよ? 夜もテレビもないから寝るしかないしのぉ」
「えっ!? テレビないの!? じゃあ、携帯で……」
「しばらく、携帯はワシが預かるのじゃ」
「うっ……はい。預けます」
「渉君は緊急の連絡はここの電話にも来るようになっておるから大丈夫じゃ」
「はい! よろしくお願いします!」
正座をして頭を下げる。
渉はここに遊びに来たわけではない。
一応ではあるが、修行しに来たのだ。
「渉! 毎晩8時には寝れば自然と5時に起きれるよ!」
「そうだな! 頑張るぞ!」
気合いを入れる渉。
「それでは、残り時間で掃除をするのじゃ」
「はぁい」
「はい!」
いつも通り掃除を始める。
リエルは不思議と頭がすっきりしている感覚になっていた。
なんかすごいすっきりした!
不思議だなぁ。
神様を強く感じる気がする。
ホノカは近く。
アメノは少し遠く感じる。
火の神であるホノカはこの神社に祭られているからであろう。
水の神は水場にいる為、遠く感じるのだろう。
夢中で掃除をしているとあっという間に昼になった。
「それでは、昼飯の準備をする。ワシの所では一緒に準備をすることとしている。よいな?」
「「はい!」」
キッチンに行き3人で台所に立つ。
「身体を作る事も修行の一環じゃ。サラダと煮物を作るからの。野菜を切るんじゃ」
「キャベツは千切りでいいの?」
「うむ。渉はそこの野菜を一口大に切るんじゃ」
「はい!」
渉は皮むき器にも四苦八苦。
なんとか皮をむくが、野菜を固定する事ができない。
「渉。獣の手だよ。こうやって丸めてきる」
ザクザクザク
キャベツを軽快に切っていく。
ここまで上達したのは、日々の鍛錬の賜物なのだ。
「うまいな……こうか?」
見よう見まねで手を丸めてストン、ストンと切っていく。
「上手だよ。僕も最初はそうだった。段々とできるようになるよ」
「そうだな。これから毎日やるんだもんな!」
うんうんと頷きながら切っていく。
切り終わると次はえんじいが煮込む。
えんじいに用意された器にサラダを盛り付け。
煮物とえんじいが着けた漬物を盛り付けていく。
えんじい作の味噌汁も盛って。
「それじゃ、運んで食べようかのぉ」
「はぁい」
「はい!」
いつものテーブルに行く。
「「「いただいます!」」」
昼食を食べる。
「えんじい、午後は何するの?」
「午後は聴聞という、神道や文化、精神伝統についての教えを聞くというものじゃな。まぁ、最初は眠くなるじゃろうが、頑張るんじゃ」
「うん! 僕は楽しそうだなと思うけど……」
そう言って横を見る。
渉は暗い目をしていた。
話を聞くというのが余程嫌なのだろう。
「まぁ、ワシの感じたこととか、経験とかを話したりするのが主じゃな」
「そうなら楽しそうだな!」
「ふふふっ。そうだね!」
ニカッと渉を見る。
渉もニカッとして笑顔で返す。
「食べたら少し休んで1時から開始じゃ!」
「「はい!」」
お昼ご飯を黙々と食べる。
食べることに意識を向け、しっかり食べていることを身体に実感させるのも修行のうちだ。
1時になり、聴聞が始まる。
「では、神道とは……」
ここから2時間ほどの修行であった。
結論から言うと渉は大半を寝ていた。
寝る度にバシーンッと警策される。
本来は坐禅の時にやる物だ。
あんまりに渉が寝るものだから。
叩かれまくっている。
「いててて……あんなに強く叩かなくても……」
「あっははは! えんじいの話面白かったじゃん! 何で寝ちゃうの? おかしいー! あははは!」
「リエルはすげぇよな? あの話を面白いだなんて……」
「んー。なんにも知らないから逆に面白いかな。こんな考えとか、文化があるんだなぁって」
「そうか?」
「そうだよ」
まだまだ、渉は修行が必要なようだ。
まだ初日。
これから段々と成長していくことだろう。
「今日はこれで終わりじゃ。風呂を掃除して沸かしておくようにのぉ」
「「はい!」」
2人で風呂を洗い、沸かす。
まぁ、ボタンひとつだが。
夕ご飯の準備も行い。
渉も少し慣れたようで、野菜を切る。
夕食を3人で食べる。
「初日はどうじゃった? 大体の流れが分かったかのぉ?」
「うん。わかった!」
「はい!」
「明日は5時起きじゃから、早く寝るようにのぉ。ここで2人で寝るが良い。ワシは隣で寝るからのぉ」
「「はい!」」
布団をえんじいの分まで準備する。
修行の身なので師匠の布団も敷くのだ。
布団を敷き終わるともう布団にはいる。
「渉。おやすみ」
「あぁ。こんな毎日を送るんだなぁ……」
「でもさ、心が洗われる気がしない? 僕は少ししか周りと関わってないけど、そんな気がする。渉もそう思わない?」
「俺は、まだそこまでいけてねぇ。疲れたなぁとか大変だなぁとか、何にも好きな事出来ねぇなぁとか、そんなことばっか考えてるよ」
「これまでの事を考えたらそうだろうね。でもさ、携帯とかテレビとかそういう多くの情報を1回断ち切ったら見えてくるものがあると思わない?」
「そうだなぁ。なんか自分の中で見えてくるものがあるといいな」
「初日だからね。これから見えてくるかもよ?」
「そうだな」
「うん。おやすみ」
「おう。おやすみ」
こうして修行の初日が終わったのだった。
初日だけでも2人とも成長したと思うのだ。
果たして、これから修行の身として何を為していくのか。
楽しみである。
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